昨季の最終節、現役ラストマッチとなった吉田孝行の劇的なゴールで熱狂したノエビアスタジアム神戸。それとは対照的に、今季の最終節は静まり返っていた。
2年前に涙のJ2降格から始まった安達亮監督体制は、J2でチームの土台を築き、今季はマルキーニョスやペドロ ジュニオール、シンプリシオら大物を迎えてバージョンアップ。ブラジルワールドカップによるリーグ中断を3位という好位置で迎えていた。現実味を帯びていた悲願の初タイトル。そんな胸躍るシーズンは、4連敗という辛い現実で幕を閉じた。
中断明けの神戸は、天皇杯2回戦で関西学院大学に敗れると、再開されたリーグでも鳥栖に敗れ、横浜FMにドロー、続くG大阪戦では1−5という屈辱的な敗戦を喫した。その後もなかなか結果が出ないまま、第18節から最終節の第34節までに挙げた白星はわずかに5つ。クリムゾンレッドで埋め尽くされたゴール裏が静まり返るのも無理はなかった。
前半は神戸が高い位置から積極的にプレッシングをかけ、川崎Fからボールを奪うとショートカウンターで一気に攻めた。7分過ぎには森岡亮太のスルーパスで高橋峻希が抜け出し、中央のマルキーニョスへ鋭いセンタリングを供給。その直後には、岩波拓也、森岡、ペドロ ジュニオールとつなぎミドルシュートまで持ち込んでいる。神戸がいつゴールを決めてもおかしくない。そんな序盤だったが、先制したのは川崎Fだった。
11分。大島僚太からパスを受けたレナトがドリブルで相手を3〜4人交わし強烈なシュートを放つ。一度はGK徳重健太にブロックされたものの、大久保嘉人がこぼれ球を押し込んで先制に成功した。このシーンを大久保は「レナトが打って、GKがこの辺に弾くなというところに走ったので、そこにボールが来て、流し込むだけでした」と振り返る。まさにストライカーらしい見事なゴール。この一発で川崎Fが徐々に主導権を握っていったことを考えると、“エースの仕事”だったとも言える。
一方の神戸は、その後も積極的にハイプレスをかけ、ショートカウンターで何度かチャンスを作った。だが、どうしても最後のフィニッシュが決まらない。後半にはやや前掛かりになりながら攻め続け、76分頃には枝村匠馬のスルーパスを受けた小川慶治朗がいい位置でシュートを放つが、これはGK西部洋平のファインセーブに阻まれる。79分にはチョン ウヨンのFKを田代有三が頭で合わせたもののゴールを割ることはできず。時間が経過するにつれ、じわじわと1失点が重くのしかかる苦しい展開となっていった。
あせる神戸をパス回しでいなす川崎F。その流れから、85分にレナトがもらったPKを大久保がきっちり沈めて川崎Fが2点リードに成功。大久保は、このゴールで得点王をほぼ手中に収めた。神戸は最後の最後に田代がPKを決めて一矢を報いたが、結局、決定力に悩まされたリーグ後半を象徴するような敗戦でシーズンを終えることになった。
試合後のファイナルセレモニーは重たい空気が流れていた。ピッチに現れた選手の表情も険しさが拭いきれない。小川慶治朗は「まだ(敗戦による)気持ちの整理ができていなかったですね」と、その時の心情を振り返っている。
また、そのセレモニーでは、コーチや監督として9年間ヴィッセル神戸を支えた安達亮監督が、こみ上げる感情を抑えながら最後にこういい残した。
「今シーズン掲げた初タイトルという目標は決して間違った目標ではなかったと思っていますし、間違いなく正しい道を進んだと思っています。(今節でチームを離れるが)個人的な来年の目標は、今シーズンと変わらずヴィッセルが初タイトルを取ることです」。
セレモニー後の記者会見で“来年の目標”の真意を聞かれた安達監督は、次のように補足している。
「自分が離れるのは分かっているんですが、このクラブにとにかく成功してもらいたいという思いがあります。やっぱり自分が9年間一生懸命に仕事をしてきたのは、そのためにやってきたのでね。今後このクラブが右肩上がりになるように、成長していくというか、上向きなクラブにするのが自分の目標でもありましたから」。
多くの人々が一喜一憂しながら育ててきたヴィッセル神戸は、来年、創設20周年を迎える。阪神淡路大震災の発生からも20年が経つ。一つの節目になる大事なシーズンに向け、神戸サポーターはセレモニーで2つの垂れ幕を用意した。一つは「亮さん激動の2年間 お疲れ様でした」。もう一つは「来季20周年 この悔しさはそこで晴らす」。
34戦11勝12分11敗。勝点45。暫定11位。今はこの悔しさを胸に刻んでおきたい。
以上
2014.12.07 Reported by 白井邦彦
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