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【J1:第14節 甲府 vs 柏】レポート:これがプロヴィンチアの星を目指すJFK甲府のサッカー。そして、柏にとってこれもサッカー(14.05.18)

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13時キックオフの試合は小瀬スポーツ公園の大きな駐車場でも9時頃には満車になることもあるので、朝から忙しくなる人が増えるがいいこともある。それは、ハッピーアワーに余裕で間に合うということ。ホームの甲府が5試合ぶりの勝利を、無失点の3ゴール、それも右肩上がり中の4位・柏相手に挙げたとなれば、大人の財布は緩んで山梨県の県内総生産を少しは押し上げる夜になったはず。湘南のように無傷の13連勝もすれば飲み疲れしそうだけれど、甲府は4勝目なので勝ち飲みはまだまだ盛り上がる。

お互いに3−4−2−1とスタートポジションが同じで選手の総年俸はだいぶん違う甲府と柏。甲府は右ウィングバックに犬より速い松橋優を入れ、柏は1トップにレアンドロが復帰したことが一番の注目点。甲府が押し込まれる時間が長くなる展開を予想していたが、甲府のキックオフで始まった前半はクリスティアーノもジウシーニョも盛田剛平も球離れがよく、リズムのいいパスをつないでいきなりCKのチャンスに繋げ、その後も甲府のリズムのいい展開が続いた。城福浩監督が言った「個人の武器を研ぎ澄ます、周囲が引き出す」ということができていて、盛田がDFを背負ってボールを持てば、周囲がその持ち方と失い方まで予測したようなポジショニングでボールをつないでいく。

そうなると柏がだんだん甲府を受けるようになってきて、甲府のウィングバックは高い位置を取りやすくなり、松橋のスピードが活きやすい条件もできてくる。20分のFKからの先制点を盛田が頭で決めた後も甲府は流れを失わなかった。普通なら、失点したことで柏のエンジンがかかって流れを取り戻す――という展開になりそうなものだが、そうはならなかった。前半の終盤は柏に何度かチャンスがあり、31分のレアンドロのシュートなどは、トラップから2タッチ目のシュートまでの動きの速さなどにすごさを感じたが、総じて甲府は落ち着いて守り、GK荻晃太が大声を出さないといけないような決定機は作らせていなかった。

1−0で迎えた後半早々、甲府はPKのチャンスを手にする。甲府のFKのときに佐々木翔が鈴木大輔に倒されたのがその理由だが、これをクリスティアーノが決めて2−0。虎の子の1点を守るような展開でもなく、城福監督は右ウィングバックを松橋から福田健介に代える先手を打つ。運動量の多いポジションをフレッシュにすることで継続して高い位置を取ることができるし、1トップの盛田とシャドーの2枚はサイドに流れることなく、ワンタッチパスを通せる距離を中央で保つこともできる。後半から4バックに変えていたネルシーニョ監督は、その4分後にレアンドロを下げて狩野健太を入れて対抗してくるが、流れが変わりそうな雰囲気はない。ただ、“なでしこ”のオーストラリア戦(0−2から2−2に追い付いた)のこともあるので安心できる状況でもない。工藤壮人や田中順也の一振りは試合の内容に関係なく怖いからだ。

しかし、このバランスを不動にしたのが68分に投入された、元柏の水野晃樹。福田が右サイドから入れたクロスに対して、身体を後ろに倒しながら右足をワンタッチで合わせるヨーロピアンボレーでGK菅野孝憲の壁をぶち抜くゴールを決めた。見ている方もうれしかったが、「頭の中は空っぽだった」という本人は甲府のゴール裏にある4重のピッチ看板を越えたり間を縫ったりして、サポーターのもとにたどり着くとジャンプしてサポーターに抱きかかえられた。ロックスターがライブで観客席にダイブするような感じ。そのままゴール裏の青い海で流されることはなかったけれど、足は宙に浮いたままだった。甲府のファン・サポーターの心を一気に持っていくスーパーゴールとサポーターへのダイブで、1点目と2点目が些細なことだったように思えてしまうパッションとパルピテーションの大爆発。78分のこのゴールで勝負は決まり、甲府は終盤も隙を作ることなく完封にも成功した

甲府の攻撃力を「1点打線未満」と揶揄してきたけれど、取れるとき取れる。ここまでの城福監督と選手の取り組みの積み重ねではあるが、これだけ大きな変化があったのは初めて。
「何かをテコ入れしないと今のジリ貧の状況は変わらないと思っていた」「ウィングバックのところでアグレッシブさをいかに出していくか、人を含めて変えることはチームの大きなトライ」。城福監督の会見の中から抜き出した言葉だが、このリスク覚悟のトライは大成功した。選手のコンディションの良さもこの試合で感じたのだが、谷真一郎フィジカルコーチは「選手は戦術的にも頭の中がスッキリした分、身体は動いたと思う」と話してくれた。誰か一人がすごく頑張った、誰かの動きが改善されたという試合ではなく、ピッチに立った11人全員が自分の武器を意識し、チームメイトの武器を引き出そうとした結果の偉大な勝利。これこそがJFK甲府が目指す“プロヴィンチアの星”としての戦い方を明確に示した試合ではないだろうか。対策をされて苦労もするだろうけれど、ワールドカップ中もリーグ戦を続けたい気分。ただ、来週からのヤマザキナビスコカップ3連戦(徳島、大宮、浦和)は自信を持って挑むことができる。大宮戦(5月24日)、浦和戦(5月28日)はホーム・山梨中銀スタジアムでの連戦の、海なし県ダービー・埼玉シリーズ。隣近所や職場や学校の友人を誘って、3点取るかもしれないJFK甲府の背中を押してほしい。

柏にとって山梨中銀スタジアムは小瀬時代から相性がよくない。チーム力では説明できない相性の良し悪しはあるのだろう。遠い昔のあの夜のスイッチが最初の原因かもしれないが、柏は“これもサッカー”と思って切り替えるだけ。慰めではないけれど、バルセロナだって今季リーグ戦で5敗しているんだから、柏もフィットしないで負けることもある。高山薫が言ったように、「ヤマザキナビスコカップでいい結果を出して、自信をつけて中断期間に入りたい」で、決まり。勝っても負けても次が大事。

以上

2014.05.18 Reported by 松尾潤
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