現実的にいえば、2点差以上の差をつけられて敗れなければ、広島の優勝が決まる。アウェイゴールを4点とられれば、1点差負けでも優勝できないが、そこまで失点して負ければ、優勝など語るのもおこがましいというものだ。
条件面でいえば、間違いなく広島有利。だが、サッカーは何が起きるか、わからない。それはこの明治安田生命2015Jリーグチャンピオンシップ決勝でも、準決勝でも、如実に証明されているではないか。
それに広島には、忘れたくても忘れられない過去がある。2014年ACLラウンド16・対ウェスタンシドニー戦。広島はホームでの初戦で3-1とリードしてアウェイに乗り込んだが、そこでウェスタンシドニーのパワープレーに撃沈。0-2で敗れ、アウェイゴールの差で敗退してしまったのだ。
もし、広島の選手たちが、優勝条件のことばかりを考えてしまい、「引き分けでもいい」「負けても1点差なら」という気持ちになったとしたら、逆転の危機が訪れる可能性が高い。昨年のACLで、選手たちの心に隙があったとは思わないが、しかし0-2から追いついた北京国安戦や内容で相手を圧倒したFCソウル戦のような「絶対勝利への切迫感」があったのかどうか。優位な状況は、無自覚に隙をつくってしまうものだ。
実際、広島での前日練習には100名を越す報道陣がズラリと並び、選手やスタッフたちを驚かせた。第1戦のテレビ視聴率は広島地区で平均22.6%。瞬間最高視聴率は30.8%。明日の入場券は全席種完売で、クラブは3万5000人を超える大観衆来場を予想している。サンフレッチェ広島というクラブに対する期待感が膨らむ中で、果たして浮き足立たないでプレーできるのか。中2日というフィットネスも気になるが、問題はメンタルのコンディショニングに尽きる。
もちろん、広島は過去、2度のリーグ優勝を果たし、天皇杯やJリーグヤマザキナビスコカップで何度も決勝を戦った。経験はある。だが、チャンピオンシップ決勝とは全く異次元の舞台だった。全てのサッカーファンがこの1試合を注視するわけで、注目度は比較にならない。プロ野球も相撲もないこの時期、日頃はサッカーも見ないスポーツファンもチャンピオンシップに興味を示す。そして実際、準決勝も決勝も、歴史的な死闘となった。特に水曜日の試合は10年に1度、あるかないかのドラマティックな展開だったわけで、試合後は広島を取材する報道陣ですら、たくさんの知り合いからメールやLINEでメッセージを受けたという。こんなことは、かつてなかった。
こういう状況で、いかにいつもどおりのサッカーができるか。いつもどおりのメンタルで試合に臨めるか。大敵はそこにある。
森保 一監督も、そこはわかっている。
「こうやってメディアのみなさんも含め、広島のみなさん、我々を応援してくださるみなさんが期待を持って、注目される中で試合ができるというのは、プロとしてこの上ない幸せなことです。選手には注目される中で試合のできる幸せ・喜びを持って楽しんで欲しい。
状況的には我々にとって有利な条件があると思いますが、条件やデータが勝たせてくれるわけではない。大切なのは、次の試合で我々が『この最後の1戦を、絶対にものにするんだ』という気持ちを持って戦うこと。どうやって結果を出すか。どうやって勝っていくか。これまで通り、まずは失点0を目指してやっていく。いい守備からいい攻撃につなげてチャンスをつくり、得点を奪う。レギュラーシーズンで結果を出したとおりに考えたい。
後はチャンピオンシップ第1戦で選手が示してくれた通り、想定どおりにならなかった時、どうやって反発力を見せられるか。修正能力を出せるか。継続力を出せるか、ということ。失点0で終わることが目標ですが、点を取られれば点を取り返せばいい。自分たちの考え以外のことが起こった時の対応能力は、我々には身についているはずです」
今季のJ1は、明日のチャンピオンシップ決勝を以て、終幕する。そのフィナーレにふさわしい激闘を期待したい。どういう結果になったとしても、選手たちがやりきったと心から言える熱いゲームになると確信している。広島もG大阪も、見ている人の気持ちを揺さぶり、魂を揺り動かし、情熱を喚起させる力を持つチームなのだから。
[文:中野 和也]