スコアレスドローという結果から見れば、26分の家長昭博のPK失敗が大きくクローズアップされるだろう。しかし、それがこの試合を決定付けたとはいえない。後半の大宮は10人で戦いながらも完全な決定機を2回作っているし、もしあのPKが成功していたら、新潟にエンジンがかかって試合が激しく動き、最終的には新潟が逆転勝ちしていたかもしれない。この日の異様な暑さと、それぞれのチーム状況と、カップ戦におけるモチベーションと、その裏にはさまざまな要素があった。
大宮は既にグループリーグ敗退が決まっているが、新潟は6点差以上をつけて勝利すれば、他力頼みながら決勝トーナメント進出の望みが残されていた。しかし新潟の立ち上がりは、とても6点を取りに行こうとしているチームには見えなかった。確かにこの日は暑かった。「35度ある中で、前半から行くのは無理でしょ」と柳下正明監督が言う通り、新潟は前線からのプレスをほとんど見せなかった。
ケガ人が相次いだこともあり、大宮の最終ラインとボランチコンビは急造だった。右サイドバックに入った中村北斗は、ここまで左サイドバックでの起用が多かった。センターバックの今井智基の本職は右サイドバック。もう一枚のセンターバックの片岡洋介は、今季は主にボランチとして使われている。左サイドバックに入った高橋祥平の本職はセンターバックである。さらにボランチの一枚の橋本晃司は本来は攻撃的なポジションであり、もう一枚の和田拓也は本職だが、スタメンは今季2回目。この構成で新潟に通用するのか、おそらくは不安が大きかったはずで、新潟が立ち上がりから息もつかせぬ勢いで圧力をかければ、大宮は後ろ向きのプレーに終始せざるを得なかったかもしれない。
しかし幸いにも、新潟はゆったりとゲームに入ってくれた。余裕を与えられた大宮の急造4バックは、開き直るかのように高く最終ラインを押し上げた。「今日は『ラインはマジ高く行こうぜ』と、俺や(高橋)祥平で話していた。カバーリングだけは意識して、『裏に出されてもダッシュで戻ればいいから』と。それが上手くいった」と、今井が明かす。ここまで苦しい戦いをしていたときの大宮は、最終ラインがズルズル下がり、2列目との間が空いて、そこを相手に自由に使われていた。この試合での大宮は最終ラインを押し上げると同時に、前線もむやみに前からは追わず、ハーフウェーライン辺りからコンパクトな陣形を保ち、「(相手の)センターバック2枚に回させているうちに(守備ブロックを)セットして、(長谷川)悠くんと(家長)アキくんでスイッチを入れる」(和田)守備が上手くハマる。ボールホルダーへのプレッシャーもこの日はしっかりとかかり、バイタルエリアでも「スペースを消して、入ってきたところは上手くねらってカットできた」(和田)ことで、崩される場面はほとんどなかった。
そもそも新潟のストロングポイントは前線からのプレスとショートカウンターにあり、その前段なしではチームのリズムが生まれないようだった。前半の新潟は6本のシュートを撃っているが、ミドルシュートがほとんど。選手の距離感が遠く、リーグ戦で大宮を苦しめた、FWとサイドハーフが流動的に動いて最終ラインを脅かすような攻撃は見られなかった。逆に大宮は、シュート数こそ少ないものの、「ボランチが高い位置で前を向けて、そこから裏へのアクションも起こせた」(富山貴光)。ボランチに入った橋本が新潟の最終ラインの背後にパスを送り、この日キャプテンマークを巻いた家長が走り込む場面も度々見られた。
片岡が前半アディショナルタイムに2枚目の警告を受けて退場し、大宮は後半45分間を10人で戦うことになったが、それでも試合の様相は変わらなかった。もちろん新潟に自陣に押し込まれてはいたが、それでも大宮は最終ラインを高く保つ意思を捨てなかった。4-4-1の形でコンパクトさを保ち、新潟の攻撃を網にかけ続け、効果的にカウンターをくり出した。57分、家長のクロスに長い距離を駆け上がった中村が飛び込む。89分、渡邉大剛のクロスに泉澤仁が頭で合わせる。得点までは、ほんの少しだった。対して新潟は、58分にエース川又堅碁を投入するが不発。チーム全体でも後半はシュート2本に終わった。
試合後のホームゴール裏は、10人で互角以上の戦いを演じた選手たちを拍手で迎えた。対照的に、一向にエンジンがかかる様子のないチームに前半からイライラを募らせていたアウェイゴール裏からは、数的優位にありながら決定機すら作れなかった選手たちにブーイングも起きた。
実際、大宮が本当に良かったのか、それとも新潟が不調だったせいなのか、何とも判断が難しい。ただ、リーグ戦でもカップ戦でも低迷を続けている大宮は、「このまま中断期間に入るわけにはいかない」(渡邉大剛)と、選手たちが危機感を募らせ、何としてもこの試合で「進むべき方向性」(渡邉)を確立したかった。だからこそ、リスキーではあったが選手たちは緊張感を持って、10人になろうともこの試合でコンパクトな守備から速攻の形をやり切ることができた。それに比較すれば、リーグ戦である程度の手応えを得て、中断期間でさらに熟成を進めようという段階にある新潟は、たとえ本当に6点差以上で勝利したとしても柏が徳島に引き分け以下で終わることが期待薄なこともあり、モチベーションの面で難しかったことは否めないだろう。
とはいえ大宮としても、これで中断期間でのチームの立て直しが約束されるわけではない。未勝利のままカップ戦を終えた事実から目を背けるべきではないし、リーグ戦でもまだ3勝しか挙げられていないのだ。試合の健闘には拍手を送ったサポーターだが、その後有志がゴール裏に居残り、社長ら幹部と話し合いの機会を持った。だれもが等しく、危機感を抱いている。リーグ戦の再開まで、約50日。長いようではあるが、他のチームは既に確立した方向性とスタイルを熟成させている段階であり、ようやく「方向性が見えた」(大熊清監督)段階の大宮がそこを追いつかなければならないと考えると、時間はあまりに少なくも思える。中断期間が実りあるものになることを、今は祈るばかりだ。
以上
2014.06.02 Reported by 芥川和久
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