選手が練習を始める前、ピッチのあちこちにできた水たまりをなくそうと、スタッフやコーチ陣がトンボを使って水をかき出していた。振りつづける雨。縦に押されれば横に逃げ、分断されたかと思えばすぐに元の大きさに戻る変幻自在の敵。水たまりは一向に消えなかった。
一般的に「水は低きに流れ、人の心もまた低きに流れる」と言われている。しかし、練習が始まったあとも、隙があればトンボを握るスタッフの姿が見られた。監督が選手を集めて意図を伝え、確認している間は練習の進行が止まる。そのわずかな合間を見計らい、トンボで水をピッチの外に押し出し、水たまりを少しでも小さくしようと格闘する。いつの間にか雨脚はさらに強くなっていた。それでも、スタッフ・コーチ陣の動きは止まらなかった。
その行為に、どれだけの効果があったのかはわからない。しかし、その思いは感じられた。監督には監督の、選手には選手の役目があるなか、スタッフやコーチ陣も同じ目的で動いている。
チャンピオンシップまであと4日。監督から、選手の気持ちを鼓舞するような言葉は発せられていないという。しかし、選手はひしひしと感じていた。
「遠回しに『もう始まる』という声掛けは出てる。それはぼくら選手も感じていますし、スタッフも伝えてくれていると思います。そういうところでは一体感が出てきていると思います」
鹿島が一番の武器にしてきた“一体感”。それが練習のなかでも出てきたと、土居 聖真ははっきり口にしていた。
(取材・文・写真/田中 滋)