日本サッカー協会(JFA)は27日、高円宮記念JFA夢フィールドで2023年の「第1回JFAレフェリーブリーフィング」を開催した。
今回のブリーフィングで重要なテーマとなったのが、「VAR“3Dオフサイドライン”」について。昨季までは2Dラインを使ってVAR判定が行われていたが、今季のJリーグでは、明治安田生命J1リーグ全試合、ルヴァンカップのノックアウトステージなど全320試合で、3Dラインを採用する。3Dラインはすでに欧州主要リーグなどで導入されており、Jリーグも“世界基準”にならう形となった。2月11日に開催されるFUJIFILM SUPER CUP 2023で初運用される。
選手のポジションや体勢を立体的に捉えられる3Dラインは、これまでの2Dラインよりも、より正確な判定が可能となる一方、作業工程が増えることから、判定までの時間が長くなることが想定されている。
今回のブリーフィングでは、3Dライン運用のシミュレーションが報道陣に公開された。
3Dライン導入後のVAR判定は、次の6つの手順を踏むことになる。
①Point of contactの確定
②2Dラインで確認
③3Dラインへ切り替え
④3Dラインを引く(守備側競技者)
⑤3Dラインを引く(攻撃側競技者)
⑥Confirmする
①は攻撃側がパスを出した(ボールを蹴った)瞬間を確定。②は2Dラインによって、最終ラインがどこにあるかをチェックする。②の段階で明確にオフサイド判定ができれば、⑥のConfirm(確定)の手順となるため、これまでと同様の流れとなる。
しかし②の段階で判断が困難な場合は、③へと移行。そしてまず④の守備側競技者にラインを合わせ、⑤の攻撃側競技者のラインを確定させる。これでどちらがゴールラインに近い位置にいるかを決定し、オンサイドかオフサイドかを決定することになる。
つまり、2Dラインと比べ3つの工程が増えることから、その分、判定までに時間を要することとなる。
なお3Dラインの導入にあたって、オフサイドラインを投影できるカメラの数は2台から5台に増加される。これまでは「16メートルカメラ」と呼ばれるゴールラインから16メートルの位置に配置されるカメラがそれぞれのエリアに配置されていたが、今季よりこの2つに加え、センターラインと両ゴールラインのカメラでも投影が可能なる。
3Dラインの特徴は、これまでは確認できなかった空中の位置まで把握できること。これまではピッチの接地面でしかラインを設定できなかったが、例えば肩やお尻の位置でもラインを合わせられることになるため、より正確な判定が可能となる。
3Dラインを引く作業で重要となるのは、身体のどの部位が最もゴールラインに近いところにあるかだ。足なのか、肩なのか、腰なのか。そこをVARが判断し、オペレーターに伝達。オペレーターがある程度の位置までラインを引き、最終的にラインを定めるのはVARの役割となる。これを守備側、攻撃側と繰り返し、2本のラインを確定。これによりどちらのラインがゴールラインに近いかによって、オフサイドかオンサイドかが決定される。
なおシステム上、攻撃側のラインは赤、守備側のラインは青で表示され、赤のほうがゴールラインに近ければオフサイド、青のほうがゴールラインに近ければオンサイドとなる。注意が必要なのはユニホームの色で、例えば浦和(赤)と横浜FM(青)が対戦した場合でも、横浜FMが攻撃側であれば赤のラインで表示されることになる。
この日のシミュレーションは、ヨーロッパサッカーの映像を用いて行われ、オフサイドの確定までにおよそ1分30秒程度の時間を要した。
VARを担当した木村博之氏は、「ポイントオブコンタクトのタイミングによってオフサイドラインがずれてしまう。それによって本来はフィールドの判定が正しいのに、VARによって間違った判定に変わってしまう可能性が十分にあるなかで、VARとしてまずはそこを間違わないようにということを心がけています。そのうえで、いくつも判断しなければいけないところがあります。3Dラインを引くだけでもどこの位置に引くのか、誰が最終ラインなのか。それらを見極めたうえで、作業を進めていく必要があるのですが、正確な判断が求められるなかでスピードも求められてくる。手順のところをいかに明確にして、スムーズに進めていくことで少しでもチェックの時間を短くできるということは我々も認識しているので、そのあたりはシミュレーターのトレーニングの時に意識してやっています」と話した。
ただ、実際の現場では、より責任や重圧がかかるなかで作業をこなさなければいけない。木村氏は「今日は、あのビデオクリップを何回も見て練習しているので、1分30秒程度の時間に留まりました。もちろん、プレッシャーもありません。でも実際の試合で自分が見たものによって判定が変わる。それが間違っているというのは絶対にあってはいけないことなのでプレッシャーはかかりますし、丁寧に作業しなければいけないという考えになるので、もう少し時間がかかってしまうだろうというのが正直な気持ちです。もちろんトレーニングを積んで、我々のスキルがアップすることで短くできるということも当然あると思うので、実際の現場を強く意識しながらやっていきたいなと思っています」と、意気込みを語っている。
昨季限りで現役を退き、現在はVARの指導を行う佐藤隆治氏は「昨年末から手順を覚えるところから始め、(シミュレーションを)やる回数によって右肩上がりで上手くなっています。確実に早くなっていますが、リアルのゲームとは違うので、開幕したら緊張することもあるでしょう。時間はある程度、許容していただければと思います」と理解を求めた。
また、もう一つポイントとなるのが、3Dを使用する判断だ。佐藤氏は「ラインを引けるカメラが増えるので、より精度が上がります。判定を変えなければいけないプレッシャーがあるなかで、3Dを使いたいというマインドになると思いますが、2Dで確認ができるものは2D、アバウトなら3D、その判断までの時間は詰めていきたい」と話した。
懸念となるのは、ポイントオブコンタクトの確定やオフサイドラインの設定の基準の統一性となる。そこは人の作業となるため、VARの判断によって差異が生まれる可能性がある。
佐藤氏は「モニターの中でどこにラインを引くのか。最後は主観が入ってくると思うので、それを完全に統一するのは限界があります。ただいくら主観だからと言って、その幅が広がれば、正しさという部分を保証できなくなる。そこはトレーニングをしていくしかない。全体のレベルを上げていく。誰がやっても基準を保つ。平均点を上げていくには、繰り返しやっていくしかないですね」と話した。
新たなテクノロジーの導入によって、より確かな判定が担保される一方で、判定までの時間が長くなれば、見る側にも、プレーする側にも不満が生じかねない。正確かつ迅速な対応が求められる一方で、新たな試みには困難が生じるのも事実であり、そこを理解する必要もあるだろう。
またこの日は2023シーズンのプロフェッショナルレフェリー(PR)が紹介された。
PR主審は、西村雄一氏ら13人が更新し、PR副審も聳城巧氏ら3名が更新。一方、PR主審には谷本涼氏、PR副審には渡辺康太氏が新たに加わった。
ともに33歳と若い2人は、次のように抱負を語っている。
「昨年から私は国際主審として登録していただいています。Jリーグの担当審判員としても、国際審判員としてもまだまだ経験が浅いので、しっかりと研鑽して自分の能力を高めていきたいと思っています、これまで諸先輩方が築いてくださったものをしっかりと継続し、さらに高められるよう自分自身を律して頑張っていきたいと思っていますので、皆様どうぞよろしくお願いします」(谷本氏)
「まず初めにこれまでの私を支えてくださったすべての方に感謝を申し上げたいと思います、今後はこれまで以上にサッカー、審判に真摯に向き合い、日本サッカー発展のために自分ができることを精一杯、全力で取り組んでいきたいと思います。よろしくお願いします」(渡辺氏)
その他、「2023Jリーグレフェリングスタンダード」についての説明もあった。「競技者の安全を守る」「得点または決定的な得点の機会の阻止」「ハンドの反則」「オフサイド」「ベンチマナー」の5つのトピックスが重点事項として取り上げられている。
最後にJFA審判マネジャー・Jリーグ担当統括を務める東城穣氏が、審判員を代表して次のように抱負を語っている。
「3Dが入るということで、我々にとっても大きなチャレンジです。VARが入った時もそうですけど、それと同じくらいのものだと思っています。フィールド上の判定がまず大事であり、その質を上げていこうということがあってのことですが、フィールド上の4人、VAR/AVARの2人、そしてリプレーオペレーター(※VAR/AVARの隣で映像を操作する担当)の方も含め、ワンチームとして今シーズンもそれぞれの試合でやって行こうと思います。今シーズンもぜひよろしくお願いします」
間もなく開幕する2023シーズンのJリーグ。3Dという新たな試みを行うことで、これまでとは異なる状況が生まれてくるだろう。そのなかで、見る側も、プレーする側も、レフェリーへの最大限のリスペクトが求められてくるはずだ。