試合を左右したのはいい意味でも悪い意味でも水戸の若さであった。
試合2日前の紅白戦前、柱谷哲二監督は主力組にこう発破をかけたという。「自分たちでやらないといけないんだという高い意識を持って、90分間同じ方向を向いて戦わないといけない。お前たちでやってみろ!」。
この日の水戸の先発平均年齢は24.55歳。今季最も若い組み合わせとなった。鈴木隆行、本間幸司、冨田大介といったこれまでチームを引っ張ってきたベテランが先発を外れたのは今季2試合目。いつまでもベテランに頼り切りではいけないという柱谷監督からのメッセージをいかに選手たちが自覚してプレーできるかが勝負のカギを握った。
序盤は横浜FCの厳しいプレスを受けて、ビルドアップを封じ込められ、押し込まれることとなった。ただ、そこから若いチームとは思えない冷静さを見せた。慌てることなく、無理につなごうとせずにシンプルにロングボールを蹴ることで横浜FCのDFラインを下げることに成功。20分過ぎに横浜FCが間延びし始めると、水戸がゲームを支配しだす。そして26分、右サイドからのCK、ニアで金聖基がそらしたボールをファーサイドに飛び込んだ新里亮が頭でたたきつけて先制点。新里にとってうれしいプロ初ゴールとなった。「内容は途中からよくなって、いろんな修正が加えられた。ピッチ内で修正できたことを嬉しく思います」と柱谷監督は一定の評価を与えた。
しかし、その後、若さが悪い方で出てしまう。42分、横浜FCが右サイドからクロスを入れる。第37節岐阜戦以来、人生で2度目の右ウイングバックに入った内田航平がしっかり締めて先にポジションに入るものの、黒津勝に競り負け、走り込んだ小池純輝に押し込まれて同点に追いつかれてしまう。「しっかり弾くことをしなければ、ああいう事が起きるんだなとボランチ以外のポジションを経験して初めて実感しました」と内田は自らの経験不足に唇を噛んだ。
後半に入ると、水戸は前線に張りがちだった3トップのバランスを修正。高い位置でボールが収まりだすと、厚みのある攻撃で横浜FCゴールを襲った。47分には内田が、48分には田中雄大が、50分には中里崇宏が果敢にシュートを放ってゴールを狙う。後半は対角線のボールを効果的に使いながら、怒涛の攻撃を続けた。
そして87分、ついに横浜FCのゴールをこじ開ける。船谷圭祐が蹴った右CK、ニアに走り込んだ鈴木雄斗が頭で合わせる。思い切り叩きつけたシュートはそのままゴールネットに突き刺さり、土壇場で勝ち越しゴールを決めたのだ。プロ3年目の20歳。今季はじめて3トップの頂点でプレーした若者の値千金のゴール。スタジアムは興奮のるつぼと化した。
このまま試合を終えることができれば、若い選手たちの大きな自信になったことだろう。しかし、再び悪い若さが顔を見せた。89分、ゴール前で横浜FCの攻撃を防ぎ、流れたボールを田中が拾う。その瞬間、GK笠原昂史は「体が外向きだったのでクリアすると思った」が、田中はバックパスを選択。やや逸れたパスに笠原は反応できず、ボールはゴールラインを割り、献上したCKからの展開でゴールを決められてしまったのだ。
「最後にやってはいけないプレーをしてしまった」と金は悔やんだ。若い力でもぎとりつつあった勝利が若さゆえに手からこぼれ落ちてしまった。それほど悔しいことはない。
しかし、若さには無限の可能性が秘められている。この悔しさを忘れず、残り3試合に生かすことができれば、必ず来季につながるはずだ。若手と中堅がチームを引っ張り、頼れるベテランと融合した時、チームはさらにレベルアップする。より一層意識を高めて、残り3試合を戦い抜いてもらいたい。
執念で追いついてドローに持ち込んだ横浜FC。しかし、残念な結果に終わったと言わざるを得ない。前節山形に勝利して、プレーオフ圏内の6位との勝点差を6に縮めていた。6位以内に入るために今節アウェイとはいえ、勝利だけを求めて試合に臨んだ。
序盤こそ積極的なプレスで押し込むことができたが、20分以降は水戸のロングボールを多用した攻撃に苦しみ、後半は押し込まれる展開が続いた。GK南雄太を中心に粘り強い戦いを見せて最後に同点弾を決めたものの、勝ち切ることはできなかった。
これで6位との勝点差は8に。現実的に厳しい数字となってしまった。ただ、わずかながら可能性がある限り戦わなければならない。いや、可能性がなくなっても、最後までファイティングポーズを取って戦うことがプロとして求められる。まずは次節岡山戦(11/9)、終盤に見せたような執念を持って試合に挑みたい。
以上
2014.11.02 Reported by 佐藤拓也
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