『絶対残留』
C大阪の応援席に掲げられた弾幕は、この一枚のみだった。
セレッソピンクに埋められたゴール裏、歓声が悲鳴に変わったのはアディショナルタイムに入った2分のことだった。
「遠いところまで来てくれたサポーターに勝利をプレゼントできなかったことを申し訳なく思う」と大熊裕司監督は静かに語った。
掲示されたアディショナルタイムは4分、この時間さえ乗り切れば勝点1は手にできた。その勝点1が、リーグ戦残り6試合でどれだけの意味を持つのかはわからないが、今節得ることができなかった勝点の重みは相当大きなものになったのではないだろうか。アディショナルタイム2分。記録上は90+2分の出来事。鳥栖にとっては、リーグ終盤まで優勝争いを演じる主役に躍り出るゴールであり、C大阪にとっては、残留争いを繰り広げる他チームから引き離されるゴールだった。
そのゴールをお膳立てしたのは、ハーフラインからC大阪陣内に5mほど入ったところでボールを受けたCB菊地直哉だった。彼の視界には、自陣ゴール前にラインを引くC大阪DF陣とその前でフリーでいたMF金民友だった。迷わず30mのボールを金民友に入れた。受けた金民友は左足でC大阪ゴールに向かってコントロールした。彼の視界に入っていたのは、GKキム ジンヒョンとCB山下達也。そして、左サイドからシュートコースを消しに入ってきたSB酒本憲幸だった。残された選択肢は、右足でのシュートとマークが外れた4分前にピッチに入ってきたFW播戸竜二へのパスだった。
「DF(酒本憲幸)が入ってきたのは見えていたし、播さん(播戸竜二)がサイドでフリーになったのも見えていた」と金民友は迷わず右足からのパスを選択した。この時点で、ファーサイドにポジショニングしていたFW豊田陽平のマークは、SB丸橋祐介のみ。ボールが左サイドに出たために丸橋祐介の身体が右に(鳥栖の左サイド)に向いた瞬間に豊田陽平は完全にファーサイドでフリーとなった。
「あと50cm前へボールを置けたらいいシュートに・・・」(播戸竜二)なるはずだった播戸竜二のシュートは、フリーとなった豊田陽平への絶妙なクロスとなった。
「来い!」と思っていたと豊田陽平はこのシーンを振り返る。播戸竜二に渡った時点では、クロスなのかシュートなのかはわからないはず。それでも、「パスが来たらしっかりと決められるように、シュートならばこぼれたところやGKが弾いたところに詰めようと考えてポジショニング・・・」(豊田陽平)したのだから恐れ入る。同じようなフレーズを前節の横浜FM戦でも聞いた。この試合も決勝点は、彼のヘディングシュートから生まれた。2試合連続で決勝点をあげるくらい調子がいいのだろう。彼の好調さに比例して、チームも本来の強さを取り戻してきた。残り試合は6試合。優勝争いを演じているチームとの対戦(川崎F・浦和・鹿島)も3試合を残す。3位に浮上し、リーグ優勝争いの主役に躍り出たとも言えるだろう。
敗れたC大阪は残留争いの真っ只中ということもあり、このゴールを境に両チームの歓喜が明確に映った。シーズンを振り返った時に、両チームにとって外すことはできないゴールだった。
そして、鳥栖のサポーターには追い風となるデータを紹介して脱稿とする。鳥栖がJ1で戦うようになった2012年からの3シーズンで、最も得点を挙げているのが豊田陽平(今節終了時点までで通算52得点)である。優勝した広島の佐藤寿人でも、W杯に出場した川崎Fの大久保嘉人でもない。そして、豊田陽平はリーグ戦終盤になると得点を量産している。昨季のホーム最終戦でのハットトリックは忘れることはできない。エースが点を取ってチームが首位を猛追する構図を今季は見られそうだ。今季は、最終節まで目が離せない。
好みは色々とあるだろうが、あるアンケートで『一番盛り上がるスコアは?』というものがあった。集計結果で多かったのは、“1-0”、確かにそう思う。得点機会の少ないサッカーだからこその結果なのだろう。ゴールを守りながらゴールを奪いに行くサッカー。攻守の切り替えが早いからこそ、劇的なゴールが生まれるスポーツでもある。
以上
2014.10.19 Reported by サカクラゲン
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