「本当にどっちに転んでもおかしくないようなゲーム内容だった」
試合後、多くの報道陣に囲まれた佐藤寿人の言葉は決して謙遜ではないだろう。スコア上は2−1も、内容的にはそれ以上に柏が圧倒した試合だった。しかし広島は土俵際で踏ん張り、アウェイで挙げた1つのゴールによって決勝行きの切符を手繰り寄せた。
第1戦で2−0と先勝した広島。森保一監督は「ノーリスクというサッカーではなくて、普段我々がやっているサッカーを貫き通していこう」と、いつもと変わらぬゲームプランを立てる。試合の入りも良く、立ち上がりからCKを奪うチャンスも訪れた。
だがそれ以上に、柏の選手たちが試合開始早々から見せたアグレッシブな姿勢と、それを後押しする日立台の雰囲気が、ジワジワと広島を後退させていく。柏は縦パスを受けたレアンドロがタメを作り、工藤壮人とドゥドゥが絡むか、ボランチにさばいて、両ワイドの橋本和、藤田優人へ展開。しかも攻撃だけに捉われることなく、アグレッシブな意識の中にも冷静さは保ち、「特別なことをするんじゃなくて、今まで自分たちがやってきたことを今日もやりながら2点の差を埋める」(大谷秀和)と、後方の選手にはリスクマネジメントが徹底されていた。時折広島が繰り出すカウンターにも柏の3バックがタイトなマーキングと、危険予測の鋭い大谷のカバーリングで佐藤寿人、石原直樹、高萩洋次郎に仕事をさせなかった。
なんとか水際で耐え続けていた広島の守備を、38分に柏がようやくこじ開ける。前からの厚みのある攻撃でセカンドボールを拾うと、橋本のクロスをGKの手前でレアンドロがわずかに頭で触ってコースを変え、ネットを揺らす。
先制弾に大きく沸き立つ日立台。この雰囲気がさらに広島にプレッシャーを与えたのか、51分には広島守備陣にビルドアップのミスが生じさせ、そこを見逃さずにボールを奪い取ったドゥドゥ。そのパスをレアンドロが確実にゴールに流し込み、2−0。トータルスコアで同点に追い付いた。
その後もレアンドロのヘッドが林卓人の正面を突き、さらにはシュートはブロックされたがペナルティーエリア内で工藤が前を向いたシーンなど、柏には3点目が生まれる気配がふんだんに漂っていた。
この日立台の雰囲気に飲まれると、例えば今季のリーグ戦では、川崎Fは8分間に3失点、鳥栖は失点した8分後に再び失点をするという、リーグ上位のチームであろうと立て続けに失点をするケースがある。しかし、さすがはJリーグ2連覇中の王者・広島である。2−0となった後、押し寄せる柏の攻撃を浴びてもそれ以上の失点は許さず、ここが勝負どころだと見極めたかのようにタフに耐え続けていた。
決勝行きの切符は3点目を奪えば柏が握ることになるが、1点を返せば逆に広島の手元に渡る。そういう冷静な判断は、ハイテンションな試合中、しかもこうまで劣勢を強いられた中ではそう簡単にできないものだが、そこは優勝をしてきた経験と自信がなせる業だ。「次の1点を奪えばいい」と言わんばかりに、広島は土俵際で踏ん張りながら虎視眈々と反撃のチャンスを窺う。
そしてその瞬間は74分に訪れる。広島はカウンターから左サイドの柏好文が仕掛け、ゴール前へ鋭いクロスを送る。GK桐畑和繁がキャッチし切れずに手元からこぼれると、石原がプッシュ。大きな大きなアウェイゴールが突き刺さった。
勝ち上がるには2点が必要となった柏は諦めることなく、最後まで可能性を信じて攻め続ける。6分という比較的長めのアディショナルタイムだけでも、橋本の折り返しから増嶋竜也、太田徹郎のスルーパスから高山薫、左CKからレアンドロと、3度の決定機を作った。だが、そのいずれも、高い集中力を保ち続ける広島守備陣のプレーが跳ね返す。
そして、試合が終了。力尽きた柏の選手は倒れ込み、土俵際まで追い込まれた広島の選手は、苦心の末に勝ち取った決勝進出の歓喜に沸いた。
「レイソルはビッグゲームをした」(ネルシーニョ監督)。
まさにその通り、緊迫感に満ちた素晴らしい試合だった。それは柏が見せたアグレッシブな姿勢だけではなく、広島というJリーグを連覇した強敵が相手であったからこそ、いわば近年タイトルの味を知るチーム同士が、今季もタイトルを目指して極限の戦いを繰り広げた、そのぶつかり合いがこのビッグゲームを生んだ。
柏のヤマザキナビスコカップ連覇を阻んだ広島は本当に強かった。11月8日のファイナルでも歴史に残るような好ファイトと好ゲームを期待している。
以上
2014.10.13 Reported by 鈴木潤
J’s GOALニュース
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