浦和のペトロヴィッチ監督は「中心選手がその試合を最後にチームを離れるといった場合、チームは大抵は負けるもの」と語っていたが、浦和はそんな不安を吹き飛ばす見事なゴールラッシュを演じてみせた。
浦和にとってこの試合は勝っても負けても、主役はこの日を最後にドイツの古豪ヘルタ・ベルリンに移籍することが決まっている原口元気だ。試合後にはセレモニーも予定されており、すでにチームがヤマザキナビスコカップの予選リーグ突破を決めているとあっては、浦和サポーターの試合に対する興味のほとんどは、原口がフェアウェル・マッチを自らのゴールで飾るかどうかに集約されていた。
終わってみれば、原口にゴールはなかった。ただ、それでもさすがというべきか、原口は64分に交代するまで、見事なプレーで2点に絡む活躍を披露していた。
まずは1-1の同点で迎えた40分、右サイドに流れていた原口はサイドに抜け出すと、中央の李忠成に向けて強めのグラウンダーのクロス。まさに“狙い澄ました”という形容がぴったりの正確な一撃で、李のゴールを演出した。
さらにもう一度見せ場が巡ってきたのは、チームが守勢に立たされていた60分。ペナルティーエリアのすぐ外、やや左寄りでFKのチャンスが巡ってくると、「ユースの時によく決めていた位置だったので。柏木選手も『蹴れよ』と言ってくれた」と明かした通り、枠内の際どいコースに飛ぶ見事なキックを披露。GK楢崎正剛が弾いたボールには槙野智章が詰め、浦和は再び試合の主導権を奪い返した。
ところがその直後、歓喜に沸きかえるスタンドを尻目に、原口は交代でピッチを去ることになる。記者席からも少々早すぎではないかと、ちらほらと戸惑い気味の声が聞こえてくる。ただ、ペトロヴィッチ監督は、原口がいなくなったあとのチーム構想についても思いを巡らせなければならない。その存在が絶大であったからこそ、エースが去った後のチームをシミュレートする場として、指揮官はこの試合の残りの1分1秒ですら惜しんだのではないだろうか。
ともあれ、原口は64分にピッチを去った。交代で入ったのはユース時代にともに全国制覇を成し遂げた1つ年上の盟友・山田直輝。「終わっちゃうんだなという寂しい気持ちはあったが、直輝となら気持ちよく交代できるなと思いました」と試合後に語った原口は、出迎えたペトロヴィッチ監督としっかりと抱擁を交わした。ペトロヴィッチ監督は原口との2年半の月日を「戦いの日々だった」と振り返り、一方の原口も「ミシャ(ペトロヴィッチ監督)は何度も何度もぶつかりながらも接してくれた」と、根気強く指導してくれた恩師に感謝。2人の絆が揺るぎないものとなっていることを窺わせる一幕だった。
浦和のアカデミーの後輩で、原口自身もドリブラーとして期待をかける関根貴大は、試合後に「原口くんに安心してレッズを観てもらえるようになりたい」と語っていたが、果たして原口はどのような心境で自分のいなくなった浦和の姿をベンチから見つめたのだろうか。浦和は72分、松田力に振り向きざまの見事なシュートを決められたものの、交代で入った関口訓充がそれまで原口が主戦場としていた左サイドで圧巻の活躍を見せ、76分に見事なクロスで李忠成のゴールをアシスト。さらに88分には得意のシザースでマーカーを右に左に翻弄すると、最後はニアサイドを打ち抜く強烈なシュートを叩き込み、ゴールラッシュを締めくくった。
試合後のセレモニーで、関根から花束を贈呈されると、原口はこらえ切れず涙を流した。「あいつが泣いてたから。なんで泣いてんのとは思ったけど(笑)」と強がった原口だが、トップチームで台頭しつつある後輩の存在はその潤んだ両目に頼もしく映ったに違いない。原口は試合後に「これからは(山田)直輝、タカ(関根)、(矢島)慎也に浦和を引っ張って行ってほしいと思う。アカデミー出身の選手が活躍しなきゃいけない」とコメント。この先は安心してドイツでの挑戦に専念できることになりそうだ。
一方、美しいセレモニーの裏側で、ひっそりと埼玉スタジアムをあとにすることになった名古屋の状態は気がかりだ。勝てば自力で予選リーグ突破が決まる千載一遇のチャンスだったが、「あらゆる点でクオリティの差を見せつけられた」と西野朗監督が語ったとおり、幾分あっさりと引き立て役の座に甘んじてしまった。
もちろん、よい点がまったくなかったわではない。永井謙佑は驚異的なスピードで何度もゴールに迫り、23分には1-1に追いつくゴールを記録。さらにチーム全体も後半開始からの15分は浦和を圧倒した。この時間帯にゴールが決まっていれば、試合の流れは随分と違ったものになっていた可能性がある。また、前述の松田も振り向きざまにファーサイドにシュートを叩き込むという非凡なセンスを見せつけるなど、攻撃だけを切り取れば後半戦に向けて期待を抱かせる内容ではあった。
ただ、言うまでもなくサッカーとは攻守一体のスポーツであり、特に今季の名古屋は守備陣をなかなか固定できず、この日はさらに田中マルクス闘莉王が累積警告で出場停止。大黒柱を失ったチームは局面局面で浦和の攻撃陣を易々とフリーにしてしまい、勝負どころで次々と失点を重ねた。「色々な戦況に応じてチームをリードしていく存在がいなかった」と語った西野監督は、闘莉王の個の能力だけでなく、チームからその統率力が失われたことを嘆いた。
なお、西野監督は試合後はやや放心の体で「チームの状況は把握できてきているが、ポジティブな意味ではない」「やれている部分はあるんだけど、それが今後につながっていくのかがわからない」と、チーム作りに対して迷いをみせており、その姿は少なからず不安を抱かせる。
Jの戦いはここから1カ月半に及ぶ中断期間に入る。浦和にとっては公式戦5連勝のなか、やや後ろ髪を引かれるような思いでの小休止。一方の名古屋にとっては、立て直しに向けて絶好の機会と言える。中断前に対照的な姿をみせた両者は、果たして7月中旬の再開後、どのような仕上がりをみせるのだろうか? 夏場のハードな日程はチームに勢いをもたらすこともあれば、チームに厳しい現実を突きつけることもある。この1カ月半の過ごし方が、シーズンの行方に大きな影響を与えることになりそうだ。
以上
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