ベスト8と言うとまだまだのように感じるが、見方を変えればあとわずか3勝で優勝である。しかも、1ヵ月に1勝ずつ挙げれば良い。今季の天皇杯は大会中の継続した勢いは保ちにくい反面、一発勝負に集中して望めるのが利点の一つ。そのためかどうかはわからないが、J2クラブが準々決勝8枠のうち3つを占める珍しい大会にもなった。J1勢からしてみれば勝つチャンスが広がったようにも感じられ、J2勢からしてみればジャイアントキリングの妙味が戦意をかきたてる。共通しているのは、8つのチーム全てがタイトルを現実的に感じられているだろうということだ。
苦境を乗り越え8強の一角を勝ち取った名古屋は、状況的に優位に立っているチームといえるだろう。準々決勝で対戦する清水や大宮、C大阪はいまだJ1残留争いの最中であり、前述したようにJ2クラブが3つ残っている。唯一、G大阪だけはリーグ戦で上位争いを演じ、いまだ3冠の可能性を残す今季の強豪。ゆえに下馬評を組むとすればG大阪と名古屋が上位に位置することは間違いない。トーナメントの力関係はリーグ戦とはまた別物だが、戦前の予想としてはそれが妥当なところだろう。
また現況も名古屋を後押しする。現在名古屋はリーグ戦ここ5試合で3連勝を含む4勝1敗。9得点3失点と内容も上々だ。ここ2ヵ月で形になってきたカウンターサッカーは試合を迎えるごとに鋭さを増し、それに比例するにように守備も緊密さを増してきた。好調のチームからは田口泰士が日本代表に選出されるなど、クラブ全体としても上昇気流に乗っている。準々決勝4カードのうち、ただ一つの土曜日開催ということも、コンディショニングの面ではむしろ好都合。名古屋の選手たちは週1回ペースの試合を「やりやすい」と歓迎してもいる。
ただし置かれた現状という意味では、名古屋市瑞穂陸上競技場に乗り込んでくる清水は不気味な存在といえる。名古屋とは対照的に、リーグここ5試合の成績は1勝4敗。6得点12失点と内容も散々なものだったが、1勝が前週に行われたC大阪戦の結果である意味が大きい。降格圏での連敗から抜け出した3得点・無失点での快勝劇は、沈んだチームの雰囲気を大きく弾ませるに十分だったことは想像に難くない。その勢いを次週のリーグ戦へつなぐためにも、苦難のシーズンで残されたタイトル獲得の好機を逃さぬためにも、名古屋との一戦へかけるモチベーションは最高潮に達していることだろう。大前元紀や高木俊幸など有能な若手タレントの多いチームであることも、清水が爆発しそうな予感を抱かせる一因だ。
好調の名古屋だが、こと天皇杯に関しては懸案事項もある。加入後8試合で4得点と前線の核となっている川又堅碁は、新潟ですでに出場しているため名古屋では出場できない。同じ長身FWのケネディは腰の治療のため一時帰国中で、清水戦には間に合わない。しかし、レアンドロ ドミンゲスはラウンド16から出場可能となっており、最前線を務める選手の選択は西野朗監督も悩みどころだ。考えられる候補は永井謙佑か松田力あたりだが、永井は左サイドハーフでの型を確立しつつあるため動かさない方が得策。となれば、消去法ではあるが、松田への期待は高まる。今季は右サイドハーフが基本ポジションとなっているが、FWに入った時の動きは常に及第点以上。本人も巡ってきたチャンスに意欲を燃やしている。
「あまりゴールが取れてないんですけど、シュートまでのイメージはできているんです。左からカットインしてのシュートや、反転シュート、相手が打ってこないだろうという間合いでのシュートを打ちたいんですが、サイドハーフの時は守備もあるし、スペースもあまりないのでなかなかできていません。だからFWで使ってもらえたなら、もうゴールしかないですよね。FWで自分がやれるってところをアピールします」
チームのシュート練習では西野監督も認めるシュートの型を持つ男だ。川又以上に“ギラギラ”と得点に飢えるストライカーのプレーには期待しておきたい。
試合展開を予想すれば、まずは清水の出方によって流れは決まる。カウンターが基本の名古屋は相手が前に出てくればより鋭さを増し、下がればその威力が下がる傾向にどうしてもなってしまう。引いた相手を崩すにはポゼッションや高さを活かしたプレーが有効だが、ゲームメーカーの田口に加え、川又、ケネディも不在。前者はレアンドロや矢田旭、磯村亮太らでカバーはできるだろうが、高さの面ではどうか。また、スペースがなくなることで永井の良さが半減するのも難題だ。前週の神戸戦では自陣でのパスカットから60mを独走してのドリブルシュートを決め、「なかなかないゴール。あそこまで相手が見えていたのは珍しい」と自画自賛した絶好調男も、自慢の快足を生かす空間がなければ苦戦は必至。「次はホームだし、勝ちたい」という意気込みをどのように表現してくるかは見ものだ。清水は大前、高木俊らのサイドを起点としたサイドアタックがやはり最大の武器か。
最後に、この準々決勝から大会パンフレットの内容が一新されるのだが、その中には8強チームの代表選手たちによるインタビューが掲載されている。名古屋の代表はプロ20年目の重鎮・楢崎正剛だ。このところ足の負傷との戦いが続いている38歳の守護神は、トレーニング量を調節しながら試合出場へのコンディショニングを繊細に続けている。正直言って、並の選手ならば欠場しているような状況だが、4度のファイナリストと2度の優勝を誇る男は強い。「パンフレット、読んでくださいね」と言うと、「そこは『読んでください』、じゃなくて『インタビュー載っているんだからちゃんと出場してくださいね』と違うん?」と笑い飛ばされた。彼がいることは名古屋の大きなアドバンテージだ。
名古屋も清水も不満の募るシーズンを送ってきただけに、残されたタイトルのチャンスには食らいつきたいところ。その思いがアグレッシブなサッカーのぶつかり合いを生み、スタンドを沸かせる好ゲームとへと発展してほしいものだ。
以上
2014.10.10 Reported by 今井雄一朗
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