先制点の行方と選手たちの精神面が変わるだけで、これほど試合内容と結果が変わるのか。良くも悪くも、そうしたサッカーのデリケートさが象徴的に表われたゲーム。ただ、苦しいチーム状況に追い込まれていた清水にとっては、8試合ぶりの勝利、8試合ぶりの完封は、本当に大きな価値ある結果だった。
日中には36.6度という今年一番の猛暑を記録した静岡市。キックオフの18時でも29.4度という暑さが残る中で始まったゲームで、両チームとも慎重さはあったものの、入り方はけっして悪くなかった。また、システム面で前節からマイナーチェンジを施したのも共通で、清水は中盤を1ボランチ(本田拓也)+2トップ下(河井陽介と六平光成)に変更し、柏はレアンドロと工藤壮人の2トップに変更したが、この成果は両チームで明暗が分かれた。
システム変更が良い方向につながったのは清水のほうで、守備の際には中盤の3枚が横並びで3ボランチのようになり、両ウィングの大前元紀と高木俊幸が引いた時は、中盤で5人が横並びになる形。さらにDFラインもここ2試合より低めに設定し、それに合わせて中盤のラインも下げて、いつもより少し低い位置でコンパクトな守備ブロックを形成した。それによって「いつもみたいに裏に蹴られてやられてなかったし、GKとDFの間が近いから、裏に出されてもGKが対応できた」(本田)と、前節のように簡単に裏をとられる場面は激減。
もちろん、そうなると柏のボランチまでは簡単にボールをつながれるが、ボランチが前を向いた際には中盤の誰かが素早くプレッシャーをかけて縦パスのコースを制限し、それでも縦パスが入った時は2、3人で挟み込んで自由を与えず、狙い通りにボールを奪う場面も多く作った。その守備を支えたのは「選手同士の距離感が良かった」(六平)こと。危険な位置にボールを入れられたときにはつねに複数でプレスに行ける距離の近さを保てていたことが、無失点の大きな原動力となった。
それに対して柏のほうは、基本システムは3-5-2だが、守備の際には5-3-2になる形。守備の際に5-4-1になる1トップの布陣に比べると、前に2人を残している分、前から守備に行きやすくなるが、中盤の横幅を3人でカバーするのは難しくなる。そのため「相手のサイドバックに入った時、そこに行く選手が決まっているわけではないので、どうしてもアプローチが遅れがちになっていた」(大谷秀和)という問題が発生。逆に清水はサイドバックを起点に攻めていくので、そこで後手を踏むことによって、清水に落ち着いてビルドアップする余裕を与えていた。
そうした明暗はあったものの、先制点が入るまでは完全に清水のペースだったわけではない。だが前半30分、大前がDFラインにプレッシャーをかけたところからパスミスが生まれ、これを河井がカットして一気にショートカウンター。そして大前の右足アウトにかけた右クロスからノヴァコヴィッチがループシュートでGKを抜いて、清水が喉から手が出るほど欲しかった先制点をゲット。これがリーグ再開後の初ゴールでもあった。
これで清水の選手たちの動きがさらに軽くなり、少し引いた守りからカウンターというパターンもより効果的になって、流れは清水に傾いていく。さらに後半開始早々の4分には、大前が相手陣内の高い位置でボールを奪い、そのこぼれを拾ったノヴァコヴィッチがシュート。これはGK菅野孝憲が止めたが、そのリバウンドがDFに当たってゴールに転がり込みオウンゴール。1つの大きなミスと1つの不運が重なって、柏には非常にダメージの大きな2点目になった。
その後は、自分たちのミスから失点を重ねた柏の選手たちの気落ちが目立ち、後半13分には右CKから平岡康裕に鮮やかなヘディングシュートを決められて、決定的な3-0。終盤は柏に多少攻撃の思い切りが出てきたものの、自信を持って攻めきることができないままタイムアップ。柏は引いて守りを固めた相手を攻めきれないという課題も出て、再開後は未勝利のまま前半戦を9位で折り返した。
一方、清水の選手たちは、先制した後にここ2試合とは別人のようなハツラツとした動きを見せて、瀬戸際の15位から12位に浮上。3カ月ぶりの“勝ちロコ”で、これまで我慢強く応援を続けてくれたサポーターの溜飲を下げた。
戦術的に見ても、この試合の守り方なら夏場でも90分間バランスを崩さずにやり続けられそうで、非常に現実的な戦い方を見出したという印象がある。ただ、これはリアクションサッカーの要素が多く、目指すスタイルとは少々異なるが、それを続けていくのかどうか。また、先制点がなかなか取れなかった時、あるいは相手に先制点を奪われた時にどうなるのか。今後はそのあたりの舵取りが注目される。
以上
2014.07.28 Reported by 前島芳雄
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