Jリーグの原 博実副理事長は14日、今季のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で、日本勢全チームがラウンド16で敗退したことを受け、メディアを前に今大会のプレー面の傾向について、データを基に説明を行った。
今回メディア説明に使用されたデータは、ACLに出場した日本、韓国、中国の全12クラブを対象にプレーデータを集計したもので、「出場した4クラブにも展開した」(原副理事長)というデータの一部となる。集計データは、日本はグループステージとラウンド16の全28試合から抽出し、韓国と中国は日本勢と対戦した試合(各10試合)から抽出された。試合数や対戦チームの部分で若干の偏りが出ている可能性もあるが、これらのデータからは日本勢の戦い方に見られるいくつかの共通する特徴が十分に見て取れた。
日本勢のプレー傾向は、主に以下の6つに表れた。
(1)プレー、パス、タックルの数は多いが、アタッキグサードでの割合は低い
(2)ファウル数が多く、被ファウル数が少ない
(3)空中戦の勝率が低い
(4)セットプレーからの被シュート数が多い
(5)ペナルティエリア脇・30m侵入回数は多いが、ペナルティエリアへの侵入回数は少ない
(6)ボールを奪ってからシュートへ至るまでの時間が長い
原副理事長も「試合を見て感じていたようなことが、データにもはっきりと表れていた」と語っており、印象を裏付ける確かなデータであることが分かる。
※画像をクリックして拡大
まず(1)に関しては、日本スタイルの典型と言えるものだろう。ボールを持つ時間は長いものの、危険なエリアでのプレー機会は少ない。「なかなかアタッキングサードでプレーできていない。では、どこでボールを回しているのかといえば、中盤や後ろであることが多い」と、原副理事長も日本の課題を指摘した。もちろん各チームのスタイルがあり、後方でのボール回しが一概に悪いとは言えないが、ゴールへ向かう意識は韓国や中国に比べて低いと言えるかもしれない。
※画像をクリックして拡大
(2)については「少し意外なデータだった」(原副理事長)。確かにポゼッションで勝る日本勢がファウルを受けやすい傾向にあるはずだが、実際には逆のデータが出ている。相手のスピードやフィジカルに圧倒され、無理な対応が増えているのかもしれない。
(3)は日本が抱える永遠のテーマだろう。韓国、中国勢がともに50%以上の勝率であるのに対し、日本は50%に到達せず、とりわけ自陣PA内の数値が低く、空中戦から失点を喫する危険性は高くなっている。
この課題について原副理事長は、「Jリーグではクロスが入ってくること自体が少ないと感じている。Kリーグの試合を見ていると、躊躇なくクロスを入れてくるし、ロングボールもどんどん蹴ってくるから、空中戦の場面は日本の倍以上はある(という印象)。また、ヘディングをやり合う機会が日本はスタイルとして少ない。これは少年サッカーから、そういう傾向にある。こういうシーンが多くならないとフォワードもディフェンスもなかなか経験を積めない」と、現状の問題点を指摘した。
(4)は(2)に紐づけられるテーマだ。ファウルが多ければ、セットプレーの回数が増える。そして、そのセットプレーからシュートまで持ち込まれる機会が多ければ、当然失点の危険性も高まる。その意味でファウルの数を減らすことも、重要なテーマとなる。
(5)は(1)と似ているが、最後の場面を崩せていないという課題は同じだろう。危険なエリア内へといかに侵入していくか。これも日本がアジアを勝ち進むための重要なテーマと言えそうだ。
(6)はスタイルにもよるが、奪ったボールを素早く前に運ぶサッカーは、現代サッカーのトレンドだ。原副理事長も「シンプルにフィニッシュまで持っていく能力がますます必要とされる時代になってきた。今夏のユーロでもコパアメリカでもそれは感じられたこと」と、世界的にも主流になっていることを明かしている。
こうしたデータを踏まえ、原副理事長は次のように今大会の日本勢の戦いを総括した。
「韓国や中国とすれば、日本にボールを持たれるのはさほど怖くないと思っているはず。持たせたうえで、ボールを奪えば、素早くシュートにまで持ち込んでいく。日本はファウルが多いので、リスタートからチャンスをつかめるという考えもあるだろうし、空中戦も強くないから、長いボールを蹴りやすい。実際にリスタートでやられる試合は多かったし、空中戦に競り負けてピンチを招く場面も多かった。それはデータ的にも表れていることだから、そこをいかに修正していくかが大きなテーマでしょう」
2007年にJリーグはJFAと共同で「ACLサポートプロジェクト」を立ち上げ、日程面や金銭面など、継続的にACL出場クラブを補佐してきたが、今回こうしたデータをクラブに提供するのは初めての試みだという。
「クラブ側が必要とするなら、こういうことはどんどん協力していきたい。ACLはJリーグと並行して進んでいく大会だから、なかなかスカウティングが難しい。でも、こういうデータを提供して相手の傾向が見えれば、クラブにとっても役に立つはず」(原副理事長)
2008年以来到達できていないアジアの頂きに向け、サポートプロジェクトはすでに動き出している。すでに出場4クラブの社長、強化部長を集めたミーティングも開催し、各クラブで挙がった問題点を集約した。また、原副理事長は、今季ACLで全チームが敗退した直後に中国を訪問し、ACLで対戦したクラブが国内でどのような戦いをし、日々どのような強化育成を行っているのか、その現場情報の調査を行った(※)。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」とはまさに中国から伝わった兵法の基本。原点に立ち返り、まずは徹底的に敗因を究明しようというのが今の日本の現在地となる。
※原 博実副理事長の中国訪問の模様を公開!(全4回予定)動画はこちら▼
「Jリーグ副理事長 原 博実が見た! 中国サッカーの現在」