様々な想いを胸に戦ったシーズン最終戦。それは福岡と熊本にとって対照的なものになった。
福岡に関わる人たちにとっては残念な試合になってしまった。スタンドから見えた光景は、チームとしての意思統一が図れず、ひとりひとりがバラバラにプレーする姿。そこからは、1年間の積み重ねはおろか、何を表現しようとしているのかも伝わってこなかった。もちろん、個々は、それぞれの想いを胸に戦っていたことは間違いない。だが、それがひとつの糸で結ばれることはなかった。ホームチームの意地が感じられたのは、3失点目を喫した後から。しかし、勝負の世界は厳しい。前半を無為に過ごしたチームに、サッカーの神様は振り向いてくれるはずもなかった。
だが、どんな時もネガティブになることに意味はない。どんな時も大切なことは、いまある現実を真摯に受け止めること。悔しく、情けなくても、今の現実と向き合うことが、次への一歩を踏み出すための原動力になる。出来ないことは恥ずかしいことではない。やれなかったことが情けないのでもない。できなかったこと、やれなかったことの原因を自分の中に求め、それを改善するために方策を見つけ、それを実行すること。その繰り返しの先に自身の成長があり、自身が成長することでチームが成長していく。無駄な時間など一瞬たりともない。悔しさや情けなさも、向き合い方次第で大切な糧になる。
熊本にとっては、積み重ねてきたものを余すことなく表現する試合になった。チームとしての統一感を持ったチームは、高い位置からの連動したプレッシングで福岡の攻撃の起点を封じ込め、高い位置で奪ってシンプルにゴールを目指す熊本のサッカーを展開。3点目を奪ってからは、前への意識を強くした福岡に押し込まれるシーンもあったが、最後は泥臭く守りきった。チームの戦術として福岡を抑え込んだことはもとより、運動量、球際の激しさでも福岡を上回った。「自分たちの力で、できることに注力しよう」とは小野剛監督のハーフタイムの指示だが、それを90分間に渡って実践。熊本らしい戦い方で勝利を手に入れた。
そして、熊本の選手の成長を示す試合でもあった。なかでも、メンタル面での成長が大きかったと小野監督は話す。
「個々のメンタリティ、それからチームとしてのスピリット、そういったものは非常に、特に最後のほうは感じることができた。もちろんそれは、日々のトレーニングの中でじわじわと皆が、ひとりひとりの選手が獲得していってくれたものだと思っている。技術、戦術に関しても、スタートから比べて大きな成長があるが、特にその中で印象的なところとしては、そういったメンタリティというのは大きい」
それが、順位を昨シーズンの19位から13位に上げた原動力。J1昇格プレーオフ進出はならなかったが、有意義な1年であったことを示す内容、結果だったと言える。
福岡、熊本とも、同じ期間を過ごし、同じ42試合を戦った。だが、その結果は極めて対照的なもの。その違いはどこにあったのか。それは、これからの福岡が見つけなければならないものだ。同時に、熊本が最終的に目指しているもの、福岡が最終的に求めているものは、J2の舞台で上位を窺うチームになることではない。そういう意味では、両チームともに、次のステップに向かわなければならない立場にあることに変わりはない。いいシーズンも、そうでなかったシーズンも、すべてを自分たちの糧に代えて前へ進むこと。2014シーズンは終わったが、チーム、選手のチャレンジはこれからも続いていく。
最後に、藤本主税に向けて。
1996年5月4日に、福岡の選手として博多の森球技場(現レベルファイブスタジアム)でプロデビューを果たした藤本は、あれから19年の歳月を経て同じスタジアムでキャリアを終えた。熊本サポーターにはもちろん、福岡サポーターにとっても、今でも特別な選手。それはサッカーの神様の粋なはからいだったのかもしれない。これから始まる新しい人生も光り輝いていることを祈っている。
以上
2014.11.24 Reported by 中倉一志
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