「28歳なので、もうオッサンですよ」
ファン・サポーターからもらったいくつものプレゼントを抱えながら、そう言って満面の笑みを見せていた。
4月2日。この日は今シーズン、5年ぶりに札幌に復帰した石井謙伍選手の28回目のバースデー。その2日前に36回目の誕生日を迎えていた筆者にとっては、いま考えると冒頭の言葉はそこそこパンチ力があるような気もしてしまうが、そんなことをまったく感じさせないのがこの選手の持つ爽やかさか。
いい日だったと思う。応援している選手の誕生日を祝いたいのはサポーターの心理として当たり前のようにあると思うし、当然ながら筆者も一声掛けたかった。それに何よりも、5年ぶりに復帰した地元出身選手のその日ともなれば、筆者はさておき、サポーターにとってはすごくうれしいはず。祝う側も祝われる側も笑顔だったというのは当たり前だが、それもこの選手が復帰を果たしたからこそ生まれたコミュニケーション。いろいろな感情が交差したようにも感じる。
「愛媛で成長してきた姿をサポーターの皆さんに見せたい」
今年1月、新チームをサポーターにお披露目する“キックオフパーティー”で、石井はそう強く発していた。愛媛ではアウトサイドでプレーする機会も多かったようだし、以前在籍していた時とはまたひと味違ったプレーを見せてくれそうだ。現時点では第6節までを戦い終えているが、今後さらに様々なプレーで活躍をしてくれるに違いない。
札幌を離れたのは2009年冬のことだった。このシーズンをもって契約満了となり、戦いの場を愛媛へと移した。当時を石井は次のように振り返る。
「悔しかったですね。自分の力不足が情けなくなりました」
2005年に札幌U−18からトップチームに昇格し、5シーズンをプレー。2007年には要所で貴重な活躍をしてJ1昇格にも貢献。しかしながら前述のように、プロになって初めて契約満了という現実を突き付けられた。
いつの日かまた札幌のためにプレーがしたい。「また札幌で一緒に戦えるように、成長してきてくれ」というクラブスタッフの言葉。そうした想いや言葉が新たな土地でのサッカーライフをスタートさせる石井の支え、励みになっていたことは間違いない。ただし、同時にこんな感情もあったという。
「『またいつの日か札幌で』という目標が支えになっていたことは間違いありません。でも正直、それをどれだけリアルに考えられていたかというと…」
確かにそうだろうなあ…、と思う。プロになって初めての契約満了。たとえ目指す未来が明確にあったとしても、それをすぐに現実的に捉えることはそんなに簡単なことではない。でも、石井は目の前のことに全力を注いだ。目指す未来がどこにあろうと、その達成のためにその日、その瞬間にやるべきことは何も変わらないのだから。
そして石井は純粋にこう考えたという。「自分を拾ってくれた愛媛のために全ての力を注ごう」と。そして「むしろ、そのことしか考えられなかった」。
今回の復帰についての話を聞いていくなかで、石井は「感謝」という言葉を何度も発した。札幌を契約満了となった自分に声を掛けてくれて、新たな活躍の場として身を置いた愛媛のすべてに対して。そして愛媛の地まで応援に来てくれた、あるいは忘れずに気にかけてくれていた札幌サポーターに対して。
「いろんな経験をすることができました。この5年間で選手としてだけでなく、人間としても成長できたような気がしているんです」
そうやって石井は笑顔で振り返ってくれた。でも、単なるいち取材者としては、人間としての部分については「大きな成長」とは感じない。なぜなら5年前に札幌にいたときから、この選手はすごくしっかりした青年だと思っていたから。だからこそ、愛媛でも活躍ができたのだろうし、遠く札幌の地からそれを願っていたサポーターも多かったのだとも思う。
「サポーターの方々が僕のことを忘れずにいてくれたことが本当にうれしいし、開幕戦のときも僕の応援歌をたくさん歌ってくれて、すごく心に響きました」
でも写真のように、5年前はものごころもついていなかったのでは? とも思われる年代の少年・少女からも石井はサインを求められている(お母さんの影響なのかもしれません)。以前からのサポーターだけでなく、新しいサポーターも着実に増やしている様子だ。
応援している選手が契約満了となってクラブを離れるというのは、サポーターにとってはとても寂しい出来事であるはず。でも、その選手の新天地となるクラブにも目が向くようになったり、そうやって興味を持つクラブが増えていくことで、もっともっとサッカーを楽しむ時間は増えているのではないだろうか。そして、今回のケースのように成長して古巣に復帰を果たし、以前以上に大きな声援を受けるというストーリーを目の当たりにすると、それらを外から眺めているだけの立場ながら、すごく晴れやかな気持ちになる。
プロサッカーにおいてサポーターの心を揺さぶる瞬間というのは、試合の中だけにあるわけではない。自分たちと同じ景色のなかで一生懸命にプレーする選手との出会いや別れ、そして再会もまた、何と表現するのが的確なのかわからないけれども、大切な瞬間だ。
以上
2014.04.11 Reported by 斉藤宏則
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