選手の新たな一面を紹介する連載企画、第5回目は『YouTuber』としても活動するヴィッセル神戸の那須 大亮選手。フィールド上での熱いプレーそのまままに、YouTubeの世界でも熱い発信を続ける。
現役Jリーグ選手がYouTuberに!昨年7月から、ヴィッセル神戸に所属するDF那須 大亮選手が、自身のYouTubeチャンネルを開始。サッカーに関する真面目な対談から、選手同士でゲームにチャレンジする『挑戦』動画まで…さまざまなコンテンツを配信してきた。アンドレス イニエスタやルーカス ポドルスキらチームメイト、槙野 智章や興梠 慎三といった元チームメイトもたびたび出演する人気チャンネルを始めるにあたってのきっかけ、今後に向けた熱い思いを聞いた。(取材日/5月29日)
サッカーに興味のない方々にも、何かを伝えて感じてもらいたい
--まず、YouTuberを始めたきっかけを教えてください。
人に何かを伝え、伝えて何かを感じてもらうことがしたかったんです。そういう思いが芽生えてきたタイミングで、共通の知り合いを通してYouTubeの会社、ライアートプロモーションを紹介してもらいました。当時、「YouTuber」というものは全然わからなかったんですが、YouTubeは言葉も残るし、それが動画として残っていく。ライアートプロモーションに所属する方の中でも、アスリートは初めてだったようです。僕の思惑とあちら側の思惑が合致して、「チャレンジさせてください」となりました。
--YouTuberに対するイメージはどのようなものを抱いていましたか?
アスリートとのマッチングとしては、自分の中では良いものではないという印象が当時はありました。バラエティ色が強い媒体だと思っていましたので。サッカー選手としてシーズンを戦っていく中で、どうしてもチームの勝敗があって、いろいろな見方がされる。でも、それは考え方ひとつで、基本的にはサッカーというものに関連付けられればいいと思いました。サッカーに興味のない方々にも見てもらう。それが、僕のやりたいことの一つだったんです。不安もありましたけど、やっているうちに方向性がなんとなく見えてきた感じですね。
--昨年7月にスタートしたチャンネル、ここまでの反響についてどう感じていますか?
サッカー界の関係者や選手をはじめ、サポーターの方も「がんばってください」「楽しみにしてます」と声をかけてくれます。ファンサービスの時に、そういう言葉を掛けてくれることはありがたいですね。サッカー選手に興味が湧くきっかけはなんでもいいと思っています。「容姿がカッコいい」でも、「この人が気になる」でもいい。年代関わらずに観られるチャンネルにしたいですし、最終的にサッカーに紐づくように考えて、その入り口や選択肢をたくさん作りたいと思っています。
--YouTuberをしている中で「楽しい」と感じることは?
相手の人生観、価値観に触れられることは、自分のこれからの人生の中での支えになることもある。相手の言動は、自分にとっての学びになります。サッカーをやっているだけでは携わることのなかった方と企画を一緒にやらせてもらい、楽しい時間を共有させてもらっています。撮影しているというより、ただ純粋に楽しんでやっている感じですね。
スケジュール調整も全部が自分で。そのくらいの苦労は当たり前のこと
--反対に難しいと感じることはありますか?
サッカー選手をやりながら、スケジュール調整など、全部自分がやらせてもらっています。クラブ間なら、広報を通しての連絡をするのも自分です。相手のチーム状態も考えないといけないし、僕らヴィッセルが近く対戦する相手の選手との企画はやっぱりやりづらい。それに東京、鹿児島など、日本中どこでも行くんですけど、移動する際の体力的なキツさはありましたね。ただ、これからチャレンジして何かを伝えるには、それくらいの苦労は当たり前のこと。自分は思いを乗せているので、それは必要なしんどさだと思っています。必ず自分にとっての糧になりますから。まあ、「ちょっと眠いな」とかはありますけどね(笑)。
--ご家族はどのような反応を?
「大変だね」って感じですね(笑)。応援してくれていますし、オフをこのチャンネルのことに全部充てさせてもらっていて……もちろん、家族の時間がないってわけじゃないですよ。セカンドキャリアに 不安をもって進むより、今は大変でもアクションを起こして何かにチャレンジするほうが将来に対して希望が見える。そうやって生きていたいですし、それはずっとアクションを起こし続けないといけないことです。
--お子さんたちはYouTubeを見ていますか?
上の子(8歳)はそうでもないですけど、下の子(2歳)は見ていますね、でも自分のチャンネルではなくて、なんか違うものを(笑)。やっぱり子どもたちって、YouTubeという媒体をよく見ているんですよね。ネットが若年層に与える影響は大きいと思います。そういう世代にサッカーに触れてもらうのが自分の狙いでもあります。
--YouTuberをしている人は若い世代が多いですが、那須選手は36歳でのチャレンジでした。
イチ社会人、イチビジネスにチャレンジする時に、今まで自分が培ってきたもの、プライドや、良い意味での主観というのはものすごく邪魔なものになります。名刺を受け取るとか、礼儀作法一つにしてもそうなんですけど、変にプライドがあると相手を不快にさせてしまう。そうなると相手も近寄ってはくれませんし、自分はこういう人間でこういう活動をしていると初めて自分の言葉を伝えたときに、初めて興味をもっていただける。新たなチャレンジに年齢は関係ない。誰からも学びたいですし、もっと大きくしていくためには自分が成長していかないといけない。社会人一年目のつもりでやっています。
--ほかのYouTuberの動画を参考にすることはありますか?
有名な方は、しっかりとしたビジネスモデルがあって、収益を出しているのですごいと思います。しゃべりの切り口、強調するところという一つひとつの側面に、若者が食いつくようなものを考えての意図がありますから、参考にはさせてもらっています。ただ、僕はここで生まれたものをサッカー界に還元したい。誰かがやっていることじゃないですし、その方たちがやってきた形は参考にはなりますけど、僕がやっているのはまったく違う形だと思っています。現役選手としては自分にしかできないことですし、だからこそやりがいを感じている部分もあります。
--チャンネル登録者数も伸びているようですね。
今で2万4千ちょいくらいですね(6月4日時点)。できれば年内に10万という目標はあるんですけど、ヴィッセル神戸の選手なのでチームが勝つことが最優先。サポーターもみんなが一緒になって戦わないといけないと思っているんで、僕の活動で変な方向にもっていってはいけない。そういう時には、真剣な話をする対談や、人生にとって糧になることについてYouTubeの中で流せたらいいなと考えています。
サッカー選手の活用の仕方、一つのビジネスモデルを作りたい
--動画ではアンドレス イニエスタ選手らとのサッカー対決をはじめ、湘南乃風のHUN-KUNが出演したのには驚きました。
「ええ!? あのHUN-KUN!?」ですよね。レコーディングしている時、HUN-KUNの写メずっと撮ってましたもん(笑)。あれは、めちゃくちゃ幸せなこと。アンドレス(イニエスタ)もそうですし、HUN-KUNもそうですが、第一線でやってきた方だからこそ、彼らは自分が出ることでどんな影響を及ぼすか分かっています。自分もプロとしてサッカーをやっていますが、「見せる」部分ではプロではないので、見せ方も含めて一流は一流なんだなってあらためて感じますね。
--サッカーに興味がなかった層からの反響は?
YouTubeのコメントで「HUN-KUNのファンです。サッカーに興味なかったんですけど、初めて知りました。今年から応援します」といったものを見るとすごくうれしく感じます。自分がやっていることでサッカーに関心をもってもらえるんだという実感はあります。
--その一方で、厳しい声が届くことはありますか?
もちろん、コンテンツにはバラエティ性も入りますからそういった声はあります。ただ、良いことも批判もネットで言うのは簡単。文句や批判があるなら直接会いに来てほしいし、むしろ僕が行ってもいい。絶対に大事なのが思いで、僕は思いが欲しいんです。ただの誹謗中傷に近いコメントには返さないですけど、しっかりと理由のある「こう思います」というコメントには僕の意見をぶつけます。ヴィッセル神戸で勝ちたいという思いがあり、それをYouTubeで還元したい思いでやっている。伝えられるときは伝えるようにしています。
--最後に今後イメージしている展開を教えてください。
どこまで選手でやれるかという部分もありますが、一般の視聴者もそうですし、いろいろな企業さんにも関心をもっていただきたいんです。サッカー選手の活用の仕方、一つのビジネスモデルを作りあげたい。それをすることで、ほかの選手にも関心をもってもらいたいという面もあります。自分がいまチャレンジする中で、そこで生まれた対価でこういうことができるというのを実践したいんです。もっとこれから大きくして、そういうふうになっていければいいなと思っていますね。
インタビュー終了後、スマホで那須選手のYouTubeチャンネルを開き、それを眺める姿を写真撮影。真剣な表情に加え、笑顔のショットも依頼すると「きもち悪いですよね。自分の動画でニヤニヤしながら」としつつも、楽しそうに応じてくれた那須選手。「チャレンジに年齢は関係ない」「思いが欲しい」――。その熱い言葉の一つひとつが那須選手の強い意志を表し、人生に挑戦するすべての人へのエールのように聞こえました。
取材・構成:小野慶太
撮影:末吉雅子