最後の笛が鳴るまで、何が起きるか分からない――。Jリーグに戦いの舞台を移して7年目のシーズンを迎えている熊本にとって、サッカーにおけるその定説はどちらかといえば、数々の苦い記憶とともに刻み込まれてきたように思う。しかし前節、彼らは今までとは逆の、しかもクラブ史に残る劇的な展開で、そのことを証明してみせた。2008年に共にJ2入りした岐阜との通算16回目の同期対決、0−2とリードされた劣勢から、後半の3得点で勝負をひっくり返したのである。
「苦しくなったときにチームがひとつになれるか。これはプレシーズンの時から取り組んできた。1失点しては意気消沈した苦い思い出を繰り返した。今日、強い気持ちで戦えたのは、これらの日々の成果だと思っている。ここに来た選手だけでなく、来られなかった選手も含めて、全員で勝ち取ったもの」と、小野剛監督は試合後に語っている。
もっともその兆候は、9月に入ってから見え始めていた。大分戦では両サイドを高く押し出すことによって相手の勢いを削ぎ、横浜FC戦では2−0の状況から追いつかれたものの最後まで攻める姿勢を失わず、一方では耐えて勝点1を積み上げ、続く栃木戦では横浜FC戦の反省を踏まえて反撃を1点に抑えた。そして中2日で臨んだ前節の逆転勝ち。試合を重ねるごとに経験値を高め、小野監督が言う「シーズンを通して成長し続ける」という大きなテーマをチームは一体となって実践している。その力は果たして本物か。それは42節を戦い終えてみなければ分からない。ただ前節、湘南が自動昇格の2位以内を早々に決め、その影響もあって3〜6位のプレーオフ圏争いがさらに混沌としてきたいま、目の前の1試合1試合でそれを示し続けるしかない。
かたや、迎える北九州にとっても、「成長」というキーワードはチームを前に進める大きな原動力になっていると言えよう。29日に改めて詳細が発表される予定のクラブライセンスに関して、スタジアム基準を満たさないためにJ1ライセンスが下りないことが予想される、つまり6位以内でリーグ戦を終えてもプレーオフを戦えないという状況にあって、10節以降、一度も圏外に下がることなく6位以内を堅持し続けるのは、並のメンタルでできることではない。もちろん柱谷幸一監督のチームマネジメントによるところも大きかろうが、選手1人ひとりが高いモチベーションを持って試合に臨み、それを継続している成果だ。
前節は松本山雅のロングボール主体の攻撃に押し込まれて全体のブロックが下がり、シュートも5本にとどまるなど前への勢いを出せずにスコアレスドローに終わったが、「自分たちが成長していく中ですごくいい素材をもらった」と柱谷監督も述べているように、タイプの違うチームとの対戦が短いインターバルで続いたなかでも、サイドから失点を重ねた磐田戦での反省を生かして勝点1を加えたことは、少なからぬ収穫だった。
そう考えると今節は、双方にとって直近の試合で得たことを引き続きピッチで表現できるかが問われる一戦となる。
熊本が警戒すべきは、北九州の鋭利なカウンター。原一樹と池元友樹のトップ2人でもフィニッシュまで持ち込む力を備えていること、また前節の岐阜戦でも相手陣内のリスタートから一気に運ばれて失点を食らっていることを踏まえれば、攻撃時のリスク管理は不可欠。同時に、そうした前の強さ、前への強さを出させないために、右の小手川宏基やボランチの八角剛史ら、起点となるところをしっかり抑えることが必要となる。この点、低く構えてスペースを埋めるのではなく、あくまでボールに対して厳しくプレッシャーをかける“攻撃的な守備”でペースをつかむ狙いだ。
ここまで13得点の池元が攻撃を牽引しているが、北九州を現在の順位たらしめているのは、前田和哉と渡邉将基の両センターバック、そしてGK大谷幸輝を中心とした堅い守備がもたらす失点の少なさ。熊本が勝点3を手にするには、ここを崩してゴールを奪わなければならない。単純なクロスでは容易に跳ね返される可能性が高いため、相手のブロックの中でポイントを作った上で左右に広げるなど、ここ数試合で形にできている攻撃をこの試合でも発揮したい。いずれにしても、「90分を通じてハードワークすること」(橋本拳人)によって、球際の争いや攻守の切り替えで相手を上回ること、それが勝利への鍵となることは間違いない。
昨年19節の0−7も含め、過去の戦績では1勝4分4敗、2011年以降は7戦連続で勝ちなしと、北九州には苦杯をなめさせられ続けている。だが、それはもはや関係ない。自分たちが成長してきたこと、そして成長し続けていることを、ホームでしっかりと示すときだ。
以上
2014.09.27 Reported by 井芹貴志
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