試合開始時には31度を越えていた気温は、ハーフタイムになっても30度を越えたままだった。風は止まり、スタジアムのなかの空気はこもりがち。選手にとって厳しい環境が思わぬ結果の一因となったのかもしれない。昨季、3戦3敗だった広島に対し、アウェイで3-0と快勝した鹿島が、ホームでは5-1とさらなる大差で勝利した。
前半は完全に鹿島のペースだった。9分、ボールを持つ柴崎岳が、左サイドからゴール前まで斜めに走り込んだ中村充孝の動きを見逃さずにパスを出す。ペナルティエリア内でキープしながら機をうかがう中村は右横に入って来たカイオにボールを渡す。カイオが思い切り振り抜いたシュートは、水本裕貴が出した足の間を抜け、逆サイドのゴールネットを揺らした。
その後も、久しぶりの先発出場となった中村充孝の積極的な姿勢で流れを掴んだ鹿島の攻勢が止まらない。相手のバックパスを拾った土居聖真がGKと1対1を迎えた他、速攻からダヴィが複数のチャンスを迎えるなど、追加点を奪える機会を何度もつくり出す。しかし、腰を痛めて遠征に参加しなかった林卓人に代わってゴールを守った増田卓也が落ち着いた対応でシュートを弾き返すと、鹿島に2点目を許さなかった。
ただし、前半の広島はほとんどチャンスをつくることができなかった。攻撃のスイッチとなる縦パスを入れることができず、最終ラインがパスをまわしながらチャンスをうかがうも結局GKまでボールが戻ってしまい、スタジアムは大きなブーイングに包まれた。状況を打開すべく、それまで柴崎にピタリとマークされなかなかボールを触れなかった高萩洋次郎が、25分過ぎから位置を下げて懸命にボールを動かそうとする。そのあたりから、ようやく右サイドの深い位置から中央にクロスを折り返せるようになり、柏好文のところから何度かチャンスはつくったが鹿島の選手たちの集中力も高くスコアは動かなかった。
「前半、もっと失点していてもおかしくないようなピンチをつくられましたけど、0-1で折り返すことができて、それは後半に向けてまだまだやれるというチャンスをもらって、今度は我々がアグレッシブに行こうと後半に入った」
試合後、森保一監督が説明した通り、後半は広島のペースから試合が始まる。佐藤寿人と山岸智を下げて、皆川佑介とミキッチを投入し、攻めの姿勢を強く打ち出す。すると、1トップに入った皆川が強靱なフィジカルを発揮して起点となる。佐藤とは全く違う持ち味を持つ皆川に鹿島のDF陣は少なからず混乱。55分、ゴール前でDF同士がお見合いしてしまったところを皆川に突かれ、最後は柏が押し込み、広島が同点に追いついた。
この得点によってスコアだけでなく試合の流れも一気に五分五分に引き戻された。むしろ前半多くのチャンスを逃した鹿島には嫌な空気も流れ始めていたのかもしれない。しかし、ここでトニーニョセレーゾ監督の采配がズバリ的中する。前半でもも裏を痛めていた中村充孝に代えてルイスアルベルトを投入すると、そのルイスアルベルトが66分に再び広島を突き放す2点目をあげる。さらに70分には左CKから西大伍が豪快なボレーシュートを叩き込み、短い時間で一気に流れを変えた。その後は、前掛かりになった広島の背後を突き、さらに2点を加算。終わってみれば大量5得点で、昨季優勝を決められた屈辱を多少は晴らす勝利をあげた。
ルイスアルベルトの追加点が試合を大きく動かしたことは事実だが、彼が入った時に柴崎岳をトップ下に置き、土居聖真が右MF、カイオが左MFという布陣に変更したのが大きかった。トップ下で攻撃に専念できるようになった柴崎は、パスの中継地点として自在にボールを動かし、速攻になればゴール前に飛び出して次々とチャンスを生み出す。圧倒的な存在感を90分に渡って見せつけた。
「彼の足には宝箱がある」
独特の言い回しで愛弟子を絶賛したセレーゾ監督。その宝箱をなんとか開けようとさまさまな工夫を監督はこらしてきたようだが、柴崎の好パフォーマンスは中断明けから試合を進めるごとに凄みを増している。いよいよ持っている能力を存分に発揮し始めた印象だ。若いチームが柴崎を中心にうまくまわり出した。
以上
2014.08.03 Reported by 田中滋
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