それぞれの選手が有機的に絡み合いながら、ゴールを目指す。そして、それぞれの局面でゴールに近づくために最善の判断をする。川崎Fのサッカーはそんな説明が可能だ。
森谷賢太郎のゴールをアシストした大久保嘉人は、最初は自らがシュートにまで行こうと考えていたのだと話す。しかし、彼は冷静だった。大島僚太からの背後からのパスを処理するその瞬間に、対峙するDFの微妙な体重移動を見逃さなかった。
「向こうのディフェンスは自分(大久保)が行くと思ったんでしょうね。一歩、内側に入ってきたので、そうすると賢太郎が開く。そのタイミングで出しました」
大久保は右サイドにフリーで走り込む森谷賢太郎に対し、パスを送る。「いつもだったらパス出してくれないんですが(笑)」と笑顔で振り返る森谷だが、大久保からのパスはスペースに走り込んだ森谷にピタリと合う。森谷は、コースを消そうと距離を詰めるDFに邪魔されることなく、ノートラップでゴールに流し込むことができた。
柳下正明監督は試合後に「ラストパスとフィニッシュの精度はフロンターレのほうがはるかに高い」と舌を巻いたが、そう言わしめたファインゴールシーンだった。
先制点を手にした川崎Fに対し新潟は追い込まれることとなる。川崎Fがその試合運びを自在に変化させたからである。例えば、先発しながらも前半のみで交代した成岡翔は「全体が安全なパスばかり出していた。それだけではダメだと思います」と試合を振り返っている。もっと縦パスを入れられる余地があったのだと述べているのである。ところが、この成岡に代わり、後半からピッチに立った田中亜土夢は「スルーパスのイメージを持っていてもそれがつながらなくて相手ボールになるところもあった。難しければ、やり直すことも必要だと思う」と述べている。それぞれ前半、後半に出場した選手が口にする試合についての印象の差は、そのまま川崎Fの試合運びの変化だと見ていいだろう。
先制した川崎Fは、無理に攻めこむことをやめていた。1点をリードしているのだから、力押しする理由はないからだ。のらりくらりと新潟の攻撃を受け止めながら、カウンターを狙えばよく、そして実際に川崎Fはそんな戦いを実践した。
まずは同点ゴールが必要な新潟が前に出るのは理解できる。それはリスクを背負った攻撃にならざるを得ず、川崎Fはその新潟の攻撃をカウンターへの足がかりとした。小林悠に大久保。そして63分からピッチに立ったレナトが新潟のゴールを守る守田達弥を襲い続けた。
結果的に追加点は手にできず、風間八宏監督は「もう少し入ってくれれば(笑)、楽に試合を閉じられたかなと思います」と苦笑いを浮かべるがそれでも勝ちは勝ちである。そもそも風間監督が作ってきたチームのコンセプトは、いかにゴールするか。そして、いかに勝つのかということ。それを実現するために、日々の練習が積み重ねられてきた。何よりも勝つことが優先させるチームは、その確率を上げるためにその局面ごとに必要なサッカーを実現し、だからこそ1点をリードしたこの新潟戦の試合終盤のように、重心を後ろにかけることもOKなのである。
風間監督が作ってきた川崎Fのサッカースタイルを見てしまうと、パスサッカーだとか、ポゼッションサッカーだとかと言ってしまいがちだが、川崎Fが実現しているサッカーはそれだけにとどまらない。勝つための引き出しを増やしながら、試合展開に応じた戦い方を実践しているのである。
川崎Fは天皇杯2回戦を含めた5連戦を5連勝で終わり、望むべき最良の結果を手にした。17節を終え、順位は前節と変わらずに3位のままだが、鳥栖が勝利して勝点3を積み上げた一方で、首位浦和が引き分けたことにより浦和との勝点差は2つ縮まった。上位3クラブの勝点が接近する状況の中、8月の厳しい暑さの中の戦いが続くこととなる。
その一方、敗れた新潟には試合後にサポーターからブーイングが浴びせかけられた。不名誉な無得点による3連敗と、ほとんど決定機を作れずに敗れた試合運びに対する抗議と考えるが、前線から激しくプレスを掛けるスタイルの戦いを見せるチームには、これからの季節の戦いは厳しいものになるものと予想される。”高い位置でボールを奪い、そこからのショートカウンターでゴールを奪う”というスタイルを特徴の一つとする新潟にとってこれからの季節はリスクが高いように感じられるがどうなるだろうか。
以上
2014.07.28 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
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