――就任から間もないタイミングでAFCチャンピオンズリーグのプレーオフを迎えます。チーム作りの難しさはあると思いますが、始動からどんなテーマを掲げたのでしょうか。
「僕がFC東京の監督に就任することが発表されたのは(チームの)天皇杯終了後でまだACLプレーオフ出場は決まっていませんでしたが、自分としてはおそらく2月9日に公式戦を戦うことになるだろうとは思っていました。ただ、昨シーズン終盤はリーグ戦が終わったあと、少し期間が空いて天皇杯を戦う変則的なスケジュールでしたので、自分としては心の中で覚悟を固めてシミュレーションはしつつ、実際に始動して選手のコンディションを見てから具体的な計画を考えようと。そして1月13日のチーム始動日に予想以上にコンディションが良かったので、2月9日のプレーオフに向けたコンディション作りとチーム戦術の構築を同時に進められると感じました。やはりこの時期はまず、シーズンを戦い抜くためのコンディション作りに取り組まなければいけない。そうでなければ夏場を乗り切れないし、筋量を増やしたり肺を広げる作業は今しかできない。そういう意味でその部分においては順調です。当たり前ですが、この時期に公式戦を戦うのは初めての経験なので、まずはフィジカルを作りながら、何とか2月9日にチームとして機能させるための努力をしなければと考えています」
――短期間でコンディション作りと戦術浸透という二つの目標を掲げたわけですが、2月9日のチョンブリ戦に向けて、どんなものをチームに植え付けたいと考えているのでしょうか。
「まずはベースとなるものですね。もちろん選手たちには非常に高いものを要求していきますが、今はそのベースを擦り込みたいと思っています。具体的にお話しすると、アクションのポゼッションとはどういったものなのか、どういったサポートをすれば、その時間が長くなっていくのか、その中でどんなエネルギーを掛けないと得点が取れないのかということ。こういった部分は2月9日までずっとやり続けたいですし、もちろんそこで終わるのではなく、J1開幕の2月27日が目標でもなくて、年間を通じて擦り込んでいきたい。
こういったことをより高いレベルで自動的にできることを目標にしています。年末には意識しなくても動くようなオートマチック化を狙っていますが、それは1カ月や2カ月でできることではないので、この部分はすでにスタートしているとも言えます。みんなが意識しながら動くためには、そのためのフィジカル作りが必要ですから」
――2月9日のACLプレーオフは絶対に勝たなければいけない試合になります。そのために考えていることは?
「クラブの新体制発表でも言いましたが、2月9日は日本のプロサッカーシーンにおけるスタートの試合になります。ここで勢いをつけなければいけない。FC東京だけでなく、日本サッカー界にとっても大事な試合になると思います。試合に勝つためには当然ながら相手より得点が上回ることが必要です。もっと言えば失点をしないことで勝つ可能性は高まる。先ほど申し上げたように我々が目指す高みは先にありますが、この試合では失点しないことにかなり意識を高めて臨まなければと思っています」
――そこはリアリストに徹するというか、まず勝利するために焦点を合わせていくという考えなのでしょうか。
「守備はシーズンを戦う上で考えても重要なので、その意識は高めて入ります。ただ、守備意識にもいろいろな考え方があります。マイボールの時間が長ければ、相手に攻撃をさせていないことになる。リアリティの追求に関しては、ただペナルティエリアの中にこもってクリアするというイメージではないです」
――沖縄キャンプでは4-3-3と4-4-2システムを併用していました。選手の並び方と同時に組み合わせが重要になるかと思いますが、現時点で監督としてどんなところを気にかけていますか?
「もちろん組み合わせも大切ですが、その前にどのポジションで、そしてシステムの中でどの役割を与えると、その選手の特長を一番引き出してあげられるのかですね。時間が少ない中で試合中にシステムやポジションを変えながら、その選手のやりやすさや特長の出しやすさを見ています。もちろん試合には勝負が懸かってくるので、選手がやりやすくても負けてはいけない。そういう意味でアクションする時間の多いサッカーをするための組み合わせを、2月9日までに間に合わせる形で見極めたいと思っています」
――2010シーズン途中までチームを率いていた際の“Moving Football”から今シーズンはスローガンを“Action Football”としました。その真意を教えてください。
「これはシンボリックな言葉であって根本的な部分は変わらないですが、例えば試合中に12キロを走る中でどれだけ自分たちが主体性を持って動くことができるか。もちろん相手も必死なので、全部が主体的に動けるわけではありません。ただ、そのうち7キロがアクションであれば、自分たちが勝つ可能性が高まりますし、同じ距離を走っても疲れが全然違います。実は昨シーズンのJリーグでは走行距離と順位に相関関係はないんですが、我々は質を追求しながら量もあるチームになりたい。質を上げるには時間が必要ですし、少しずつ牛歩のごとく上げていくものだと思いますが、量は少なくとも今までのコンディションを見る限り、Jリーグでトップクラスを目指せる可能性を秘めている。これをより意味あるものにするために質を上げていく。それがアクションサッカーの実現につながるのかなと。アクションを目指して質を上げていく中で、ゲームを自分たちのものにするという高いモチベーションを持ち、なおかつ自分たちのサッカーを確信しながら高みを目指していかなければ成長はない。我々は最終的に頂点を目指すという目標を掲げていますが、成長するチームにならない限り、そこには手は届かないと思っていますから」
――今のチームを総合的に考えて、運動量以外にどんな武器があると見ていますか?
「これは間違いなく選手層だと思います。ここまで出場機会に恵まれていなかった選手の試合勘や試合中のスキル発揮については、もっともっと向上が必要だとは感じていますが、彼らが持っている可能性を考えたら、今のレギュラー陣をどんどん突き上げていく可能性は十分にありますし、そういうチームにしなければいけない。今シーズンはチーム内で高いレベルの競争がなされていくでしょうし、この選手層の厚さがFC東京の強みになってくるんじゃないかと思っています」
――城福さん自身も2010シーズン途中までFC東京を率いたあと、ヴァンフォーレ甲府で指揮を執り、解説者業を経て今回の就任になりました。甲府では限られた戦力の中でチームの力を最大限に引き出して結果を残しましたが、理想と現実のバランスはどのように考えているのでしょうか。FC東京の現状を踏まえると、城福さんの新しい監督像も出していけるのではないかと思いますが。
「監督業は特に限られた“イス”しかないわけで、その中で職に就くための条件は成長以外にないと思っています。“成長”とは自分が言うことではなく、外から見るものではありますが、成長し続けようとしない限り、監督業は続けられない。それくらい淘汰されていくポジションだと思っています。ただ、言えるのは、受け入れなければいけない状況や結果、うれしい成功体験など、いろいろな思いを抱きながら毎日を過ごしてきたということ。その中で僕の一番の原動力は悔しさだと思っています。『もう二度とあんな想いをしたくない』、『こんな試合をしたのに、この一発で沈んでしまうのか』など、悔しさを味わうことこそが成長につながる。もっと成長しなければ、まだまだ足りないという気持ちが次への原動力になってきました。今回、結果としてFC東京に戻ってきた状況になり、温かいサポーターの方には『お帰りなさい』と言っていただきましたが、僕は「ただいま」と言える心境でも立場でもないと思っています。ただ、このチームとともに優勝を目指すために来た。その一念でしかありません。勝つため、そして選手たちと一緒に頂点からの眺めを見るために来たわけです。それを目指そうとする強い想いのみで、あとは自分がやれることと今までの経験をぶつけながら、日々の悔しさをまた次の成長につなげながら前へ進んでいきたいですね」
――就任初年度でいきなりACLに臨むことになりました。改めてプレーオフへの決意と今シーズンに向けての意気込みをお願いします。
「僕は一試合一試合、次に向かって成長していき、それを材料にすることを大切にしてきました。とにかく目の前にある“This game”を大事にしていくことの繰り返しですし、それをより高いレベルのACLでできる。こんな幸せなことはありません。今シーズンはACLとJリーグで“This game”にこだわっていきます。厳しい日程ではありますが、このチームが大きく成長できるチャンスでもあります。そのためにもまず、2月9日のプレーオフを絶対に勝ち抜かなければならない。この試合の勝利は当然ながらマストです。しびれる90分にはなるとは思いますが、ファン・サポーターの皆さんと一緒に戦い、何としても本大会へ勝ち進みたい。そしてFC東京が日本代表の一チームとしてアジアで堂々と戦う姿をお見せしたいし、それが年末まで続くことは誰もが望むところだと思っています。Jリーグという日々の戦いを大事にしながら、ハードな日程の中でACLとの両立を乗り越えていきたい。そのためにはファン・サポーターの皆さんの応援が非常に大きな力になるので、ぜひ後押しをお願いしたいです。まずは2月9日に行われるチョンブリFCとのACLプレーオフ。この重要な“This game”に一戦必勝で臨みたいと思っています」
[文:青山 知雄]