5月15日のJリーグの日に、「Jリーグをつかおう!」の第1回ネットワークミーティングが開催された。
「Jリーグをつかおう!」とは昨年に発足されたJリーグの社会連携活動(通称:シャレン!)におけるプロジェクトのこと。健康や子育て、ダイバーシティ、働き方、まちづくりなど、Jリーグ、Jクラブが、社会の様々な分野の方々と連携しながら、より良い社会を作っていくための活動だ。
今回のミーティングは、「シャレン!」のこれまでとこれからを共有し、共創をより進める一歩を踏み出すことを目的として開催。この活動に共感する企業、行政、各団体をはじめ、クラブ関係者など約180人が参加して、「Jリーグをつかおう!」の今とこれからについて、情報共有や意見交換が行われた。
なかでも最大のテーマは、Jリーグ・Jクラブをもっとつかいやすくすること。1年が経ち、昨年のワークショップで出された企画が実現したり、クラブのホームタウン活動が合計2万回を超えたりといった成果が見えている。一方で、「つかう」ための窓口が分からないという意見や、世の中から見えていないという現実があるという。また、クラブ側にとっても、人手やノウハウが不足しているという課題も浮かび上がっている。その課題をどのように解消していくのか。
そこでJリーグは、「Jリーグをつかおう!」のweb(https://www.jleague.jp/sharen/)をオープン。web上に「シャレン!活動提案窓口フォーム」を、今年6月に開設することを発表した。
また地域とJクラブの連携をよりしやすくするために、2つの新しい仕組みもスタートさせる。ひとつ目は「シャレン!キャンプ」。これはJクラブチームと一緒に話し合いながらアイデアを広げ、深めるワークショップで、8月と11月に開催が予定されている。
もうひとつは「シャレン!アウォーズ」。企画提案・実施されたアイデアや活動を全国のクラブと共有し、表彰するイベントだ。このふたつの仕組みによって、より多くの方々が「Jリーグをつかおう!」に参加しやすくなる環境が生まれるという。
今回のミーティングでは、各クラブの様々な事例も紹介された。甲府が行った「スタジアム同窓会」や、徳島が美馬市と連携して取り組む「健康促進活動」、川崎Fが以前より取り組んでいる「障がい者就労体験」など、各クラブのアイデアはすでに具現化されており、地域社会との関係がより密接化されていることが窺えた。
ミーティングの最後には、「Jリーグをつかおうを踏み出そう」というテーマで、ワークショップが行われた。教育、子育て、健康、街づくりなどテーマごとに分かれ、「こんなことがしたい」「こんなことができます」「こんな人を探してます」というそれぞれの立場から、テーマに沿った意見が出し合われた。限られた時間のなか、初めて会った人たちがこのマッチングによって、アイデアの具現化の可能性を探っていった。
およそ4時間に渡ったミーティングは、多くの仲間の想いとアイデアを共有しながら、その企画を前に進めるためのきっかけを得る機会となったはずだ。
「Jリーグをつかおう!」の発起人であるJリーグの米田 惠美理事は、まずこの1年の活動を振り返り、「シャレン!を理解してくださる仲間が増えたのが大きな成果」と話す。また「クラブの活動を実践してみた時に、課題が見えたのも成果。ここが上手くいかないとか、ここがボトルネックだと進まないとか。持続可能性を大事にしているので、そこに対するスキームが見えてきたのが成果だと思っています」と、この1年の活動を評価した。
改めてJリーグがこの活動を行うことの意義については、次のように話す。
「Jリーグ自体が持つブランドを使って世の中に発信していく役割が、リーグにはあります。クラブの活動を縛ることはできませんが、クラブが方向性に気付くきっかけになる。また、ある地域で起きていることを、他のクラブに紹介することもできる。間に入ることによって、つなぐことができるんです。そこにリーグの介在価値があると思っています」
米田理事が示す「シャレン!」の定義は、クラブ主導の活動ではなく、地域社会との共創だ。「クラブ主語でやるのではなく、同じ目標に対して一緒にやっていくこと。町の課題を一緒に解決する仲間を見つけていくことが重要」と話す。
この活動を進めるなかで、実際に各自治体の反応も変わってきたという。
「これまではクラブからの陳情のように受け止められていたのが、一緒に取り組みませんかという投げかけに変えたところ、自治体の反応がすごくよかった。地域や自治体も困っているなかで、一緒に価値を作っていきましょうと。そうやって一緒に取り組むなかで、クラブ側の学びも生まれてきている。クラブも地域もみんながウインになる流れが生まれているのは、とても面白いと感じます」
そうした流れを踏まえたうえで、米田理事は今後の展望を、次のように語っている。
「まずはクラブと地域の方々をマッチングして、企画が増えていくのが初期の目標です。ただ企画の本数を追うよりも、質を追おうと思っています。完成度の高いものを増やしていきたいですね。実験をどんどん繰り返して、精度を上げていくこと。そして年末、もしくは年明けに予定しているアウォーズを通じて、もっと世の中に知ってもらい、より多くの方が参加できるような仕組みを構築していきたいと思っています」
このミーティングにはJリーグの村井 満チェアマンも参加。次のように感想を語っている。
「今日はJリーグの日ですが、26年前に川淵(三郎)さんが地域密着というものをJリーグの理念に込めました。それは今でも色褪せていないし、むしろ今のほうが必要性は高まっている。各行政にはお金はありませんし、人口も減少している。いろんな課題があるこういう現状だからこそ、今回のような取り組みは存在価値があると感じています」
村井チェアマンは、スポーツの持つ新たな可能性に言及した。
「する、見る、支えるというのが、これまでのスポーツとの関わり方でしたが、第4の動きとして“使う”というものが生まれた。サッカー場にもいかないし、プレーもしない。でも私はスポーツを通じて障がい者の自立を手助けする活動を行っている。そういう人がこれから増えてくるはず。スポーツを使うという概念ができたのは、大きな一歩だと思います」
サッカーを通じ、クラブと社会が共創するこの「シャレン!」の発展に、期待を込めていた。