新人研修2日目は、いきなりルールテストから幕を開けた。時刻は午前9時、新人選手たちは、少し眠たげな表情を浮かべながらも、頭をひねり、紙にペンを走らせていく。サッカー選手として知っておくべきプレー規則を、改めて知りうるこの機会。もっとも選手と言えども、すべてのルールを正しく把握しているわけではなかった。満点を取った選手もいれば、追試を課せられた選手もいた。それでもプロ入り前に正しい知識を身に付けるうえでの、重要な時間となった。
またこの時間ではJFA審判部の扇谷 健司さんによる講義も行われ、選手たちはフェアプレーの精神もしっかりと学び取っている。
この日の大きなテーマは「コミュニケーション」だった。これからはファンやメディアの前で話す機会が増えるだけに、話し方や受け答えはプロとして身に付けておきたい資質となる。
グループに分かれてのコミュニケーショントレーニングでは、カメラの前で自己紹介を行い、自身の話し方を映像で確認していく。しかし、当然ながら最初は上手くはいかない。講師からは「笑顔!」「姿勢!」「口を大きく開けて!」といった注意が飛んだ。
コミュニケーションには、「表情」「発声」「動作」の3つのポイントがあり、それを修正するために発声トレーニングや活舌トレーニング、笑顔の作り方の練習などが行われた。
「これからはメディアに出る機会が増えると思うし、そういう場でしっかり自分を出すことは大事なこと。そこの部分でもプロにならないといけないと思うので、大切にしたいと思います」
順天堂大から鹿島アントラーズに加入した名古 新太郎は、高い意識をもってこのトレーニングに取り組んだことを明かした。
トレーニングを終えたのち、再びカメラの前で自己紹介をする選手たち。すると、1回目の自己紹介とは別人のような姿が見られた。笑顔を作り、姿勢を正し、はっきりとした口調で話していく。自己紹介の内容も、より相手に伝わりやすいものに変わっており、オリジナルティ溢れる言葉が各選手の口から発せられた。
夜にはこの応用編として「メディア・トレーニング」が行われた。ここではグループごとに分かれるのではなく、壇上に立ち、選手全員の前でその成果を発表していく。設定は、スポーツニュースの生放送。カメラの前でレポーターからインタビューを受けるという内容だ。
壇上に上がったのはアスルクラロ沼津の渡辺 りょう、京都サンガF.C.の江川 慶城、レノファ山口FCの菊池 流帆の3選手。レポーターの質問に対し、3人は緊張したそぶりを見せることなく、自身の考えを語っていく。笑いあり、滑った場面もあり、ダメ出しを受ける場面もあったりと、決して100点満点のインタビューとはならなかったが、その堂々とした態度に、会場からは大きな拍手が送られた。
もうひとつ興味深かったのは「選手とソーシャルメディア」の講義だった。今ではほととんどの選手がSNSを活用する時代となった。良い部分がある一方で、使い方を間違えれば大きな落とし穴にはまってしまう危険性もある。
「高校では禁止だったので、引退してからSNSを始めました」
そう語るのは、今年の全国高校選手権を制した青森山田高からアビスパ福岡に加入した三國 ケネディ エブスだ。
「まだ始めたばかりなので危険性とかあまり分かっていなかったのですが、話を聞いて軽はずみに使ってはダメだと分かりました。自分の発言が広まって、炎上したりすることもあると思うので、気を遣わないといけないですね」
同じく青森山田高からプロ入りを果たした北海道コンサドーレ札幌の檀崎 竜孔も、高校選手権が終わったのちに、SNSを始めたという。
「自分の価値を上げていくためにも、SNSは有効な手段だということが理解できました。そういう良い部分もたくさんありますし、逆に悪い部分もある。それを知れたので、よい勉強になりました」
上手く活用すれば、ファンが増え、自分の価値が高まる。逆に使い方を誤れば、ファンが減り、自身の価値も下がってしまう。
「ソーシャルメディアは発信・共有され、明日の自分の価値につながる」
そう講師が伝えたように、SNSの正しい活用法は、現代のプロ選手に不可欠な要素となっている。
SNSだけでなく、サッカー選手の周りには、様々なリスクが付きまとう。知名度が高い分、一般社会に与える影響が大きいからだ。交通事故、窃盗、暴行など、残念ながら過去のJリーグでも起きている不祥事だ。
異性関係、反社会勢力、儲け話や薬物など、知名度が高まれば高まるほど、様々な誘惑も増えてくるかもしれない。そんなリスクをいかに回避していくか。これもまたプロサッカー選手に欠かせない資質となる。自身の人生を狂わせるだけでなく、クラブ、リーグ、さらには社会全体に大きな影響を与える危険性があるからだ。
「いろいろな状況を想定して、未然に防ぐことをしっかりやっていけないと大変なことになってしまう。ピッチから離れても、プロとしての自覚を持って行動しないといけない」
川崎フロンターレのU-18からトップチームに昇格した宮代 大聖は、すでにプロとしての在り方をインプットしているようだった。
ほかにもドーピングや八百長、人権差別など、サッカー選手として絶対にしてはいけないことはたくさんある。誘惑にかられ、悪事に手を染めれば、どれだけのダメージを与えてしまうのか。その危険性を新人選手たちは、十分に理解したはずだ。
朝9時から始まった研修2日目は、7つのテーマで講義が行われ、最後の講義が終わった時には22時近くになっていた。お疲れ気味の選手もいたが、いずれもプロになるためには必ず身に付けておきたい知識やテーマである。眠い目をこすりながらも新人選手たちは、最後まで必死に講師たちの話に耳を傾けていた。