「ヒロシ！ナナミ！アレ×3！ヒロシ！」。

試合前、磐田サポーターは現役時代と同じチャントで“レジェンド”を出迎えた。ホームゴール裏には『名波浩監督の決意に感謝 みんなでJ1に戻ろうぜ』と記された横断幕。苦しい状況でバトンを受け取った新指揮官を、スタジアム全体で後押しした。

“名波・ジュビロ”の初ゴールは48分。愛媛ゴール前で前田遼一が起点となり、右サイドへ展開。このパスを受けた櫻内渚のクロスを、自らヘディングで押し込んだ。「勝利が一番だし、先制点を取れてよかった」（前田）。左腕には黄色のキャプテンマーク。「責任をのしかけたい」（名波監督）という理由でゲーム主将に指名されたエースが、期待に応えた。
さらに65分に試合を決定づける追加点が生まれる。鋭いショートカウンターを仕掛け、最後は松井大輔のスルーパスを受けた松浦拓弥が魅せた。「ダイさん（松井大輔）のパスがよかった。決めるだけだった」（松浦）。ドリブルで愛媛GK・児玉剛をかわし、バランスを崩しながらも左足で泥臭く押し込んだ。
このゴールの起点となったのは中盤の左サイドにおける小林祐希のボール奪取。シャムスカ体制ではボランチとして起用されたが、この試合はトップ下でプレー。積極的にシュートを打ち、守備面でも最後まで労を惜しまなかった。試合後のお立ち台では「名波さんが来てとても盛り上がっていますが、主役は選手だと思っています（笑）」と言い放ち、会場を爆笑させた。
磐田の完封勝利は第20節・山形戦以来、実に14試合ぶり。守備陣も最後まで踏ん張り、2位・松本との勝点差を『5』に縮めた。

一方、5試合ぶりの敗戦を喫した愛媛だが、前半は自分たちのペース。石丸清隆監督のコメントはけして強がりではない。「前半の入り方は悪くなかった。前からのプレッシャーもある程度かかっていたし、ビルドアップも（ゴールの）一歩前のところまでは上手く運べた」（同監督）。
磐田の1トップ＋3シャドーのプレッシャーをうまくいなし、ギャップを突いてパスをつないだ。記録上、前半のシュート数は『0』ながら、出場停止明けの河原和寿が前線で起点となり、磐田守備陣を牽制した。累積警告による出場停止で村上佑介を欠いた守備陣も奮闘。前線からの連動したプレッシャーで磐田を苦しめた。「（磐田に）上手く蹴らせて回させなかった。前半はこちらの狙い通り」と語るのは2列目の堀米勇輝。新体制始動からわずか2日間でこの試合に臨んだ磐田に対し、前半に関しては組織力で上回った。しかし、最後は磐田の“個”に押し切られた。「失点場面では上手く“個”に持っていかれ、組織をはがされてしまった」（同選手）。終盤まで0-0のまま試合を進めることができていれば、ホーム・磐田に焦りが生まれたはず。それだけに後半開始直後の失点が悔やまれる。

結果的にスコアは2-0。シュート数は磐田の『15』に対し、愛媛はわずかに『2』と大きく差がついた。この数字だけを見ると磐田の圧勝に見えるが、そうではない。両者が最後までファイトし、しのぎを削った熱いゲームだった。

以上

2014.09.29 Reported by 南間健治