この試合のMVPはと聞かれれば、両サポーターともに「橋本」と答えるに違いない。先制弾は大宮、橋本晃司。同点弾は柏、橋本和。そして偶然にも、大宮の得点時に、得点者にマークに付くべきだったのは橋本和であり、柏の得点時に、得点者に競り負けたのは橋本晃司だった。それでも、値千金のゴールを含めて両者の活躍は、失点の場面を補って余りあるものだった。ともに数試合ぶりに先発した選手の活躍で、公式戦3連敗中の大宮と、6戦負けなしの柏が勝点1ずつを分けあった。
ここまで4戦連続で相手に先制点を許している大宮は、守備の修正をして臨んだ。2トップは「1枚が相手のボランチに行くのではなくて、コースを切りながら2枚ともセンターバックに行って、相手のボランチにはこっちのボランチが出て行くように」(長谷川悠)し、ボランチは「今までは相手のトップ下にマンツーマン気味に付いていたけど、今日はそこをあまり気にせずに、前にアプローチをかけてボールを奪いに行った」(横山知伸)ことで、最終ラインも押し上げ、ここまでの試合よりも高い位置でボールを奪う場面が確実に増えた。
ただし、それで主導権まで奪えるというほどには、チーム全体として機能はしていなかった。柏も大宮の狙いを外すべく、前回の対戦(3/29、J1第5節)とはやり方を変えてきていた。柏はビルドアップ時にボランチの大谷秀和が左サイドバックの位置に下りて、左右のウイングバックを高い位置に張り出させる4-1-5の並びになる形でここまで戦ってきたが、「相手はリーグ戦でそこを上手く守れていない感じだったし、対策を取ってくるだろうから、僕はなるべく左サイドに入らずに、逆に(橋本)ワタルが低い位置にいて、僕と(田中)順也が間で受けようと」(大谷)いう形を取ってきた。これによって、大宮は柏のビルドアップ時の後ろの4枚に対して、2トップとサイドハーフの4枚でハメ込むことができず、「ウイングバックに僕とヨンチョルが引っ張られて下がる場面が多く」(橋本晃司)なり、試合は柏主導で進んで行く。
大宮のボランチが積極的に前からアプローチをかけ、DFラインも上げているぶん、レアンドロがバイタルエリアやサイドの裏に流れてボールを受けて起点になり、柏が次々にチャンスを作った。11分、橋本和のクロスの折り返しをレアンドロがボレーシュート。29分にはレアンドロのスルーパスに抜け出した大谷が至近距離からシュート。いずれも今季初先発の江角浩司がビッグセーブでしのいだ。36分には柏の右コーナーキック、ニアですらしたボールに橋本 和が飛び込んだが枠外。
圧倒的に攻める柏に対し、大宮はボールを奪っても「選手間の距離が遠く、長い距離を走って中に入っていくようなところもなかった」(横山)ために、カウンターも不発で、35分まで横山のミドルシュート1本に抑えられていた。ただ柏にとっては、上手くいっていたがゆえの「ちょっとした注意力の低下」(ネルシーニョ監督)が起きてしまう。37分、大宮が左サイドで得たスローインから、渡部大輔がクロス。これはさして可能性を感じるものではなかったが、柏のクリアを金澤がボレーでミドルシュートを放つと、これが右ポストを強襲して左へ転がる。この瞬間、柏の選手は安堵から足を止めてしまった。先に反応してボールを拾ったチョヨンチョルのクロスに、飛び込んできたのは橋本晃司。「ラドン(ラドンチッチ)かハセ(長谷川)がニアに入ってくれてファーが空いたので、来ればいいなと思って入ったら、本当に良いボールが来た。あれは外しちゃマズいでしょ」(橋本晃司)と、丁寧に右足インサイドで合わせて柏ゴールに突き刺した。
ここから柏が一転し、悪い流れに突入する。選手同士の距離感が遠いうえに、3トップの誰も裏を狙わず、前線にウイングバックを含めて5枚が張りついてボールの出しどころがなくなった。ボールを回しているというより、回させられているといった態で、逆に大宮に奪われてピンチを招く。45+1分の、長谷川のスルーパスから橋本晃司が裏に抜け出し、ラドンチッチが菅野孝憲と1対1になった場面を決められていたら、柏にとって致命傷になったかもしれない。
ただ、ネルシーニョ監督はそこにきっちりハーフタイムで手を打ってきた。ボールを奪えるボランチのハン グギョンが活躍する展開ではないと見て、パスセンスに優れた茨田陽生に交代。これが奏功し、「中盤の構成力と回転が上がり、前半になかったパスコースや展開」(ネルシーニョ監督)が生まれた。48分には茨田の縦パスを田中がヒールで流し、レアンドロの強烈な一撃が江角の手を弾いてバーをたたく。そして55分、ボランチとセンターバックの間で受けたレアンドロが、食いついてきた菊地光将をかわしてドリブルで運び、右の高山薫に送ると、高山のクロスにファーで橋本和が競り勝ち、同点に追いついた。
その後も圧倒的に攻める柏だったが、サイドハーフも下がって守備に回る大宮の守りを崩せない。シュートの精度も欠き、後半だけで8本のシュートを放ちながら2点目は奪えなかった。大宮も、メンバー交代で流れを変えようとしたが、ズラタン、家長昭博ともにゲームに上手く入れず、後半のシュートは2本に終わった。
主導権をどちらが握れていたか、また、コーナーキック数やシュート数、決定機の数では柏が圧倒した。それだけに、柏にとっては「勝ちきれなかった」試合であり、大宮にとっては「負けずに済んだ」試合だったと言える。より消化不良感が強いのは柏のほうだが、先制しながら後半に失速していたところから比べれば、この日は90分間主導権を握り続けた。特に、後半から出場した茨田がその才能を証明したことと、「守備において田中と工藤壮人が下がり過ぎず、前に残って攻撃にパワーをかけられた」(大谷)ことは、追加点を挙げて勝ちきる強さを取り戻していくための良いきっかけになりそうだ。
一方大宮は、開幕以来どうにもプレスがハマらずボールの奪いどころがハッキリしなかった守備に改善が見られたことは大きい。ビルドアップの部分は増田誓志を欠いていまだ手探りだが、ドリブルでボールを運べるヨンチョルと、「少ないタッチでボールを動かして攻撃に絡む」(長谷川)橋本晃司と、リーグ戦ではベンチを温めている2人を生かしたシンプルな攻撃には可能性が感じられた。この日に得た収穫を、すぐ土曜日に迫ったリーグ戦のアウェイG大阪戦で勝点3に代えたいところだ。
以上
2014.04.17 Reported by 芥川和久
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