「戦え、水戸!」。3失点目を喫した後、バックスタンドのサポーターの叱咤とも言える声がスタジアムに響き渡った。それは見る者の思いを代弁するものであった。
この日の水戸は戦えなかった。敗因はその一言に尽きる。球際の争いで甘さを見せ、ボールホルダーへの寄せも遅い。これまでタイトな守備をベースにしてきたチームとは思えないプレーが前半は散見された。
その象徴と言えるのが2分の失点場面だ。富山の右CK、キッカーの内田健太は密集地帯ではなく、マイナスにボールを入れた。待ち構えていたのは前貴之。右足を振り抜いてゴールに突き刺したが、「ぽっかり空いてしまった」と船谷圭祐が振り返るように、水戸の選手の対応はあまりにも遅かった。「やってはいけないことをやった」と柱谷監督が憤慨したように、これまで何度も変化のあるセットプレーへの対応をトレーニングで行ってきたにも関わらず、こうした対応を見せてしまうのは選手たちの心に隙があったと言わざるを得ない。
その後も緩慢なプレーが続いた。28分には右サイドでボールを持った前への「寄せが中途半端」(本間幸司)でミドルシュートを叩きこまれ、43分にはDFが簡単に体を入れ替えられて苔口卓也に3点目を許してしまう。前半だけで3失点。「相手云々ではなく、自分たちで(ゴールを)プレゼントしている」という柱谷監督の言葉通り、ルーズでずさんな守備で自分たちの首を絞めた。
後半、やっと目を覚まして富山を圧倒する攻撃を見せるものの、体を張ってゴール前を固める富山の守備を崩しきることができず。反撃は82分の小澤司のミドルシュート1本にとどまった。結局、今季12試合目の1点差負け。「非常に悔しいし、もったいない」と柱谷監督は嘆くしかなかった。
「このチームは力がある」と柱谷監督は言いきる。第33節では磐田相手に4対1の大勝をおさめたのをはじめ、多くの試合で相手を圧倒する内容を見せてきた。だが、それでも下位に沈んでいるのは「90分続かないから」と柱谷監督は説明する。この日も後半は選手たちが流動的に動いて各局面で数的優位を作って、富山の守備を翻弄して再三チャンスを作り出した。また、守備でも積極的にプレスをかけて富山に攻め手を与えなかった。ただ、それはビハインドを負ってからではなく、最初からやらないといけないこと。いくら力があるとはいえ、それが時間限定ならば、本当の力とは言えない。現状の順位と結果が水戸の実力であることを受け止めざるを得ない。それを証明する敗戦であった。
自分たちの秘めているポテンシャルを出し続けるメンタルが今季のチームには欠如している。ただ、それは自分たちでしか変えることはできない。試合後、柱谷監督は選手たちに「どうやって変えるか?」と問うた。その答えを出すために残された時間はわずか6試合、540分。今季の水戸はこの程度のチームだったのか。プロとしてのプライドをかけて、死に物狂いで、それを全否定するプレーと結果を見せてもらいたい。
富山は意地を見せた。13時キックオフの福岡対讃岐戦で21位の讃岐が勝利したため、プレッシャーは大きくなっていた。だが、「とにかく全力で戦った結果を受け入れよう」(安間貴義監督)と目の前の試合に集中して試合に臨んだ。水戸のルーズな守備に付け入り、着実に3得点を決めると、後半は猛攻を受けながらも粘り強い守備でゴールを死守した。1点を返されたものの、かろうじて逃げ切り、4試合ぶりの勝利を手に入れた。20位東京Vとは勝点16差、21位讃岐とは11差。残り試合を考えると厳しい状況に変わりないが、誰ひとり諦めている者はいない。可能性を信じて戦う。その意志を示す勝利であった。
以上
2014.10.12 Reported by 佐藤拓也
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