「自分のなかで『もう限界だな』と思ったのが、引退を決めた理由です」
10月27日、熊本市のうまかな・よかなスタジアムで行われた記者会見で、藤本主税はそう口にした。
さらに続ける。
「小野さんのサッカーは中盤の選手にも守備を求めるサッカー。自分のなかで『求められることができていない』とも感じていて、それがピッチで表現できないのなら、もう選手としては終わりだなと。そういうふうに思いました」
昨年末に手術した右膝をはじめとして度重なるケガはあったが、「もう完治してるんです」と、それが直接の理由であることは否定する。そうしたなかでパフォーマンスは思うように上向かず、特に今季は、今までにないほど悔しさに満ちたシーズンになっている。それは外から見ていてもわかる。
小野剛監督には、「小野さんじゃなかったら、僕、もう1年やれたと思います」と伝えたというが、そこに込めたのは起用されないことへの反感ではなく、敬意と感謝の思いだった。
「“守備はここまで求めるものなんだ”と教えてくれたのも小野さんなんで、すごく感謝してます、と伝えました。苦笑いされてましたけど、帰り際になぜかハグしたんで(笑)、それがすごく印象的です」
もちろん、数字に表れない部分での功績は決して小さくない。ただ彼本人にとって、19年におよぶキャリアの最後に過ごした熊本での3シーズン、「プレーヤーとして残せるものはなかったと思う」と振り返るように納得のいく結果は出せなかった。だが一方で、とても密度の濃い、ある意味では充実した時間だった。
会見で今後のことについて聞かれた際、自ら北嶋秀朗アシスタントコーチと南雄太(横浜FC)との出会いについて言及したものの、おそらくは胸が締め付けられるような思いが沸き上がってきたのだろう、合わせて40秒ほど、言葉を詰まらせ、あふれそうになる涙をこぼさないよう、目頭を抑えた。
「2人と出会って、…自分の居場所を見つけたというか。自分が監督になって、北嶋がコーチになって、南がGKコーチをして。そういう夢を、3人で見つけたので、そこを目指したい」
北嶋は1年早く選手生活に幕を下ろして次のステージに1歩を踏み出し、南は横浜FCへと戦いの場を移した。練習で同じピッチにいるとはいえ、選手とコーチという立場になったことで、去年までとは北嶋と一緒に過ごす時間も、そして関係も変わった。それが引退という結論を導き出した要因ではないにしても、心をかわした盟友がいっぺんに離れたことでの「喪失感はハンパなかった」と、藤本は照れながら言う。
3人のサッカー人生が熊本で交わったのは、いくつかの偶然が重なっただけかもしれない。彼らが同じピッチでプレーする時間をわずかでも傍らで見ることができたこと、そのうち2人が熊本でユニフォームを脱ぐにあたり、その時点での思いを直接、その口から聞けたことは、我々にとっては幸運なことだ。ただ、少なくとも彼ら3人にとってはただの偶然ではなく、その後のキャリアを大きく左右する、「熊本の奇跡」とでも言える出会いになったのではないかと思う。
会見を終えた時点で「最終節まであと27日」と話し、「1試合でも、1分でも1秒でも長くピッチに立つ」ために「今の課題は守備なんで、そこを少しでも高めたい」という意識で藤本主税はトレーニングに臨み、それを見守り、導こうとする北嶋秀朗がいる。横浜からはもちろん南が、そして大宮や広島、福岡、名古屋、神戸と、彼がかつて所属したクラブでともに戦った選手やスタッフ、サポーターたちも、少なからず気にかけていることだろう。
すでに始まったカウントダウンは次の幕が開くまでのそれでもあるが、まずは残り360分のなかで背番号11が躍動する姿と歓喜の表情、そしてあのパフォーマンスをなんとしても見せてほしい。主税はたぶん、奇跡を起こす力を持っているのだから。
以上
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★藤本主税選手の引退記者会見でのコメント及び質疑応答は、webマガジン、kumamoto football journalでご覧いただけます。
2014.10.28 Reported by 井芹貴志
J’s GOALニュース
一覧へ【J2日記】熊本:もう一度、奇跡を(14.10.28)
27日、引退記者会見に臨んだ藤本主税。自分の言葉でていねいに、決断に至った理由を説明した
熊本で濃密な時間をともに過ごした北嶋と南のことに触れると、言葉を詰まらせ目頭を抑えるシーンも
ひと通りの質問に答えたあとのフォトセッションで。「どのユニフォームが思い出深い?」と尋ねられ、「そらロアッソに決まってますやん」とメディアを笑わせ、自らも表情を緩める
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