コラム
2016/1/21(木)20:04
FC琉球「野心を刺激して躍進のきっかけに」【プレビュー】
『千と千尋の神隠し』が第75回アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞し、SMAPの『世界にひとつだけの花』が約210万枚のダブルミリオンを達成。そして横浜F・マリノスがJリーグ連覇を果たした2003年。FC琉球は沖縄県初のプロスポーツチームとして産声を上げた。
地域リーグ、JFLを経てJリーグに参入したのは、J3リーグが誕生した2014シーズンから。過去2シーズンはともに9位に終わり、昨季限りで薩川 了洋監督が退任。昨年までアカデミーダイレクター兼ジュニアユース監督を務めた金 鍾成氏が新しく監督に就任した。新監督は現役時代、朝鮮民主主義人民共和国代表としてFIFAワールドカップ イタリア大会のアジア予選に出場した経験を持ち、1995年にジュビロ磐田、1996年にはコンサドーレ札幌でプレー。現役を退いた2002年にはセレッソ大阪でヘッドコーチを務めた。母国の代表コーチも歴任した指揮官は「強気に攻めるサッカー」が信条。「J2に昇格したレノファ山口のようなサッカーが理想」と話すように、相手を波状攻撃で翻弄し、リスクを冒してでも強気に仕掛ける姿勢を選手たちに植えつけようとしている。
今季からGMに就任した李 済華氏が取り仕切ったチーム編成では大幅入れ替えを断行。昨シーズンから継続して在籍する選手はわずか8人となった。その中には9ゴールでチーム得点王となったMF田中 恵太と全試合先発出場を果たしたMF富所 悠、大卒ルーキーながら正GKに君臨した今野 太祐、マルチプレーヤーとしての才能を見せたDF才藤 龍治、李GMが國學院久我山高で監督を務めた当時の愛弟子で、スペインでのプレー経験も持つMF富樫 佑太など成長著しい若い選手が多く含まれる。また、新シーズンに向けての補強も高校・大学生が中心。李GMは「私が主軸として期待する8選手が残ったことは大きな収穫。戦力は十分に整った」とチーム編成に自信を見せる。
その一方で、昨季主将を務めたFW中山 悟志が16年間の現役生活に別れを告げ、最終ラインを統率したDF浦島 貴大がブラウブリッツ秋田に移籍。チームを支えてきた攻守のリーダーを失った事実もある。「若い選手が多いが、意識を高くして良い結果を残したい」と話す田中 恵太新主将の統率力が、上位浮上にかかせないポイントとなるだろう。
若い力の台頭ともにチーム躍進の鍵を握るのが外国籍選手の存在だ。シュートとポストワークを誇るFWパブロ、豊富な運動量を武器に複数ポジションでプレーできるMFフアン、そしてFWレオナルドのブラジル人3選手が加入した。また、J3を代表するGKとして評価される朴 一圭を藤枝MYFCから獲得。1対1の強さ、積極的に飛び出す判断力、そして守備範囲の広さで活躍した守護神は昨シーズンの天皇杯2回戦で清水エスパルスを4-2で破る下剋上にも貢献した。彼らが攻守の歯車としてチームにフィットすれば昨シーズン以上の成績が望めるはずだ。
「今シーズンの2位以内とJ2昇格が目標」と話す監督だが、Jリーグで初の采配となる。その意味で1月下旬に行われるスカパー!ニューイヤーカップの沖縄ラウンドは、選手・監督にとって貴重な実践の場となるだろう。琉球は24日のFC東京戦(国頭)を皮切りに、27日に東京ヴェルディ(西原)、30日には札幌(沖縄県陸)と、格上クラブとの対戦を控える。カテゴリーを超えた真剣勝負の場はリーグ開幕を前に調子と実力を測るバロメーターとなると同時に、若い選手にとって大きな経験値を得る絶好の舞台でもある。
「J3に入りたくてプロになった選手はいないはず。選手たちには今の立ち位置に満足してほしくない」(金監督)。格上との対戦で手応えをつかみ、選手それぞれが抱く野心を刺激して躍進のきっかけとなるのか。この大会への参加はチームにとっても選手にとっても劇薬である。