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【レポート:クラブW杯 3位決定戦】逃げずに戦った者がつかんだ「世界3位」の栄光

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2015年12月21日(月) 12:39

【レポート:クラブW杯 3位決定戦】逃げずに戦った者がつかんだ「世界3位」の栄光

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【レポート:クラブW杯 3位決定戦】逃げずに戦った者がつかんだ「世界3位」の栄光
83分のドウグラスのゴールで逆転勝利。予讃規模で大きく劣る広島がアジア王者を撃破した

クラブワールドカップ最大の発見ともいうべき茶島 雄介が、鋭く曲がり落ちるキックをゴール前に。それだけでもう、広州恒大の守備は混乱していた。それまでに広島から受けた圧力か、あるいは3連戦の疲労か。いずれにしても、茶島のニアサイドへ向けたカーブボールは、アジア王者の「内臓」をえぐった。

水本 裕貴が飛び込む。瞬間、焦りからか、彼らはボールウオッチャーになった。ゴール前でバウンドしても触れない。飛び込んだ。誰だっ。ドウグラスだ。

デャンフレス・ドウグラス・シャガス・マトス。広島で大きく成長したアタッカーが、確信をもって飛び込んだ。ゲット! 70分、ついに同点!

予算総額約500億円のチームが、その10分の1にも届かない規模のチームに、圧倒されている。プロチームにおいて予算は強弱をわける大きな要素ではあるが、それだけで勝負が決まらない。そんなスポーツが持つ痛快さを、横浜の地で広島が見せつけようとしている。

塩谷 司が、青山 敏弘が、美しいロングボールを前線に供給する。その精密性は広島の大きな武器だ。そしてその終点には、浅野 拓磨がいた。走る、走る、若者は走る。だが、そのボールをゴールにつなげることができない。悔しさに吠えるジャガー。だが彼の走りは確実に、4万7000人近くを飲み込んだスタジアムを揺さぶった。

柏 好文が右サイドを破る。「カシにボールをつけろ」と森保 一監督に言わせるほどの絶対的な信頼。Jトップクラスの成功率を誇るドリブルは、アジア王者のダブルチームでのマークも、問題にしない。

78分、柏のクロス。浅野には合わない。が、その大外から紫の戦士が飛び込んだ。茶島だ。シュート。当たり損ねたボールが、コロコロと転がるもボールはわずかに枠の外。もはや、広州恒大はスタンディング・ダウン寸前の状態。ここで強烈なパンチをヒットさせれば、彼らはマットに崩れ落ちる。

83分、やはり柏だ。壮絶な身体の切れでDFを置き去り、クロス。飛び込んだ浅野、ヘッド。チャンピオンシップ第2戦、この形で優勝を決めた、あのシーンの再現か。バーだ。弾かれた。「でもドグさんがいる」。若者は確信した。ドウグラスがヘッドで押し込むことを。

ネットが揺れた。スタジアム中が沸き返った。広島サポーターだけではない。決勝のバルセロナ対リーベルプレートの試合を楽しみにして来た海外のファンも、広島の躍動感に満ちたダイナミックな攻撃に、自然と歓声と拍手を発露してくれた。

広州恒大は、確かに疲れていた。特に前線で驚異的な力を発揮してきたエウケソンとリカルド・グラルが共に「怪我によっての交代」(フェリペ監督)となったことは痛かった。ロビーニョも発熱のために試合出場が不可能となるなど、ブラジリアン・カルテットのうち3人がフル出場できなかったことが、アジア王者から迫力を欠いた要因だろう。

だが、疲労と怪我人であれば、広島も同じである。この試合でも、茶島をはじめとして丸谷 拓也、宮原 和也など、リーグ戦での実績に乏しい選手を森保監督は起用。12月だけで6試合目となるハードスケジュールと度重なる負傷者の穴を埋めるために総力戦を挑んだわけだが、若者たちが実によく働いた。

試合当初こそ、アジア王者の前にかかる圧力に屈し、セットプレーから先制弾も許してしまったが、そのあとは球際でも1対1でも決してひけをとらない。プレスをかけられても磨き上げた技術と組織的なパスワークでかわし、ペースを握り返した。抜け出されても諦めず、身体を寄せてシュートを打たせない。前半だけで佐藤 寿人が二度、丸谷拓也がひとつの決定的シュートを放ち、チャンスの山を築いた時には、エウケソンもグラルもピッチにいた。だがパウリーニョも含めて彼らに、本当の意味での決定的な仕事はさせなかった。過去、何度もJリーグ勢の前に立ちはだかってきた中国の巨大クラブに20本のシュートを浴びせ、内容・結果共に完勝。フェリペ監督に「全ての面で広島が上だった」と脱帽させ、「世界3位」の戴冠を受けた。

優勝したバルセロナ、準優勝のリーベルプレートと共に広島が3位の表彰を受ける。8年前のこの時期、J2降格のショックを受け絶望のみが頭を支配した。だが、それでも自分たちの道を歩み続けたことで、この日の栄光を迎えた。選手・クラブ・サポーター、全ての広島力の結集だ。

すぐ隣に世界一のチームが立っていた。1位と2位、そして3位。その間には見えない壁が存在する。それは歴史であり、文化であり、蓄積した伝統であり、現実的な予算でもある。だが、2007年12月の段階で、広島のクラブワールドカップ出場は夢以外の何ものでもなかった。世界一への夢を見ることは、現実逃避でもファンタジーでもなく、遠い先に存在するが求めていくべき目標。青山主将をはじめとする選手たちの誰もが、目標達成へのブレークスルーを信じて、厳しい日常へと戻っていくことだろう。

クラブワールドカップという祭りは終わった。僕たちにも現実が待っている。だが、その現実としっかりと向き合い、逃げずに戦っていく者こそが、祭りに参加し、星をつかむ権利を有する。サンフレッチェ広島の仲間たちが歩いた歴史の中で証明したひとつの事実である。

[文:中野 和也]

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