試合後の会見で記者からは「優勝の可能性がなくなり、モチベーションの維持が難しかったのではないか」という質問が飛んだ。その言葉に森保一監督は反論。「練習を見てもらえればわかるが、選手たちはみんな集中して、いい練習を積んでいる」と語った。
その言葉に、嘘はないだろう。優勝の可能性は事実上かなり前の時期に失っており、「３連覇消滅がモチベーションに問題を与えた」という判断には与しない。ただ、１週間の準備期間があって肉体的な疲労を理由にできない以上、メンタル面に問題を抱えていたという推論は成り立つ。自らのバックパスがオウンゴールとなってしまった塩谷司は「最初から後半のようなサッカーをやらないと」と神妙に語り、石原直樹や山岸智も同様の思いをはき出した。

では、何がそうさせたのか？
「わからない」
塩谷との関係がつくれず失点を自分の責任と背負った林卓人の言葉どおり、厳密に理由を特定するのは困難だろう。
ムルジャ・泉澤仁・カルリーニョスと、大宮は攻撃に特長のある３選手を前節から入れ替えた。理由は言葉よりも試合の内容が明確。フォーメイションは４−４−１−１。家長昭博とズラタンを前線に残し、あとの８人が２ラインをつくってほぼ守備に専念した。広島が攻め込めばボランチの横山知伸が最終ラインに入って５バックを形成し、渡邉大剛や橋本晃司らのサイドアタッカーも広島の攻撃を警戒してスペースに蓋をする。人数かけて相手を封じ込める狙いは、広島が「緩さがあった」（森保監督）前半は特に機能した。

だが後半、停滞していた紫熊たちの目が覚めた。ホイッスルから圧倒的にボールを支配し、押し込みに押し込む。49分、山岸智のクロスを柏好文が折り返し、佐藤寿人のシュート。枠をとらえることはできなかったが、その後も徹底してサイド・サイド・サイド。セカンドボールも完全に支配し、塩谷もほぼずっと相手のペナルティエリア近辺に位置してゴールを狙う。クリアされても、はじき返されても、横から横から何度も何度も揺さぶることで、中央に構築された「大宮の森」を揺さぶった。
大宮は、完全に専守防衛。前半は自由に位置をとってカウンターを狙っていた家長も、左サイドで守備に専念し、時にはズラタンも含めて全員がボックスの中に入って対応する。広島が高さのある皆川佑介を投入したとみるや、渋谷洋樹監督もすかさず188センチの福田俊介を入れ、制空権を渡さない決意を示した。フォーメーションも明確に５−４−１と変化させ、自陣30メートルのゾーンに11人を集結させて逃げ切ろうと意識した。

76分、右サイドの柏が決意をもって突破を図る。大宮の守備がボールサイドに寄った。そこが一つの狙い目だ。クロス。ゴール前にいた皆川・石原・高萩洋次郎に対して、大宮の身体の寄せはぬかりがなかったが、大外から侵入してきた山岸への注意喚起が遅れた。山岸、たたき付けるようなヘッド。北野貴之が反応するも、ボールは彼の手をはじいてネットを揺さぶった。
だがその後も、大宮は前に出てこない。ムルジャを投入したが、それはズラタンとの交代であり、５−４のブロックはそのままだ。無理に３ポイントを狙いにいって、ゼロになっては元も子もない。一方の広島は「勝利」を求め、攻めに攻めた。83分には山岸からの決定的なパスに皆川が反応する決定機。87分は森崎浩司・皆川・石原の３人が有機的に絡んでチャンスをつくったが、皆川のシュートはポストを直撃した。広島が求めた勝利は届かない。大宮は最低限必要だった勝点１を手に入れたものの、清水が川崎Ｆに勝利したため再び降格圏に転落した。

なりふりかまわない、とはまさにこの日の大宮である。降格の厳しさ、残留への切実さを経験した者ならば、「そこまでやるか」という思いにはなるまい。そこまでやる必要があるのだ。中途半端では、戦えない。守り倒すか、攻め倒すか。やりきらなければ、サバイバルできないのである。神戸（2012年）と東京Ｖ（2008年）が勝点１差で降格し、1999年の浦和が得失点差で降格した歴史を考えても、「この勝点１は大きい」という渋谷監督のポジティブさが必要なのだろう。

ホームで勝てず、肩を落としながらサポーターの元に向かった紫の選手たちに対し、サポーターが唄を歌い始めた。「輝け、俺たちの誇り」。苦しい時、辛い時、どんな時も広島の選手とサポーターの間を強く繋ぐアンセム「Hiroshima Night」である。掲げられた横断幕には「さあ行こうか、CUP WINNERへ」。そのメッセージが、選手たちの希望である。

以上

2014.11.03 Reported by 中野和也