2019年シーズンから、Jリーグが著作権を有する試合映像をはじめとした映像コンテンツや静止画、スタッツデータなど、すべてのデジタルアセットを集約し、一元的に制作・編集・供給・配信等をマネジメントするデジタルアセットのハブ機能 Jリーグデジタルアセットハブ、通称“Jリーグ FUROSHIKI”(Jリーグふろしき)の構築に着手します。既存のJリーグアーカイブセンターをベースに、パブリッククラウドなどの各種クラウドとオンプレミスを組み合わせた最先端の環境を構築するとともに、集約・供給配信等ネットワークの最適化を行い、Jリーグ以外の国内スポーツでの活用も視野に入れたスケーラビリティを確保します。
Jリーグは、“Jリーグ FUROSHIKI”の活用により、ファン・サポーターの満足度向上や国内外での新たなファン獲得に貢献するコンテンツづくり、外国籍選手の増大を機とした海外でのコンテンツ販売収益拡大へのチャレンジ、集約されたデジタルアセットのJリーグにおけるサッカーの戦術や競技性向上への利活用を行っていくだけでなく、機能および事業ノウハウを国内のスポーツリーグ・団体等にも広く提供していきます。また“Jリーグ FUROSHIKI”を、映像やICTに関する最先端技術を保有する事業者様との具体的コラボレーションの場とすることにより、日本のスポーツ産業の発展に寄与することをめざします。さらに“Jリーグ FUROSHIKI”はJリーグが推進する社会連携活動におけるプラットフォームの一部として、各クラブのホームタウン活動等で利用していくことはもちろん、地域の方々の様々な活動でJリーグのデジタルアセットを活用いただけるようその仕組みを整えていきたいと考えております。
NTTグループは、Jリーグのオフィシャルテクノロジーパートナーとして、 “Jリーグ FUROSHIKI”の実現に向け、Jリーグが行う映像の撮影・制作・編集等のプロセスに同グループが保有する5GやAIなどの最先端のICT技術や映像・音声技術、映像サービスのノウハウを導入し、その環境構築や運用、映像制作の効率化に向けたサポートを引き続き行っていくほか、“Jリーグ FUROSHIKI”を活用した映像関連サービス等の具現化におけるネットワークサービスや映像・音響サービスの提供を始め、多言語字幕や分析データの自動付与などにより「観るスポーツ」としてのJリーグの新たな観戦・応援体験をこれまで以上に多様な視聴者・観戦者の方へ提供していきます。
スポーツ庁および経済産業省が発表した『スポーツ未来開拓会議 中間報告』(2016年6月)において、我が国のスポーツ産業を、2020 年で10.9兆円(2012年の約2倍)、2025 年で15.2 兆円(同約3倍)の市場規模へと拡大を目指す政策が進められています。プロスポーツ分野でも数千億円規模の拡大を期待されるところですが、新たなスポーツ映像体験の提供と映像関連ビジネスの更なる成長は、スポーツ分野の需要を幅広く喚起するほか、海外市場の開拓、海外からのインバウンド観光客の増加などにつながる可能性があります。
Jリーグとしては、2020年からの新規海外放映権契約にて、更なる放映権収益の拡大と、視聴者・リーチを世界中に拡充してゆくことを目指しています。さらに外国籍選手の活躍を母国に伝える映像サービスを海外戦略・アジア戦略の一つの柱として、Jリーグのパートナー企業や各クラブホームタウンの露出機会を増やし、海外への進出後援に活用していきます。
また集約された映像アセットの活用により、Jリーグおよび各クラブがホームスタジアムや公式戦に限定されない新たな観戦・応援イベント等の開催をすることが可能となり、既存の枠を越えた入場料収入の確保やファン層の拡大等が期待できます。2019年、2020年は国内で開催される国際的なスポーツ大会によるスタジアムキャパシティ不足などの課題もあり入場料収入の低下が懸念されるところではありますが、デジタル技術を駆使した新たな興行の在り方が2030シーズンでのJ1リーグ1試合あたり入場者数目標24,000人(2018シーズンは19,064人)の達成に向けた具体的方策のひとつになる可能性があります。
1.JリーグFUROSHIKIを活用したNTTグループとの新たな取り組み
①観客・ファン向けサービス
~高臨場・高付加価値型 観戦体験空間「デジタルスタジアム(仮)」~
Jリーグは、従来からスタジアムが抱えるアクセシビリティの問題や、2019年・2020年の国際的なスポーツ大会によるスタジアムキャパシティ不足などの社会的課題を踏まえ、デジタル技術を用いた新たなスタジアム観戦の在り方「デジタルスタジアム(仮)」にチャレンジし、スタジアム観戦機会の拡大を具体化していきます。
「デジタルスタジアム(仮)」とは、スタジアムで行われている実際の試合を様々なデジタル技術を用いてスタジアムから離れた快適な屋内施設にリアルタイムに再現し、スタジアムにいるかのような感覚を体感しながらの観戦・応援はもちろん、従来のスタジアムとは異なる演出が可能な施設での開催により、各種ホスピタリティを付随したハイエンドな映像やデータを活用した観戦体験など、多様化する観戦者ニーズにこたえる各種サービスを提供可能な高臨場・高付加価値スタイルの新たな観戦体験空間です。
また「デジタルスタジアム(仮)」は、物理的制約や時間・移動費用の負担が大きく、既存のスタジアム観戦を楽しむことが難しかった各種障害をお持ちの方や家族連れの方などに、負担を低減した新たな観戦機会を提供することも可能となります。
Jリーグでは「デジタルスタジアム(仮)」のプロトタイプ提供となる高臨場・高精細ライブビューイングを中心としたイベントを以下の公式戦を対象に都内の屋内施設にて開催予定です。
5/12(日)14:00キックオフ 明治安田生命J1リーグ第11節
ヴィッセル神戸 vs 鹿島アントラーズ @ノエビアスタジアム神戸
②クラブ用戦術分析サービス
~クラブ向け、試合映像・パフォーマンスデータ ライブ提供サービス「LIVE SCOUTER」~
J1クラブ向けに試合中のテクニカルエリアでの戦術分析ツール「LIVE SCOUTER」の提供を2019年3月29日(金)の明治安田生命J1リーグ第5節より提供開始します。
Jリーグの公式試合においてJリーグが撮影し、試合後に各クラブの強化担当に提供しているスカウティング映像(試合俯瞰映像)を、試合中リアルタイムにクラウド上にアップロードすることで、ハーフタイムや試合中に、監督・コーチがタブレット上のアプリケーションを使用して目の前の試合の状況を常時振り返ることができる映像サービスです。各クラブの強化担当等がクラウド上に直接アクセスすることでスカウティング映像に必要なタグ情報等を付与することも可能とし、試合のパフォーマンスも確認できるツールとなります。
ホワイトボードと言葉を使って行っていた選手に対する戦術振り返りや指示についても、本サービスで実際の選手の動きや試合の流れを参照しながら、より具体的に行うことができるようになります。
なお、2019シーズンはJ1のみを対象にしております。
<更なる展開の可能性>
・観戦者/視聴者向け情報提供サービス
各クラブの戦術・強化等への影響がない範囲で、一般観戦者やサービスとして、ライツホルダーと共に活用を検討
・メディアサービス
取材いただいている、各メディアの方々へのサービス提供や、放送席での実況者・解説者へのサービス提供も検討
・育成支援としてのサービス拡大
各クラブのユースチームやアカデミーへの展開、アマチュアスポーツ団体等で利用可能なスキームの検討 など
③視聴者向けサービス
~xRテクノロジーを用いた新たな視聴体験の提供~
“Jリーグ FUROSHIKI”に集約されたデジタルアセットにVRなどのxR技術を活用し、新たな映像サービスを提供します。
<サービスイメージ(例)>
●VR空間での観戦サービス
試合が行われているスタジアム内のフィールドを俯瞰する視点での映像を始め、ゴール裏などの特別な視点からの映像をVR映像とし、あたかもスタジアムのピッチサイドで観戦しているような新たな観戦体験を提供するサービスです。
明治安田生命J1リーグの下記3試合にてお楽しみいただけます。
3/10(日) 第3節 ベガルタ仙台 vs ヴィッセル神戸
3/17(日) 第4節 北海道コンサドーレ札幌 vs 鹿島アントラーズ
3/30(土) 第5節 大分トリニータ vs サンフレッチェ広島
2.今後のさらなる展開
Jリーグは今後、“Jリーグ FUROSHIKI”を活用した取り組みを、NTTグループはじめ、様々なパートナー様とオープンイノベーションのスタンスで展開していきます。
①競技性向上への活用
“Jリーグ FUROSHIKI”の環境は、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)のセントラル化の可能性にも寄与します。VARは、2018 FIFAワールドカップ ロシアで採用され、Jリーグにおいても、すでに一部公式試合での採用を決定しています。VAR※1の先進的かつ効率的な競技運営を目指し、セントラル方式VAR※2の実証を2019シーズン中に開始します。※3
※1 VARとは
「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」状況に限り、リプレー映像からの情報に基づき連絡をとって主審の援助を担当する審判員のこと。
※2 セントラル方式VARとは
VARを各試合会場に派遣するのではなく、試合映像を1か所に集める方式のこと。
※3 2020シーズンのVAR導入は未決定です。
②海外向け映像、国内向けニュース映像提供内容の拡大
“Jリーグ FUROSHIKI”上での他国言語の字幕・CGの付与、外国籍選手の個別選手映像を制作することにより、広く海外市場へのJリーグコンテンツ提供を可能にします。さらに、2020年からの海外放映権を睨んだ新たな映像配信手段にチャレンジします。
さらに、ミックスされた中継用映像以外に、個別カメラにより撮影された映像データを“Jリーグ FUROSHIKI”に伝送し、編集・加工し、国内・海外の放送局向けニュース用素材として配信できるようになります。また、“Jリーグ FUROSHIKI”上のデジタルアセットとAIを組み合わせることで、自動的にハイライトクリップ動画や個別選手のクリップ動画の制作が可能となります。
③映像制作プロセスのデジタルトランスフォーメーション
Jリーグ公式映像制作(中継用映像制作)で撮影された複数カメラの映像を含む様々なスタジアム内映像を“Jリーグ FUROSHIKI”に一元集約することと並行し、以下の取り組みを検討します。
・スタジアムから離れた場所での中継映像制作(リモートプロダクション)
2019シーズンから一部スタジアムでの試合を対象に、カメラのソース映像を“Jリーグ FUROSHIKI”に集約し、スタジアムから離れた拠点での中継映像制作を実証実験します。
※2018年10月に実証実験を行い、既存の中継映像と同等の映像制作ができることを確認済です。
・スタジアムでの自動撮影・自動編集(スマートプロダクション)
AI搭載カメラによる自動追尾撮影や自動編集等の実証を開始しています。公式試合での導入およびこれまで中継していなかったJリーグの育成年代の試合等への活用なども視野に、2019年シーズンから実施準備を開始します。
■発表にあたってのコメント
●公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) チェアマン 村井 満
Jリーグは、近年リーグ戦の映像制作を自ら行い、制作著作権を自ら持ったこと、また選手の走行距離などを取得できる「トラッキングシステム」を導入することによって、お客様に対し、より魅力的な映像やデータを提供できる環境が整いつつあります。しかしながら、技術革新の目覚ましい進歩によって映像とデータは依然として強いニーズがあり、さらに画一的ではなく、多様な形で提供していけるようにすることが求められています。また、チャナティップ選手やイニエスタ選手の活躍により、日本国内にとどまらず、アジア各国・欧米でもJリーグの映像のニーズが高まっているという背景の中、本日「Jリーグ FUROSHIKI」の構築について発表できることを嬉しく思います。
我々Jリーグは、NTTグループ様を始めとした様々なパートナー様とともに「Jリーグ FUROSHIKI」の構築を推進することでサッカーだけにとどまらず、他の多くのスポーツ・文化事業等にも活用いただけるようサービスを広げ、Jリーグの理念である「日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及促進」、「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」、「国際社会における交流及び親善への貢献」に寄与してまいります。
●日本電信電話株式会社 代表取締役社長 澤田 純
Jリーグの新しい取組をサポートできることを嬉しく思います。映像分野のデジタルトランスフォーメーションは、選手やプレーの魅力を再発見し、その国内外への発信を通じて日本のスポーツ産業振興をリードすることができるだけでなく、地域コミュニティともつながるスマートスタジアムを始めとした日本発のスマートスポーツの形を世界に提示していくことにもつながると確信しています。
NTTグループは最先端のデジタル技術により、”Jリーグ FUROSHIKI”の実現に寄与するとともに、引き続きデジタルマーケティングやスタジアムのICT化などで、Jリーグの発展、スポーツ産業の発展に貢献していきます。