6月の明治安田生命Jリーグ KONAMI月間MVP(J1)に選出されたヴィッセル神戸の古橋 亨梧。今やエースの風格を漂わせるストライカーは、どのように進化を遂げてきたのか。自身のこだわりやマイルールを明かしてもらいながら、好調の要因に迫った。
――まずは6月の月間MVP受賞の感想をお聞かせください。
「率直に嬉しいです。ただ自分だけの力ではなく、チームメイトの支えがあるからこそ、僕は点を取れているので、みんなに感謝したいですね。もちろん、応援してくれるファン・サポーターの皆様にも、ありがとうございますと伝えたいです」
――2試合で4得点を奪ったご自身の6月のパフォーマンスを振り返ると?
「今季はより点を取ることを意識してプレーしているので、それが結果につながってすごく良かったなと思います。調子自体もまだまだ上がってきているので、もっと点が取れるとも思っています。まだミスが多いですし、できないことも多いですけど、それはこれから成長できる部分でもあると思っているので、もっともっと努力して、チームに少しでも恩返しできるように頑張っていきたいです」
第19節の横浜FC戦でハットトリックを達成するなど、6月は2試合で4ゴールをマークした
――ここからは、ご自身のこだわりや、マイルールについて聞かせて下さい。まず、試合前のルーティーンはありますか?
「ここ数試合の流れなんですが、まず移動のバスの中では、海外のゴール集の映像を観ています。ルイス・スアレス選手や、ペドロ・ロドリゲス選手のゴール集を観て、モチベーションを上げていますね。スタジアムに着きそうになったら、音楽を聴き始めて、そのままスタジアムに入ります。あと、試合前のあいさつをした後にみんながボールを蹴っている間、僕はタッチラインに座って、『今日もここでサッカーをさせていただいてありがとうございます』と、心の中で手を合わせながら感謝の気持ちを伝えるようにしています。そうやって気持ちを整理して、試合に入っていますね」
――それは今年に入ってからやるようになったルーティーンですか?
「好きな曲を聴くのは前からやっていましたけど、映像を観るようになったのは最近のことです。感謝の気持ちを伝えるようになったのは、今年に入ってからですね」
――なにかきっかけがあったんですか?
「やっぱりこういうご時世の中でもサッカーができるのは、たくさんの人の協力があるからこそ。健康な身体でプレーできているのは親のおかげですし、点が取れるのはチームメイトのおかげ。いろんな人の支えがあるからこそ、僕はこうやってプレーできている。その感謝の気持ちを忘れないように、今年からやるようになりました」
――なるほど。ちなみに、スタジアムに入る時に聴いているのはどんな曲ですか?
「日によって違うんですけど、清水 翔太さんだったり、LiSAだったり、菅田 将暉さんの曲も聞いたりします。どちらかというと、落ち着いた曲が多いですね」
――では、食事に対するこだわりはありますか?
「試合の前日は、牛肉をたくさん摂りますね。試合前の軽食は、辛い物がいいと聞いたので、うどんに七味を多めにかけて食べることが多いです」
――食事には普段から気を使っていますか?
「栄養管理は、去年のコロナ自粛の時から意識するようになりました。特に今までは避けていた野菜を多めに摂るようにしています。プロになった時から意識していた部分でしたけど、もっと野菜の量を増やさないといけないと言われたので、今は心がけて食べています」
――コンディショニングで意識していることは?
「特にないんですけど、逆に筋トレをしないというこだわりはあります」
――それは、なぜ?
「もちろん、筋トレも必要だと思いますし、チームで決められたメニューはやっています。ただ、パーソナルでやることはないです。やっぱり、サッカーは技術が一番重要だと思っていますし、僕の場合は他に磨くところがまだまだあると思っていますから。パワーで押しつぶされるのであれば、触れられないポジショニングを取ったり、身体を上手く使えばいいだけ。そこにパワーはいらないと思っています。だから、筋トレはしません」
――プライベートでのこだわりはありますか?
「今はとにかく家から出ないですね。このご時世なので、家から出ずに、映画を観たり、ドラマを観たり、ゲームをしたりしています。コロナの前は、よくお寺に行ったり、神社に行ったりしていました。そういうスポットを回って、きれいな空気を吸うのが好きでした。パワーを感じますし、癒されますからね」
――ベスト神社はどこですか?
「伊勢神宮は良かったですね。すごく落ち着きましたし、空気がおいしかったので、いいところだなと思いました」
――神社仏閣巡りは、昔から好きだったんですか?
「きっかけは、岐阜にいた時です。1年目の夏に、ちょっと切羽詰まった時期がありまして。その時に親に勧められて行ったのが最初でした。その神社は山の中にあったんですけど、猛暑日だったにも関わらず、涼しくて、空気もおいしくて、何時間でもいられるなというくらい落ち着いた場所だったんです。そこからですね、はまったのは」
――チームメイトとのコミュニケーションで意識していることはありますか?
「どちらかというと口数は少ないほうですけど、気になることは先輩、後輩関係なく、聞くようにはしています。たとえば試合中だと、動き出しをした時にボールが出て来なかったら、『今の見えてましたか?』と、話したりしています」
――ちなみに、ベストパートナーであるアンドレス イニエスタ選手とはどんな話をすることが多いですか?
「お互いに口数は多くないので、話す機会はあまりありません(笑)。ただ言葉はなくとも、プレー面で信頼関係ができていると思っています。走れば出てきますし、僕もそれを決める自信がある。だからこそ、イニエスタはパスを出してくれるのかなと思っています」
――古橋選手と言えばスピードが魅力ですが、その秘訣を教えてください。やっぱり小さい頃から速かった?
「そんなことないですよ。僕は覚えてないですけど、親から聞いた話では、当時住んでいた家の近所の友だちに、しょっちゅう追いかけられていたみたいなんです。僕がちょっかいを出して、ワーって逃げていたと。それで、最初はすぐにつかまっていたんですけど、日に日に追いつかれなくなったという。追いかけられることで、鍛えられたんですかね(笑)。父も足が速かったらしいので、その血も少しはあるのかなと思います」
――走る時はどんなことを意識してるんですか?
「ボールが出た時に競り合いになったら、絶対に前に入ってやろうと思っていますね。あとは、出し手の選手が出せるタイミングで走り出すこと。走る前から首を振って、相手のポジションと味方のポジション、スペースを確認したうえで、直感と感覚で、出せるタイミングで動き出しています。それでパスが出てきた時には、『来たー!』と(笑)。ただ、その喜びを顔には出さず、絶対に決めてやるという想いでボールを追いかけています」
――今季は昨季を上回るペースでゴールを量産していますが、去年と変えた点、あるいはより強調している部分はありますか?
「去年はACLですごく悔しい想いをしました。僕の横パスがずれてしまって、点にならなかったこともあったので、今年はよりエゴというか、ある意味自分勝手に、わがままに、ゴール前では自分が決めてやるという感覚でプレーしています。そこで決めれば、文句は言われないですから。当然、パスを出してくれるのは味方のおかげなので、だからこそ決めきらないといけないと、練習から思っています。その意識がちょっとずつ、ゴールという結果になって表れているんだと思います」
――エースとしての責任感も生まれてきていますか?
「神戸に来て、シーズンを重ねるごとに結果を出せるようになってきましたし、今は自信を持ってプレーできています。ただその自信も一歩間違えれば過信になってしまう。だから、決める時に決める切ることはもちろん、チームとしてやるべきことも、しっかりとやらないといけないと思っています」
――サッカー選手として大事にしていることはなんですか?
「やっぱり、感謝の気持ちを忘れないことですね。僕がプロになれたのも、岐阜さんが拾ってくれたおかげですし、神戸に来れたのも、僕を見つけてくれて、僕を呼びたいと思ってくれた人がいたから。お金を払ってスタジアムに来てくれる人、映像を見てくれる人、そういう人たちがいるから、僕たちはサッカーができている。親もそうですし、これまで支えてきてくれた人もたくさんいる。チームメイトももちろんそう。この難しい時期でも、好きなサッカーができているのはそういう人たちがいるおかげ。だから、感謝の気持ちを忘れずに、これからもプレーしていきたいです」
――では最後に、自身が描く未来像を教えてください。
「ワールドカップに出たいですね。そのためには結果を残し続けるしかないと思っています。あとは人としても、選手としても、お手本となれるような存在になりたいですし、海外でプレーしてみたい気持ちもあります。神戸で結果を残しながら、チャンスが来ればチャレンジしてみたいですね(※)」
※7月16日にセルティック(スコットランド)への移籍が発表された。インタビュー日は2021年7月11日
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