試合終了時の電光掲示板に記されたスコアは0−0。この試合を含め今シーズンここまでの10戦で得点が8という、1試合平均1得点を下回るチーム同士の対戦だったことを考えると、スコアだけを見ればその得点力不足がモロに反映した寂しい試合だった思われるかもしれない。
だが、「得点が動かない試合というのは守備的な試合と思われがちですが、お互いが攻撃というものにこだわってビルドアップからゴールを狙っていくサッカーをやりあった試合だと思っています」と東京Vの三浦泰年監督が評したように、双方がテクニカルに相手ゴールに迫ったゲームだった。
大まかに言えば、札幌と東京Vは似た印象のチームと言えるだろう。若手選手をベースとしながらも経験豊富な選手が要所を締める。プレースタイルとしても、GKを含めた11人全員がボールに関与しながら、チームとして能動的にボールを動かしていこうとする。札幌はGK金山隼樹からのキックを攻撃の起点にする場面が何度もあったし、東京Vも同じくGK佐藤優也を使いながら巧みにボールサイドを変えて札幌の選手を疲労させた。11人が1グループになってボールを動かして攻めようというスタイルは、筆者の主観も大いにあるが、モダンで好感の持てるものだろう。
ただし、言うまでもなくサッカーというのは得点数を競い合うスポーツなわけで、攻撃の目的は常に得点を奪うこと。厳しい言い方になるが、モダンだろうと何だろうと得点に結実しなければ基本的には意味はない。そしてすでに前述した通り、試合は攻め合いながらもスコアレスに終わっているわけで、そこには何かしらの理由があるはずだ。
もちろん、両チームの守備陣が90分を通して体を張った粘り強い守備を演じていたため、まずそこは賞賛したい。両チームともに得点が取れなかった一方で、得点を許さなかったという部分が前提になる。そしてそのなかで札幌のほうにはディティールの不備があり、東京Vは“こだわり”に固執し過ぎた感がある。
まず札幌のほうであるが、普段は足下でボールを受けるタイプの選手を並べ、そうした選手の技術やセンスを生かして厚みのある攻撃を志向していた。しかしこの試合では停滞気味の攻撃に変化をつける意味もあってか、スペースに飛び込んでボールを受けるタイプの榊翔太を左MFで先発起用。この選手の出場により、足下でのつなぎだけでなく、スペースへのパス供給もアクセントとして機能させる狙いがあったはずだ。
しかし、フタを開けてみるとそれがなかなかできない。ランニングプレーヤーである榊に対しても足下にパスが送られる場面が多く、特徴を生かせない。前半中頃にはペナルティーボックス内左サイドから榊がフィニッシュに持ち込む場面があったのだが、これも本当であれば榊の前方にパスが送られてこそビッグチャンスになる場面。だが、ラストパスは榊の足下に供給されてチャンスの質が低下してしまった。他方で、前田俊介など足下でボールを受けてから違いを生み出す選手に対してスペースへのボールが送られる場面があるなど、札幌はアグレッシブにパスをつなごうとしながらも、その細部の質については物足りなさを感じさせた。
東京Vのほうも前述のように最後方からのビルドアップなどから左右を幅広く使い、札幌の守備ブロックの網目を広げてその隙間を突いていった。ただし、そうしていい形を作りかけながらも「相手守備を崩しきるというこだわりが出てしまった」(田村直也)のである。アタッキングサードに進入してからキレイな崩しを意識するあまり、手数をかけてしまったり、ベストなパスを狙いすぎていた感が否めない。結局、それなりに攻めながらも前後半通してのシュートは6本にとどまってしまった。
こうした試合をどう感じるかは人それぞれなのだろう。得点を奪えなければ意味がないと思う一方で、テクニカルにパスをつないで攻めようという気概は称えたい。ただし、そうしたスタイルの構築は一朝一夕にはいかず、それこそディティールの部分などは中2日、3日のスケジュールのなかで早急にどうにかできるとは限らない。現実と理想。この試合を見る限り、この2チームはその狭間に立っているような印象も受けてしまう。そのどちらに軸足を近づけていくのか、双方の今後の戦いぶりは注視に値する。
いずれにせよ、理想を追うにしても現実を取るにしても、はたまた理想と現実の両方を狙うにしても、勝点3を取りながらやっていくに越したことはない。そしてそのためにはやはり得点が必要となる。特に札幌のほうはエースの内村圭宏が負傷離脱してから如実に攻撃力が低下している印象が否めないため、「内村がいなければダメなのか?」と周囲に思わせないためにも攻撃陣の奮起には期待したいところだ。
次節までは中3日。札幌は敵地で栃木と、東京Vは国立競技場でのホームゲームを岐阜と戦う。
以上
2014.04.30 Reported by 斉藤宏則
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