J1では、来季から各試合での選手走行距離やパス本数などのデータを収集し、サポーターに提供していく方向性だという。どの程度のデータが、どのタイミングで公開されるのかはわからないが、実に歓迎すべきことだ。
J's GOALのプレビューやレポートも、これまでは限られた公開資料を元に書いていたのだが、これからは原稿を数字で裏付けたり、印象と数字の比較によってレポートに深みを与えることができる。数字に踊らされてしまっては記者として失格であるが、数字とうまくつきあえば、レポートもプレビューも、もっとおもしろくなるはずだ。そういう意味では、ますます記者の力量が問われる時代になるわけで、気持ちをさらに引き締めて試合に対峙しなければならないだろう。
ただ、引用こそ許されていないが、様々なサイトや雑誌でデータを確認することはできる。総プレー数やパス、ドリブル、シュートまで至るプレー数などをトータルで確認すれば、神戸の中心は10番・森岡亮太だと明確に断言することにおそらく異論は出ないはずだ。一発で得点につながるスルーパスや守備ブロックを引き裂くドリブルでビッグチャンスをつくるファンタジスタ。本来なら数字を組み立てて証明したいが、今はまだそこは叶わない。
一方の広島のキーマンは誰なのか。これも具体的な数字を示すことはできないが、連覇を果たしたこの2年も含め、ずっと森崎和幸なのである。パスサッカーを標榜する広島で誰よりも多くパスをさばき、ミスはほぼゼロに近い。インターセプトの数もリーグでもトップクラスで、そこからの攻撃につながるパスにブレはない。
森崎和のゲームメイクは地味だ。森岡のようなスルーパスやドリブルでわかりやすく攻撃を創るタイプではない。でも、たとえば新潟戦のように高萩洋次郎のスーパー・スルーパスを呼び起こすためのスイッチパスや、あるいは千葉和彦や青山敏弘に「スイッチ」を入れさせるための「誘い水パス」、あえて緩いリズムに落としたり、緩→急のテンポアップを促すパス。一つ一つに深い意味を持ち、周りの選手にメッセージを伝えるパスワークは、彼独特の味だ。
李忠成や柏木陽介(共に浦和)、千葉和彦やミキッチ、青山敏弘や佐藤寿人など、森崎和と共にプレーした選手は誰もが絶賛し、歴代監督の誰もが重用するクオリティを持っているのに、優秀選手賞受賞は2012年のわずか1度きりと、与えられる称賛が実力と乖離していることが何とも残念だ(この時、彼がベストイレブンに選出されなかったことは、森保一監督をはじめとする広島関係者の誰もが首をひねった)。「慢性疲労症候群」という難病と戦ってきたこともあり日本代表にも縁がないが、もし詳細なプレーデータがオープンになれば、森崎和の評価はもっと違うものになる。
明日の広島対神戸は、様々な見どころがある。最近5試合で3度の完封、わずか2失点しか許していない広島は、現状でもっとも守備を崩されにくいチームである。一方の神戸は、5試合8得点。マルキーニョスやペドロ・ジュニオール、シンプリシオとJ屈指の能力を誇る外国籍選手に森岡の創造力が加わった神戸の攻撃は、ポストプレーと高さに長けた田代有三や将来のクラブを背負う小川慶治?の負傷による不在を感じさせない。チーム対チームの対決として、レベルの高い攻防が期待できることは間違いない。
ただ、「対決」という視点でこのカードを見た時には、森崎和幸対森岡亮太というボランチvsトップ下のバトルにぜひ注目したい。高いレベルで攻撃に特化したタレントである森岡に対し、森崎和はパスをつなぐ力だけでなくボールを奪う力も高い。鋭い読みから美しくインタセプトする場合もあれば、非常に深いタックルを浴びせて相手をピッチにたたきつけ、それでいてファウルをとられないという「強い巧さ」もある。
森岡が森崎和の壁を超えれば、広島は一気に窮地に立つ。マルキーニョスとペドロ・ジュニオールが10番の美味しいパスを待ち受け、ゴールを陥れるシーンが何度も現出するだろう。一方で、広島のボランチが神戸のトップ下を封じれば、広島が一気にペースを握る。ようやく連動性が復活し始めた攻撃が活性化し、爆発の可能性は十分だ。ポストプレーの皆川佑介か、経験と実績豊富な佐藤寿人か、はたまた強さと速さの石原直樹か。1トップの選択肢は様々だが、森崎和を中心とするパスワークが機能すれば点が取れる。そういう雰囲気が、ようやく復活しつつある。
サッカーはチーム対チームのスポーツだ。だが、チームとは個人の集積であり、試合は「対決」の宝庫である。サポーターから「俺たちの誇り」と称えられる広島の至宝か、それとも日本代表でも活躍が期待される創造力に満ちた神戸のナンバー10か。この対決を見逃すことは、絶対にできない。
以上
2014.09.26 Reported by 中野和也
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