31日、2015Jリーグヤマザキナビスコカップ 決勝 鹿島アントラーズと対戦するガンバ大阪。G大阪でも数多くの大舞台を経験してきた遠藤 保仁選手。目前に迫った一戦について語りました。
――昨年に続き4度目となるナビスコカップ決勝の舞台が10月31日に迫りました。
「楽しみですね。どの大会もファイナルという舞台には独特の雰囲気と緊張感があるものですが、今回の決勝戦もガンバ大阪らしく、自分らしく、楽しみたいと思っています」
――遠藤選手ご自身は、そうした決戦の舞台にもいつも平常心で臨まれているように思いますが。
「過剰に緊張したところでプラスの効果があるとは思わないですからね。もちろん、どの試合も同じように勝ちたいという気持ちは強く持って臨んでいますが、一方で勝負は常にフィフティフィフティだという思いもある。だからこそ過剰に意気込むこともなければ、目の前のタイトルに執着することもない。『勝てばラッキーだな』というくらいの気持ちで勝負に向き合うからこそ、試合によって気持ちの揺れや波が少ないのかも知れません。と言うと、誤解されそうですが、僕だってタイトルは欲しいんですよ(笑)。欲しいからこそ、最高の準備もする。その上で試合当日は、他の試合と同様に、目の前の試合を楽しむことに専念します。それができれば、結果に対して後悔することもないので」
――大舞台になるほど力が入る選手も多いなか、その平常心がプレーの波を最小限に留めている、と。
「1試合を通して、100%、パーフェクトなプレーを出し続けることなんてどんなスーパースターにも不可能ですからね。試合自体もそうであるように、個人としても『いい時間』と『悪い時間』はきっとある。僕だってそれはありますしね。もちろん、選手として普段の練習から、また、試合の中で波を少なくするための努力は必要なんですが、相手もあってのスポーツだし、サッカーは自分一人でプレーする訳ではないですから。いろんな状況によって波が生まれてしまうことだってある。それによってピンチにさらされることが増えることもありますが、ピンチはピンチで受け止めればいい。
よく『ピンチの先にはチャンスが待っている』っていう人もいるけど、それは結果的に『チャンス』を手に入れたから言えるだけの話で、本来、ピンチはピンチだと思うんです。実際、サッカーはピンチの連続だけで試合が終わってしまうことだってある。だからこそ、僕はピンチはピンチだなと受け止めてその時を過ごします。『ピンチの先にチャンスがあるから、頑張ろう』とか『我慢の時間帯を乗り越えれば、自分たちの時間がくる』なんて思ったことがない(笑)。ただし、待っていてもチャンスはこないからこそ、チャンスを作るための努力もするし、プレーの変化も求める。試合も、サッカー人生もその繰り返しのような気がします」
――対戦相手は鹿島に決まりました。今年はすでに2度リーグ戦で対戦していますが印象を聞かせてください。
「Jリーグの中でももっとも粘り強く、したたかなプレーをできるチームだな、と。それが満男(小笠原)をはじめとするベテラン選手の存在によるものなのかどうかはわからないけど、伝統的に鹿島はそういった勝負に勝つための力を備えているチームだと思います。特に大事な試合、大舞台であるほど、そうした力を発揮できるチームですからね。先制点を許すと余計に展開が難しくなると思うので、そこはチームとして共通理解を持って入りたい。といっても、それで先に取られたら、逆転すればいいだけの話なのですが」
――今季のリーグ戦での対戦はいずれも先手を取った戦いで勝利を引き寄せています。ホームの試合では遠藤選手もPKで追加点を決めています。
「あ…そう言えば、取りましたね。忘れていました(笑)。PK……でしたよね?うん、取った気がします……」
――過去のことはあまり記憶にないのでしょうか(笑)?
「いや、そうでもないけど、かといって細かくは覚えてないです(笑)。過去は過去だし、過去のデータが今の参考になるわけでもない。相手も、メンバーも違うと考えれば、同じ試合になるはずもないですしね。ただ、セットプレーで取れれば、チームとしても楽になるとは思うので、チャンスがあれば狙いたいと思います」
――大舞台に強い遠藤選手だけに、ゴールの気配が漂っているのではないですか?
「いや、そうでもないです(笑)。直接FKに関しては狙える距離なら狙おうとは思いますが、距離がある場合は、その場その場の雰囲気次第ですからね。練習したらとか、たくさん蹴ったら、で入るものではないし、それは逆も同じですから。どんなに対策しても、ものすごい精度の高さで合わされたら、こっちは手も足も出ない。そう考えても大事なのはその場その場の空気を感じ取って、状況に適した判断をすること。それにFKで取れれば確かに楽だけど、本来ならそれに頼らないのが一番ですから。自分たちの流れに持ち込んで、自分たちらしく流れの中からゴールを取るのが理想です」
――ここまでのナビスコカップの戦いにおいてチームが手にした『財産』を挙げるなら?
「4試合とも日本代表選手が不在だったり、スケジュール的にも厳しい戦いを続けてきながらも、チームとしての質を落とさずに戦えたこと。若い選手もたくさん出場しましたが、ナビスコカップに限らずシーズンを通して、試合に出ている選手も、そうでない選手も同じ温度で準備をし、チーム力を高める努力を続けてこられたからこそ、質が落ちなかったと考えても、それは大きな財産だったと思っています。またACL等でもホーム&アウェイの戦いを経験してきた中で、ファーストレグに共通理解を持って戦えたのも大きかった。2試合ともセカンドレグに可能性を残せる戦いをできたことが、結果的に決勝進出のキーになったと思います」
――昨年はこのナビスコカップを制したことが、『三冠』に繋がりました。そういう意味でも、このナビスコカップを後の戦いに向けての勢いにしたいという考えはありますか?
「今年最初のビッグタイトル獲得のチャンスですからね。獲るのと獲らないのとでは違うって気持ちもゼロではないけど、本当はそういうことでチーム力が影響したらダメだという考えの方が強いです。さっきも言ったように、また、昨年もそうであったように、どの試合も同じ温度で向き合えてこそ結果が出せるはずだから。昨年の『三冠』も最初から狙って獲れたものではないですしね。一戦一戦、目の前の試合に集中して戦ってきた結果として、そこにたどり着いた。そう考えても、あまり力まず『決勝だから、いいところを出そう』なんて背伸びはせず、自分たちがこれまでやってきたことを素直に出し切る決勝戦になればいいなと思っています」
[ 文:高村 美砂 ]