試合の内容や流れから言えば、新潟が勝つのが順当と考える第三者も多いだろう。だが、勝敗はそれだけで決まるわけではない。どちらに転ぶかわからない展開になった土壇場で、J1残留にかける清水が発揮した力。それが平日の雨天のゲームに駆けつけたサポーターに、大きな勇気を与えてくれた。
清水のスタメンは過去2試合とまったく同じで、このところ良い流れを生んでいる4-1-4-1の形。新潟の方も前節と同じだが、田中亜土夢が右MF、山本康裕が左MFと2列目の2人が左右を入れ替えていた。
不規則な風を伴う雨が降り続く中、ピッチ状態は問題なく、ボールがよく走るため、両チームの選手たちはむしろやりやすいぐらいの感覚だったのだろう。立ち上がりから中3日の試合とは思えないようなハードワークと球際の激しい攻防が繰り広げられ、見応えのある展開に。ホームの清水としても「横浜FM戦のような(動きの)鈍さというのはなかった」(大榎克己監督)が、調子を上げてきた新潟の動きも良く、ほぼ互角の展開で試合は始まった。
そんな中、開始12分の右CKで、大前元紀のキックをニアサイドの平岡康裕が後ろにそらし、そのボールを石毛秀樹が頭で押し込んで、ホームの清水が絶対に欲しかった先制点を奪い取る。その後も、守りに入ることなく落ち着いて試合を進めた清水が、サイドからチャンスを作る場面があったが、新潟守備陣もゴール前でしっかりと対応。ゴール前で安定した守りを見せたのは清水も同様で、前半の最後こそ少しカウンターの打ち合いになったが、締まった展開のまま後半に折り返した。
だが後半に入ると、新潟が動きや勢いで上回り、主導権を握っていく。逆に清水の方は徐々に動きが落ち始め、そうなると新潟の狙いが前半以上に効果を発揮し始めた。「相手のスペース、隙間をうまく使って攻撃できていた」(柳下正明監督)という言葉通り、清水の1ボランチ・本田拓也の両脇のスペースを突いて縦パスを入れ、そこで起点を作ってサイドを使ったり、裏を狙ったりという攻撃がよく機能。清水の方も、前からのプレッシャーが甘くなって、縦パスを自由に出しやすい状況を与えてしまい、それでDFラインを上げることもできず、新潟の狙いをアシストする形に。スピードのある鈴木武藏の裏への飛び出しや、右サイドバック・松原健の攻撃参加も光り、時間を追うごとに新潟が押し込む場面が増えていった。
それでも清水はゴール前で何とか耐えていたが、その展開では当然、新潟のセットプレーも増えてくる。そして後半27分、左CKのこぼれ球をファーサイドの小林裕紀が折り返し、それをセンターバック・大井健太郎が頭で叩き込んで、新潟がついに清水ゴールをこじ開け、同点に追いつくことに成功した。
その後も新潟の優位は変わらなかったが、清水の選手たちも気力を振り絞って重い身体を動かし、勝ち越し点を狙っていく。その頑張りはスタンドにも十分に伝わり、見守る側としては、何とか勝ってほしいと祈るような想いで胸が締めつけられる時間が続く。できるだけ客観的に試合を観るべき記者の立場でもそうだったのだから、J1残留のために全身全霊で応援を続けているサポーターは、どれほど胸が苦しかったことだろう。
だが、そこで清水にとっての救世主が現われた。残り3分でピッチに入った村田和哉が、後半45分に右サイドでボールを受け、ドリブルで対面のDFをかわしてルックアップ。その時点ではゴール前のノヴァコヴィッチへのパスコースが空いていなかったため、村田はひとつタメを作ってノヴァコヴィッチがステップバックしてフリーになるのを待ってからグラウンダーのクロス。これをノヴァコヴィッチが冷静にゴール左に流し込んだ。
まさにチームを救う起死回生の勝ち越しゴール。「残留という目標に向かって人生を賭けて戦っていきたい」(村田)という強い気持ちだけでなく、そこに冷静さも伴っていたことが、清水のチーム全体、サポーターにとって何とも頼もしい2人の働きぶりだった。
そして、4分間のアディショナルタイムを全員で守り切ってつかんだ本当に貴重なホーム2連勝。これで清水は甲府を抜いて15位に上がり、4試合ぶりに降格圏を脱出。残留争いも正念場に入ってきた中、残留のために必要なことは何なのか。それを考えると、この試合のような勝ち方も、絶対に必要な要素のひとつと言えるのではないだろうか。
以上
2014.10.23 Reported by 前島芳雄
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