キックオフ時点での気温が30℃を超えたのは、5月31日の第16節・富山戦以来、約4ヶ月ぶり。もっとも、気象条件はどちらにとっても同じである。ただ、その中でもボールを握って主体的にゲームを進めようとした熊本に対し、北九州はいつも以上に、引いてブロックを作る戦い方を徹底した。それが直接、結果を左右したかと言えば、勝敗を分けた要因は他にもあろう。だが90分を通じたゲーム全体の流れには、少なからず影響した。
「連戦で、1時キックオフで、この気温。厳しい条件の中なので、ある程度スローテンポは仕方がないかなと割り切っていた」と北九州の柱谷幸一監督は振り返る。実際、北九州はボールに対してプレッシャーをかけるのではなく、まずはそれぞれのポジションに戻ってリセットし、スペースを消すことを優先。その上で、「縦に入ってくるボールでしっかり潰す」(同監督)ことに力を注いだ。攻撃に関しては池元友樹と原一樹のカウンターである程度チャンスを作れると見越している。
そうした中でも、熊本は仲間隼斗、澤田崇らが相手のブロックの間に入っては受け、そこからサイドや背後へ配球する攻撃を展開。6分には右コーナーからのボールをつないで仲間がクロスバーをかすめる右足ミドルを放ち、12分には中山雄登が持ち込んでシュート、14分にもボックス内で受けた巻誠一郎が反転からのシュート、そして16分には開幕戦で見せたのと同じような形から園田拓也が直接フリーキックを狙う等、押し気味に試合を進めていく。相手のプレッシャーがさほどきつくなかったこともあり、出足良くセカンドボールを拾い、高柳一誠と中山のボランチ2人が前向きでプレーできる機会が多かったのも主導権を握る一因になった。北九州が形成するブロックに無闇に突っ込むことを繰り返していたわけではなく、小野剛監督も「選手達の判断はかなりいい形で、しっかりとボールを動かす所は動かす、その局面は作ってくれた」と話す。ただ時間が進むにつれて、攻撃の緩急、メリハリが見られなくなっていった。それは「攻撃のタイミングを自分たちでつくろう」「攻守の切り替えの意識を」と、2つのことに触れた小野監督のハーフタイムコメントからもうかがえる。
北九州にとっては、「自分たちはいいポジションから守備をスタートしていたので、後ろで回される分にはそんなに怖くない」という柱谷監督の言葉の通り、熊本がボールを握ること自体はプランの範囲内だった。相手のペースでゲームが進む中でもペナルティエリアへの侵入は網を張って防ぎ、サイドからのクロスは前田和哉と渡邉将基が跳ね返し、そして枠に飛んできたミドルシュートも大谷幸輝がしっかりと抑えて、前半を折り返した。
ただ、後半に入ってから北九州のギアが急激に上がったわけでもない。62分には小手川宏基からのパスを受けた原が右から持ち込み、その跳ね返りに池元が詰めているが、池元はこの決定機を決め損なっている。その直後、「どこかのタイミングで入れて、点を取りたい」と、柱谷監督は原に代えて渡大生を投入。それから10分後の75分、遂に試合が動く。池元からのパスを受けた渡はゴールに向かって突進。追ってくる熊本のDF陣を振り切り、止めにきたGK畑実もかわして、体勢を崩しながらも無人のゴールに右足で流し込む。これが決勝点となった。
「勝っている時は良く言えばリスクを冒さずにチームのために何が必要か考えますが、0−0や0−1であれば、自分のしたいようにしてリスクの冒せるところはリスクを取る」と渡は試合後に話しているが、決定力というよりむしろ、こうした判断の部分での差が結果としてスコアに表れた形だ。
北九州は3試合ぶりの勝利で、順位は変わらずとも3位磐田に勝点差3に迫った。柱谷監督が話すように、上を目指す姿勢は昇格争いとリーグ全体を盛り上げ、さらに言えばチーム全体のレベルアップにもつながる。J1ライセンスが厳しい状況にあっても、こうして結果を出すことでモチベーションは最後まで保たれることだろう。
熊本はリードされて以降、巻を下げて黒木晃平を、さらにその後岡本賢明をトップ下に配し、前半に比べて少なくなっていた前の流動性を高めること、間や背後への飛び出しを狙うが、スペースを消されて思うような形に持ち込めず、左右へ開いてからのクロスは中で弾き返されるなど、状況を見たボールの動かし方はできていたものの、フィニッシュに持ち込む段階でのアイデアや工夫、そして思い切った判断が足りなかった。これで15位と再び順位は下がったが、9月は3勝1分1敗、1週間での3連戦も2勝1敗で乗り切ったことは自信となるはず。6位大分も引き分けて勝点差は9と、まだ6位以内に滑り込む可能性は残されている。次節からのアウェイ連戦でさらに自信を深め、3週間後のホーム、磐田戦に戻ってきたい。
以上
2014.09.29 Reported by 井芹貴志
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