大型連休の4連戦を無勝利で終えてしまった両チーム。それだけにホームの札幌は当然のように勝点3が欲しかったし、アウェイの愛媛にしても「尻に火がついたような状況。勝点3を取らなければいけない試合になっていた」と河原和寿が振り返ったように、双方が勝点3獲得を絶対的なテーマに掲げて戦ったゲームだった。
前半の主導権を握ったのは愛媛。立ち上がりにGKやDFがシンプルなロングボールを蹴って札幌の守備ラインを押し下げると、そうして生まれた中盤のスペースを利用してテンポよくボールを動かしていく。守備の場面では最終ラインに5人ないし6人が並ぶ布陣だっただけに守備的な戦い方をしているようにも見えたかもしれないが、札幌の守備ブロックの隙間に入り込んではパスを受け渡す戦い方は能動的でアグレッシブなもの。この前半の内容を札幌の財前恵一監督は「出足の速さのところで相手に圧倒された」と素直に分析する。
20分に生まれた先制点も愛媛の思惑通りのもので、3−4−2−1のシステムの長所であるアウトサイドの数的優位を生かしてみせた。藤直也、ハン ヒフンの左右ウイングバックは守備時には最終ラインに加わって5バックの一角を担うが、攻撃時には思い切って前線へと張り出す。札幌の最終ラインは4バックで守っているため、一気に押し込めた場合には数的優位の局面を生み出すことができ、実際にこの得点の場面では右サイドからのクロスを左サイドで待ち構えた藤がノーマークでゴールに押し込んでいる。
そしてこの1点があまりにも大きなものとなる。アウェイで先制点を奪った愛媛はここから先は5−4−1の3ラインで守備ブロックを組み、徹底してスペースを埋める守備網を構築。厚い壁が作られ、結局、前半の札幌はシュートわずか1本に封じ込められてしまった。
後半に入ると、札幌は前線に長身の都倉賢を投入し攻めにかかる。前半は相手の堅い守備とそのマークを嫌ってか、どの選手も後方に引いてボールを受けてしまっていた。だが、この都倉は強いメンタリティーでブロック内に入り込んでボールを引き出しチャンスを作っていった。「とにかくキツかった」と愛媛の西岡大輝が振り返ったように、後半は札幌が完全にボールを支配して押し込んでしまう展開に。それを愛媛の守備陣が体を張って応対した。
極論になってしまうが、厚い守備ブロックを崩すために即効性のある策はない。我慢強くクロスボールを蹴り続けていくか、粘り強く縦にボールをつけていく。高次元なパスワークを身に着けているのであればその限りではないが、基本的にはこれを焦れずにやっていく他に方法はないのである。
しかし札幌はどこかキレイに相手守備を崩そうとしてしまった感が否めない。せっかく縦にボールを入れて相手守備のズレを生んだにも関わらず、そこからボールを戻す、あるいは横に渡してしまうプレー選択で愛媛に時間的猶予を与えてしまい、その間に再び隙間を埋められる。そうして策を失っては強引にシュートを放つ場面が目立っていた。リードをしている愛媛はリスクを冒す必要がないため、とにかく徹底して隙間を消している。ちょっとした小手先のアイデアではそう簡単には崩れない。札幌はノッキングするたびに攻撃を作り直し、それがチームスタイルでもあるのだろうが、スペースを埋める守備をしている愛媛のブロックの前でパスを動かしていても効果は薄い。ブロックを壊すには、やはり縦パスでクサビを打ち続けていく必要があったはずだ。それが引っかかってカウンターを受ける可能性も当然あるが、それはもう仕方のないことなのだから。
ボールを持ち続けているし、シュートも打っている。そのうち札幌が得点を挙げるのではないだろうか。そんな雰囲気は何となくありながらも、決定的な出来事は起きない。そして、そうこうしているうちにタイムアップの笛が鳴ってしまった。後半のシュート数は札幌が11本で愛媛が0本。しかしながら生まれた得点シーンはゼロ。そういう後半だった。
片方のチームが圧倒的に攻めながらも得点ができず、もう片方のチームが数少ないチャンスを生かして1−0のスコアで勝利してしまう。おそらく、通常時であれば「サッカーにはこういう試合もある」と割り切って片づけることができたのかもしれない。しかし、札幌はJ1昇格を絶対目標としながらも16位と低調なまま。前述したように大型連休の連戦では勝ち星がなく、得点力不足も顕著。試合後の札幌イレブンにはスタンドからブーイングが浴びせられていたが、それがこの世界である。
ただし、まさに「してやったり」の展開で勝った愛媛のほうが手放しで喜んでいるのかというと、当然そんなこともない。相手の猛攻を粘り強く跳ね返した守備はもちろん見事だったが、「自分たちのやろうとしているサッカーで勝ったわけではない」と河原は後半に徹底して押し込まれてしまった試合を反省する。
暦はまだ5月上旬。シーズンのなかではいい時期もあれば悪い時期も絶対に存在する。そのチームの本当の力というのは、シーズン終了時の順位表が示すもの。もちろん勝つに越したことはないが、1つの勝ち負けが何かを決定づける局面ではまったくない。まだまだ取り返しのつく時期であるだけに、双方ともに課題を見つめながらも臆することなく、勇気を持って今後の戦いに挑んでほしいところだ。
以上
2014.05.13 Reported by 斉藤宏則
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