メインスタンドから見て左から右へと強い風が吹き抜ける本城陸上競技場。もともと風の強いスタジアムだが、この日はボールの煽られるのがはっきりと分かるほどの強さで吹き抜けていた。その風のせいだろうか、それとも低い気温のせいだろうか。あるいはゲームコントロールのせいだろうか。何となくざわざわと鳴るような不思議な心地のまま試合が進んでいった。
前半、風上に立ったのは富山。立ち上がりから高い位置でのプレッシャーが効き、早い時間からセットプレーやミドルレンジからシュートチャンスを得ていく。ところが先制したのは北九州だった。8分、内藤洋平の左からのCKに小手川宏基が頭で合わせてゴール前に送ると、池元友樹が混戦の中からシュート。DFに当たったこぼれ球を原一樹が押し込み北九州が幸先良くゴールを奪う。しかし、富山は「風もあるし芝もすごくよくてボールも止まっていたので空中を利用して上からいくのもひとつの手」(安間貴義監督)という狙いが浸透。先制されるも焦りはなく、攻守のアグレッシブさが消えることはなかった。
17分、北九州のゴールキックが風で押し戻されたところを富山がキープ。ショートカウンターに出ると、木本敬介が間隙を突いてミドルシュート。「右で止めて左で打つというイメージ通り」(木本)というシュートは鮮やかな弾道のままゴール左隅に収まり同点とした。さらに直後の21分、敵陣中央でフリーキックのチャンスを得ると、一度はシュートが弾かれるがセカンドボールを冷静に繋いでチャンスメイク。再び木本がクロスを送り、風で伸びたところに秋本倫孝が頭で合わせて逆転に成功した。1−2。風上に立ち、空中戦も制した富山が優位にゲームを運んだ前半だった。
後半は逆に北九州が風上。しかし…。「風上になったのでしっかり押し込んで、押し込んだ中でゲームをしていこう」(柱谷幸一監督)という意図を持って残り45分のピッチに立ったが、押し込んでいるものの富山ほどは風を「追い風」にはできなかった。
それでも58分、「押し込んだ中でのゲーム」というプランが得点に結実する。起点は右サイドの深い位置から送ったセンターバック・渡邉将基のクロス。ニアサイドで池元友樹と相手DFが競り合いボールがマイナス方向にこぼれると、拾った小手川宏基がシュートを放つ。そのシュートもブロックに弾かれるが、押し込んでいた北九州は人数も足りていた。今度は内藤洋平がこぼれ球に詰めて同点とする。「ゴール前に残っていたのでゴールは狙っていた。相手より集中していたのがゴールを取れた要因」。内藤の状況判断の冷静さとゴールへの熱い意欲が呼び込んだ同点弾だった。
ただタイスコアになって以降は互いにチャンスを作り出すも決定機を決めきれなかった。特に北九州は通常の北九州1試合分相当に近い9本のシュートを放つも、個々の精度を欠きゴールを割れなかった。押し込んでいたことは確かで、前半に比べればミスは減ったものの、そのざわざわとした地に足の付かないゲームを続けてしまっていた。終わってみれば2−2の引き分け。勝点1を分け合う結果となった。
強風の中でも狙いどころをはっきりさせ、自分たちのストロングポイントを出したという点では富山に軍配の上がる内容だった。「先に失点したのに2点取り返せたことは自信になると思う」と話した木本ら特に前線3人の展開力やプレスは間違いなく富山のコアとなっている。「相手のゴールに最後まで飛び出ていった選手にとても感謝している。悲壮感は漂っていないので、もう目線を次に向けやっていきたい」とは安間監督。この試合で断ち切った連敗の悪い流れを、次節では勝点3へと飛躍させたい。
北九州にとっては勝点1を拾ったとも、勝点2を落としたとも言えるだろう。いずれにしても試合を通じて漂った(もう少し厳しく言えば漂わせてしまっていた)ざわざわとした空気感がミスや集中力の低下を招いていた。
1失点目は風下にある中でロングフィードを高く浮かせてしまったことが一因。2失点目も伸びるボールに対する対応とオフサイドラインのコントロールにミスがあった。いずれも風は影響したとはいえ防ぎようのある部分。試合後、選手たちは一様に「集中が必要」と話していたが、まさしく集中することで同じような失点は阻止することができるだろう。同点ゴールでチームを救った内藤はこう話した。「(風があるという)いつもと違う環境の中でいつも通りのプレーができるのが一番いいが、そうじゃないことが出てくる中でチームがカバーしながら対応していければ大丈夫だ」。
秋のゲームに問われるのはチームの地力。チームの中で助け合い、いかに高めあっていけるか。踏ん張りどころにさしかかっている。北九州にとっても富山にとっても価値あるドロー、糧となるべき風の試合となった。
以上
2014.10.05 Reported by 上田真之介
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