2年連続で逆転優勝の可能性を残して最終節をホームで迎えた鹿島だったが、昨年に続き今年も歓喜の瞬間は訪れなかった。チームとして1年間積み上げてきたものを発揮したのはむしろ鳥栖。力の限りを尽くし、大雪のため試合が月曜日に順延した柏にプレッシャーを与える勝点3を獲得した。
先制点が試合を大きく動かした。
6分に安田理大のクロスを池田圭が落とし、高橋義希がそれを叩き込む。流れるような一連の動きでいきなりリードを奪った。これにより、試合前の時点でG大阪と得失点差が2だった鹿島は3点を奪わなければならなくなる。そのプレッシャーから来る焦りと、33節までで総失点33と堅守を誇る鳥栖のハードワークの前に攻撃の形が全くつくれない。サイドで起点をつくれば激しいプレッシャーで潰され、楔のパスはインターセプトされる。ボールを持ってパスの出し所を探せば探すほど、相手の網にかかるばかりだった。
「気持ちを落ち着かせてビルドアップしよう」。
ハーフタイムにトニーニョ セレーゾ監督が呼びかけるも、後半になっても事態は好転しない。しかし53分、精彩を欠いていた豊川雄太に替わり中村充孝がピッチに入ると、ようやく攻撃の糸口を掴み始めた。ところが、そのリズムも63分に小笠原満男が退くと、相手を自陣に押し込むというより撃ち合いの展開となってしまう。失点する危険性もはらんだ賭けに打って出たがそれが奏功することはなく、谷口博之を入れて4-1-4-1に布陣を変えた鳥栖が最後まで体をはってゴールを守り、1-0で逃げ切った。
「今回の結果に繋がったのはJ2時代から自分たちのスタイルを貫き通してきた結果だと思います。一昨年、ACLに届かなかった、そのあとも、去年の苦しいシーズンも、そして今年、監督交代というなかでも、チームとしてスタイルを貫き通したところが一番良かったのではないかと思います」。
試合後、静かな口調で今季を振り返った吉田恵監督。チームを襲った危機を乗り越え、「前節も、一人退場したなかで、浦和さんに同点に追いついた。また今日の試合は選手が変わったなかで最後まで走り抜いてくれた」と選手を讃える試合を見せた。
「守備は粘り強くというのがシーズン終盤に来てできていた。その集大成だったと思う」。
ゴールマウスから守備陣を見守っていた林彰洋の「集大成」という言葉が、この日の鳥栖の姿を的確に表す。天皇杯でG大阪が優勝すればリーグ戦4位のクラブにACLへの出場権が舞い込むため、試合のなかった柏レイソルとの勝点差を3に開く最高の試合でシーズン最終戦を締めくくった。
鹿島はリーグ最終戦というだけでなく、中田浩二というクラブに多大な功績を残した選手の最後の試合を勝利で飾ることができなかった。涙にくれる小笠原満男、曽ヶ端準、本山雅志の3人とは対照的に、セレモニーのなかでも引退会見のなかでも、中田の目に涙はなかった。
「17年間、夢のような世界を本当にありがとうございました」。
試合後も、力が出し切れず、打ちひしがれる若手を食事に連れて行き、来季に向けて切り替えさせるなど、最後までにこやかな表情を崩さずピッチを去った。
以上
2014.12.07 Reported by 田中滋
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