劇的な同点弾でチームを敗戦の危機から救ったのはディフェンスリーダーだった。
後半アディショナルタイム、「サイドに出たら中に入ろうと思っていたので、ボランチの位置にいた」と中盤でパスを受けた那須大亮は味方にボールを預けると、自身はニアサイドからスルスルと左のファーサイドへ移動。ゴール前ではサイドステップを刻んで相手の死角に少しずつ入り、右サイドで柏木陽介が前を向いてボールを持ったのを確認すると、チェックの動きでマークを外し、中に入り込みながら柏木のフィードにヘッドでドンピシャで合わせた。
「陽介に渡った時点でスペースを空けて、『絶対ここに来る』と思ったら注文通りというか、自分がイメージしていたボールが来たので、あとは当てるだけだった」。那須の動き出しの技術が光ったファインゴールで、浦和は土壇場で引き分けに持ち込んだ。
前半は出だしから完璧に浦和のゲームだった。神戸が「暑さもあり、相手は首位の浦和ということで、今シーズン初めて守備的に入ろう」(安達亮監督)と引いて受けたことで、浦和は序盤からボールを圧倒的に支配してリズムをつかんだ。
12分に那須の縦パスを興梠慎三がダイレクトでサイドに散らすと、そこに走りこんでいた柏木が折り返し、最後は梅崎司がヘッド。その2分後にも鈴木啓太、柏木とつないで、平川忠亮のクロスに興梠がヘッド。浦和らしいコンビネーションプレーからチャンスを立て続けに作ると、17分にはあっさりとゴールをこじ開ける。
ボールを持ち運んだ阿部勇樹がダイアゴナルにパスを出すと、梅崎が受けるふりをして後ろに流し、その背後にいた興梠が1トラップからの反転シュートでゴールを撃ち抜いた。「相手の一番得意とする形で1失点してしまいました」とは敵将の弁だが、まさに浦和らしい美しい攻撃でチャンスを作り続けたなかで生まれたファインゴールだった。
神戸は全体的に引いて受けながら、前線のマルキーニョスと森岡亮太の2人だけがプレス。それに対して浦和はいつも通りにボランチが落ちる形でボールを回していたため、常に数的優位でプレスをかわせた。それはワールドカップで日本代表がコートジボワール代表にやられた形に酷似しており、神戸はまさにあの時の日本代表と同じで前後分断の守り方で浦和に好き勝手ボールを回されていた。
ただ、神戸にはそんな状況の中でも危険な雰囲気を漂わせる選手がいた。わずか23歳にして神戸の司令塔として君臨する森岡だ。劣勢の中でも森岡がボールを持つと、少し空気が変わった。トップ下のポジションから落ちて中途半端なところでボールを受ける動きも巧みで、彼がボールを触ると何かが生まれそうな予感を漂わせていた。
神戸の前半最大の決定機に絡んだのも森岡だった。36分、攻守が切り替わった際に鋭いターンでマークを外した森岡は、真後ろから出てきたパスと並走しながらタイミングを測り、那須が寄せてきたところでファーストタッチの股抜き、そのままゴール前まで運んでシュート。最後のところで浦和の守護神・西川周作に阻まれたが、フィニッシュに至るまでの一連の流れからはサッカーセンスの高さを感じさせた。
実際、神戸の得点シーンには森岡が絡んでいる。62分に河本裕之のヘッドをアシストしたのは森岡のCKだった。ただ、それよりも注目すべきはその前のシーンだ。右サイドでボールを持った森岡は中をチラリと見てゴール前にパスを出すような雰囲気を出しながらサイドのスペースに絶妙な力加減のパスを通し、それがCK獲得につながった。逆転の場面でも自陣でテクニカルなキープを見せ、サイドにボールを散らした。
「前半から気をつけたいと思っていた。誰が(森岡を)つかむのかというのは、昨日の練習から意識してやっていたけど。彼にボールが入って起点を作られると神戸のペースになってしまうので、そこは注意していたところではあったけど」。森脇良太によると、浦和は森岡を十分に警戒していた。だが、それでも彼を抑え切れず、決定的な仕事を何度かやらせてしまった。この試合に限らず、森岡は質の高いプレーを見せ続けている。そのうち代表に呼ばれてもおかしくない逸材だ。
さて、話を試合に戻そう。後半に入ると神戸は守り方を変えてきた。ハーフタイムに選手から「浦和に何日間でもボールを持たれる」と引いて守っていては埒が明かないと言われた安達監督は選手たちに前からプレスのGOサインを出した。
ただ、それによって浦和がすぐにリズムを失ったわけではなかった。「アウェイで神戸とやった時みたいに前からこられた時に何もできないような状況にはなっていなかったと思っている」とは森脇の弁だが、確かに前回の戦いのようにガタガタになることはなかった。しかし、プレスを受けたことでパスの精度が落ちてボールロストする回数は増え、それによって余計な運動量が増えて、スタミナの減少から徐々に足が止まっていってしまった側面はある。神戸が前プレするようになってから、浦和は攻撃も守備もだんだんと雑になっていったのは確かだ。
とりわけ猛省すべきは逆転ゴールを許した場面だ。厳しく言わせてもらえれば、優勝を狙うチームがやっていいような対応ではなかった。一連の流れの中で反省点はいくつかあるが、一番は神戸の左サイドにボール入った時の対応だ。ボールホルダー1人に対し、3人が足を止めて見てしまっている。後ろでは那須の横のエリアにポッカリと大きな穴ができていて、シンプリシオがフリーでランニングしているにもかかわらずだ。
イタリア人の言う“予防的カバーリング”という基礎がすっぽりと抜け落ちている対応だった。案の定、マルキーニョスの一本のパスで3人が置き去りにされ、そこから先は後手後手の対応で最後は高橋峻希に恩返し弾をくらった。
「3人で固まっちゃったので、あそこで取れればよかったけど、結果論で取れる時も取れない時もあるし、確率を減らすためには1人がいって他の選手がカバーしなくちゃいけないと試合後に話した」。足が止まってしまった選手の一人、森脇は問題点を自覚している。那須のファインゴールで黒星を免れ、高い授業料を払わずにやるべきことを教わったのだから、今回の教訓を糧に今後はより質の高い守備対応ができるようになることを期待したい。
毎試合のように守護神のファインセーブに救われる場面があり、西川の存在は本当に心強い限りだが、常にスーパーセーブに助けられているようではリーグタイトルは危うい。総得点差とは言え、鳥栖に首位を明け渡した今、もう一度自分たちのやるべきことを見つめ直す時期が来たのかもしれない。
以上
2014.08.03 Reported by 神谷正明
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