川崎フロンターレは、8月10日(水)、2022JリーグYBCルヴァンカップ プライムステージ 準々決勝 第2戦 川崎フロンターレvs.セレッソ大阪 戦において、発達障がいの子どもたちへの取り組み『2022えがお共創プロジェクト』を実施しました。
今回は当日のレポートを掲載します。多様性について考えていただけるきっかけになりましたら嬉しいです。
主催は川崎フロンターレ、共催は川崎市とJTB、全日本空輸、富士通、世界文化ワンダークリエイト。障がい者向けの玩具やトレーニング用品を販売するコス・インターナショナルには今年も協力の形で携わっていただき、行政と企業による連携によって実施されました。
本取り組みは、2019年から継続的に実施している取組で、発達障がいの子ども達にスタジアムでサッカー観戦をする機会を提供しようということで、『えがお共創プロジェクト』を立ち上げ、公式戦が行われる等々力陸上競技場に、センサリールーム(感覚過敏等に配慮した施設)を設置し、サッカー観戦と翌日の麻生グランドでのサッカー体験を実施した企画からスタートしています。※2020Jリーグシャレン!アウォーズにて「Jリーグチェアマン特別賞」を受賞した取り組みです
4回目の実施となる今年は、川崎市および市外に在住の感覚過敏などにより外出やサッカー観戦が困難なお子さまとご家族を対象に、等々力陸上競技場内に特設のセンサリールームを作成し、そこで観戦いただく場を創出しました。コロナウイルスの影響もあり、等々力のホームゲーム時での開催は2019年以来となります。
当日、ホームスタジアムの等々力陸上競技場には事前募集をした17組46名のご家族にご参加いただきました。
キックオフ1時間前の午後18時、現地集合組と、ご家族を乗せたバス組がスタジアムへ到着。バスの車中では川崎フロンターレサポーターによる応援のレクチャーが実施されました。
子どもたちが不安にならないようにと、富士通のVRソリューションを活用して開発された「でじふろサンロクマル」が展開され、事前に等々力陸上競技場や選手バスの中などを自由に探索することを可能としました。※Googleストリートビューのようであり、実際にそこにいるような体験ができます。(のちに出てきますが、どうなるか想像がつかない場所へは恐怖心などからなかなか行きたがらず、外へ出向くのが困難な子どももいます。そんな子どもたちの恐怖心を少しでも和らげるため、事前に等々力陸上競技場がどんな場所か、というのをリアルに目で見て感じられる体験は、子どもたちにとっては今回の取組に対する“安心”に繋がる施策となっていたことは間違いなく、とても重要なことだと考えます)
スタジアムへ到着した後は、検温と消毒をし、ウォーミングアップに出てくる選手のお出迎えをピッチ上で行いました。その前に、全日本空輸のスタッフが担当する受付にて応援ボードを作成。みんな思い思いにメッセージを書いていました。
こんなに近距離で子どもたちのヒーローである選手達と会うことが出来、きっと子どもたちには忘れることのできない思い出になったのではないでしょうか。また、喜んでいたのは子どもたちだけではありません。一緒にいるお父さんやお母さんもとびっきりの笑顔で選手たちのお出迎えをしていました。あるお母さんは「大変なことは多いけれど、息子のおかげでこんな体験を家族みんなですることが出来てとても嬉しいし、貴重な1日になりそう」と笑顔でお話をしてくださいました。
選手お出迎えをした後は6階のテラスシートへ移動です。 移動するエレベーターの順番待ちをしている間にも、スタッフの皆さんが子どもたちに「何を食べてもいいし、何をして遊んでもいいし、おトイレにもいつ行ってもいいよー!」と、優しく声をかけていました。
通常、リーグ戦ではVIPラウンジとして活用しているスペースを「センサリールーム」として活用。発達障がいには様々な個性があり、大きな音や強い光が苦手な感覚過敏を生じる場合があります。センサリールームは、そんな個性をもった子どもたちでも落ち着いて観戦ができるよう、様々な配慮がされています。(応援の手拍子等大きな音があっても大丈夫な子どもたちは、ラウンジを出た屋外の席にて観戦をしました)
例えば、スヌーズレン機器を設置したカームダウンスペース
※「スヌーズレン」という言葉は、オランダ語の「スヌッフレン(くんくんと匂いを嗅いだり、辺りを散策する様子)」と「ドゥーズレン(うとうとする、くつろぎ等気持ちがいい様子)」という二つの言葉から出来た造語と言われています。
※「カームダウンスペース」
発達障がい、知的障がい、精神障がいなどの障がいをお持ちの方が、外部の音や視線を遮断することにより気持ちを落ち着かせて、パニックを防ぐためのスペース
スヌーズレンは、障がいのある子どもたち自身が、“自分自身の時間を自分自身の選択で”活動できる場を提供することによって、生活の質を高めたり、落ち着きを取り戻したりすることを目的としています。この環境があることにより、サッカーの試合中約2時間、ずっと座席にいて疲れてしまう、動き出したくなってしまうということを最小限に抑え、リラックスできる環境(室内の刺激と人の関わり方)で、試合中の時間を無理なく過ごすことが可能となります。
同スペースにはキラキラするおもちゃや心地よい振動を与えてくれるクッション、オブジェが設置されていました。また、塗り絵や「きもち日記」という絵日記のような、視覚的に自分の気持ちや経験を5W1Hで表現できるものも準備されていて、試合を観ながら合間に色々なことを挟むことで、それぞれ自分のペースで無理なく約2時間を過ごすことが出来ていました。
その他、えがお共創プロジェクトが実施された当該試合では、スタジアムビジョンでの選手表記はひらがなにし、参加してくれた子ども達に配慮された取り組みを実施。
ハーフタイムには、マスコットのカブレラと記念撮影。撮影をしてくれた子にはカブレラのサイン入りトレカが手渡され、子どもたちは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら大喜びでした。
試合後はお土産をもらって「これもらっていいの?持って帰っていいの??」と、スタッフさんから受け取りながら心配そうに聞いていた子も「いいよー!楽しかった??またきてねー!」と返事が返ってくると、とても嬉しそうに「ありがとー!うん!また!また!!」と、受け取ったお土産をぎゅっと抱えて嬉しそうに帰っていきました。
嬉しそうにしていたのは子どもたちだけではありません。今回が2回目の参加だったというお母さんは、「前回参加させていただいた時は1回目だったから、どんな場所なのか想像ができない場所へは子どもが行きたがらなくて少し大変だったけれど、今回は一度行った場所だよ、こういうところに行って、一緒にサッカー見ようね、と写真を見せたり、出来るだけ不安を取り払って今日を迎えました。私はサッカーが好きだけど簡単には来れないですからね..。トイレだって、簡単には行けないですし、かといって優先させてもらうわけにもいかないし。でもここならいつでも行けるし、助けてくれる方々もたくさんいる。こんなに設備を整えていただいて、安心して過ごせる環境でこうして子どもと一緒にサッカーを観ることが出来て、本当に有難いですし、今日当選してこの場に来ることが出来て、本当に嬉しいです。次回もあったらまた参加したいです。でも・・この取り組みがどんどん有名になったら通常のチケット同様になかなかチケットが取れなくなっちゃうかもしれないからそこはちょっと..!(笑)」と笑顔でお話してくださいました。他にも、「こうやって子どもが安心して過ごせる場所だからこそ、普段はゆっくり夫婦で話をする機会が作りづらいけど、今日は子どもを遊ばせながら夫婦で話をすることが出来た」と話してくださったご家族もいらっしゃいました。
今回の実施にあたり、様々な調整や連携が必要だったことは間違いなく、チケットに関しても半年くらい前からチケットグループと調整をし、行政や企業とも連携しながら当該企画を前に進めてきた担当者である川崎フロンターレのタウンコミュニケーション事業部 プロモーション担当の田代さんは、「一番の目的はフロンターレのサッカーやイベント、色々なことを仕込んでいるので、年齢や性別や個性関係なく全ての方に楽しんでいただく事が目的。だから正直それ以上でもそれ以下でもないです。」と仰っていました。
試合もVIP用の施設で見せたかったわけではなく、ただ単に環境が整っているのがここしかなかったのでここを使用しているだけですし、正直収益にはならないし、もし「それなのに何でやるの?」と聞かれると正直難しい。だけど、やったほうがいいのは満場一致で間違いなく、協働者の方々皆さん思っていると思いますが、担当者の「想い」がないと続かないですよね。僕自身も、一緒に前に向かって進んでくれる皆さんがいるから頑張れるし、この企画が成り立っていると思っています。あとはリーグから強制感を持たせて実施するのではなく「クラブ」が自発的に実施するのが大事だと思っていて。だからこそ、選手のお出迎えとかっていう案も出てくると思うし、クラブ毎に出てくるアイディアも違って、色んな形で実施が出来ると思うんです。フロンターレは各部門に想いの強いスタッフが多いからやりやすいのもあるかもしれませんが、、とにかくきれいごとでは成り立たないです。みんなの想いがあって、こうやって子どもたちの笑顔や親御さんの笑顔も見れて。だから続けていけるんじゃないですかね。サッカーだったら、フロンターレだったら、こんな楽しい体験ができますよ、っていうことを感じてもらえたら嬉しいです。」
とにかく、担当者のパッションと巻き込む力。それが継続的に企画を実施出来て、関わる人たち全てを笑顔に出来る理由だと強く語ってくださいました。人が人を動かす。携わるにあたってのモチベーションは何でも良くて、ニュースになることがモチベーションでも社内で褒められることでもなんでも。
「ただ、それらを羅列していった中でアウトプットがみんな同じ方向且つ良い方向に向かっていけばそれでいいのではないでしょうか。ただやりたいって人はきっといないです。僕はこのメンバーだから大変でも頑張れます。それが僕のモチベーションです」
きっと田代さんのこの熱い思いが協働者の方々の心も動かし、今回の企画を成功に導いたのでしょう。
最近では、センサリールームがスタジアム内に常設されたクラブ(セレッソ大阪)が出て来たり、感覚過敏だけではなく様々な障がいのある方など、可能な限りあらゆるお客様をお迎えできる部屋を設置しているクラブ(東京ヴェルディ)があったり、今後建設される新スタジアムに常設される予定となっていたりと、Jリーグシャレン!活動の一環としてSDGsの基本的な考えである「誰一人取り残さない」を実現しつつあります。
発達障がいのお子さんにサッカーを楽しんでいただくことはもちろん、ご家族含め関わる人たちみんながスポーツ/サッカーを通じてハッピーになり、積極的に各社、地域、サポーターのみなさんと協力していくことで、「発達障がい」を持つ子どもたちが沢山いるということを知っていただき、また、伝えていくこともJクラブ、Jリーグの使命だと感じました。
今回は川崎フロンターレの取組をご紹介しました。今後この活動が横展開されていき、多くのクラブで同じように実施されていく未来を、スタジアムに今よりももっと多くの笑顔が生まれる未来を、これからを生きる子どもたちのために創っていけたらと思います。