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【J1:第4節 甲府 vs 横浜FM】レポート:オッサンの穴はオッサンが埋める。リーグ戦3連勝中の横浜FMを35歳・石原克哉のゴールで止めて甲府が今季ホーム初勝利を挙げる(14.03.24)

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「盛田(剛平)、ぎっくり腰(正式には急性腰痛症)ですよ」
試合開始2時間くらい前、記者室ですれ違った知り合いの記者から聞いたときに返すことができた言葉は、「え〜」、だけ。体調が悪い訳ではないのに腰に「ピキッ」と突然の疼痛が走り、その後は全く動かすことができなくなることは経験としても知っているし、37歳のDF盛田が第2節から3−4−2−1のワントップでFWとして先発するようになった当初、年齢からくるイメージで良いコンディションが続くのかなと心配していたが、(連戦しても大丈夫なんや…)と思い始めてから間もないだけに、「え〜」となった。城福浩監督は、盛田がワントップ時にはシャドーに入れていたクリスティアーノを開幕戦と同じワントップに戻し、石原克哉をシャドーの左に入れて臨んだ。当日になっての盛田の離脱は痛いが、よく考えると、横浜FMは盛田のワントップでシミュレーションしたゲームプランを軸に置いているはずなので、横浜FMにとっても修正が必要な事態。シャドーにいるときに甘くなるクリスティアーノの守備の隙を狙っていたようだが、そこに入ったのはマングースのように喰いつく運動量豊富な石原。

もともと、盛田のワントップは彼の189センチという恵まれたフィジカルとコンディションの良さとFWとしての経験(FWとしてプロに入って7年間プレーし、DFに転向して9年目)と上手さに目を付けた城福監督が、宮崎キャンプから攻撃のオプションの一つとして取り入れてきたもの。しかし、3月7日にシャドーのジウシーニョがケガをしたために第2節からは盛田がワントップで先発し、クリスティアーノがジウシーニョのポジションに入って臨み、チームの攻撃は開幕戦以上に機能してレギュラースタイルに昇格していた。大雪災害などで開幕前から予定通りにいかないことが多かったが、今度も(なんとかなるかも…)という気がしながらも、開幕・鹿島戦の4失点のショックを払拭できているわけでもない。

横浜FMは今週の火曜日にアウェイでメルボルン・ビクトリーとACLを戦っているので、メンバーを大幅に入れ替えていたとはいえ、コンディション的には難しい要素が少なくないことはHPの“トップチームスケジュール”を見れば分かる。甲府戦のメンバー表を見れば、藤本淳吾はベンチにも入っていないし、齋藤学はベンチスタート。始まってみれば、甲府の右のシャドーに入っている急成長中・河本明人の積極性とクリスティアーノの味方にパスを出さないで無理目の状況でもドリブルでゴリゴリ行く感じが妙にフィット。これをアヴァンギャルドな戦術とは呼ばないだろうが、盛田が不在でも守備の堅さだけではなく、攻撃面でもパンチ力があることを見せることは出来ていたと思う。

歳を取ると白いカラスが見えるようにもなってしまうものだが、メンバー表の表記では「赤」となっているものの、自分には蛍光色のオレンジに見えるインパクト充分の横浜FMのユニフォーム。“背番号10”に何をされるのかとびくびくして立ち上がりから見ていたが、前半は甲府のボランチ2枚とシャドー2枚の献身的な守備で、上がっても下がっても中村俊輔には我慢の場面が多かった。お互いに決定的な場面も無く、ノートに書くことも大してないまま時間が過ぎて過去最低のページ消費量で前半を終える。甲府の堅い守備も90分は続かないので、後半になると中村へのマークが甘くなる場面が出てきて、ゲームが動きそうな嫌な予感が時間とともにしてくる。最初に動いたのは樋口靖洋監督で61分に齋藤を投入する。昨年は柿谷曜一朗(C大阪)、八反田康平(清水)ら2007年のU-17ワールドカップ(韓国)に出場したU-17城福ジャパンのメンバーにゴールを決められた印象もあり、齋藤に決められればU-17の恩返しゴールコレクションが増えそうで嫌な予感が加速。しかし、直後に決定機を迎えたのは甲府。62分、ラインを上げていた横浜FMのディフェンスラインの裏に35歳・石原克哉が抜けたところにパスが通り、ロングドリブルでゴール前に迫り、シュートを打つかと思ったら後ろから猛烈に上がってきたクリスティアーノにパス。しかし、このパスが前過ぎてクリスティアーノは勢い余ってゴールライン外の人工芝付近で転んでアンツーカーのところまでゴロゴロ。ケガをしなくて良かったが、「あ〜あ」となりそうな決定的なパスミスの場面。前節の新潟戦でも決定機に決められなかったことを気にしていた石原。結局は裏に抜けた石原がオフサイドで、試合後には正直に「オフサイドでよかった」と少し冗談ぽく話してくれた。

冗談ぽく言えたのは7分後の未来を創り出したから。後半は横浜FMが主導権を取る時間が長くなっていて、甲府の攻撃はカウンター以外ではなかなか決定機まで行けなかったが、横浜FMのパスミスから甲府に決定機が生まれた。プレゼントボールを貰ったマルキーニョス パラナが左に流し、中央でクリスティアーノが受けるとパンチ力があることを知っているディフェンダーが寄せてくる。そこでクリスティアーノは相手DFを引きつけてから、左サイドをフリーで上がってきた阿部翔平にパス。阿部はゴール前が混雑していたことは分かっていたが、ファーに石原が見えたのでワンタッチでディフェンダーの間にグラウンダーのクロスを通した。中にいた石原は「(クロスが)来るかも」と思っていたそうだが、ニュアンス的には来ない可能性が高いと思っている「来るかも」。しかし、本当にクロスが入って相手DFの足に少し当たりながらも通り、石原がシュート。ボールはGK榎本哲也の足に当たって跳ね返り、それを走りこんだ勢いのままゴールに詰める石原がもう一度足に当てると、今度はポストに当たり、その跳ね返りがさらに詰める石原の足に跳ね返ってゴールイン。シュートを打ってからも前に詰めて詰めて行った石原に、跳ね返りの神様が甲府一筋14年の労に報いたのか。運を引き寄せたこのゴールが甲府のJ1通算150ゴールだった。ちなみに甲府のJ1第1号ゴール(06年3月)は堀井岳也(現・甲府U-15コーチ)で、ともに県立韮崎高校OB。山梨サッカーの基礎を作った韮高サッカー部OBがいい所を持っていくようになっている。

石原の泥臭ゴールが決まって湧いた山梨中銀スタジアム。しかし、時間は68分。最低でも22分も残っていて、横浜FMがこれで勘弁してくれるわけはなく、アドレナリンが引き始めると不安がチラつき始める。84分頃にはダイナモ石原の両足がつってしまう。甲府は必殺の5−4−1で守りきろうとするが、ずっと守っている気分では身体と心の疲労は急速に蓄積する。中村クラスになると3人位で囲まないと止められない。城福監督は(佐々木)翔、(阿部)翔平とチームに2枚も“翔”がいるために、ゴローと呼んでいる大卒ルーキーの稲垣祥(Sho)を石原に代えて投入する。数分後、鋭い飛び出して横浜FMの決定機に繋がりそうなクロスをパンチングで何度か防いでいたGK岡大生のコンタクトレンズが身体接触で外れてゲームが中断。そして、再開後に出されたアディショナルタイムの数字は「6」。フレッシュな稲垣は必死に守備をするが、伊藤翔、藤田祥史、斎藤、富澤清太郎らが前線に張り、中村がボールを出す横浜FMの攻撃は恐怖。甲府にも2点目のチャンスはあったが、追い付かれる可能性の方が高い時間帯だった。記者席の後ろの選手席からは、ジウシーニョの「ストロンギ」、「ストロンギ」、「ストロンギ」の声が何度も聞こえてくる。甲府の選手がクリアするタイミングで聞こえてくるから、ポルトガル語で「強く」という意味だということはネコでも気がつく。6分が過ぎた頃にストップウォッチを見るとまだ2分しか過ぎていなかった。電池がなくなりかけてゆっくり動いているのかと思ったが、気が急いているだけ。ジウシーニョの「ストロンギ」を15回くらい聞いたところで、ようやく井上知大主審の試合終了を告げる笛を聞くことができた。

結果的に、盛田不在でもベースとなる戦い方を継続して勝つことができた甲府。これも昨年からの“継続”の強みだろう。これを“ケガの功名”と言ってはいけない。“棚から牡丹餅”でもなく、政治的も処世術的にも正しいのは“災い転じて福となす”であって“人間万事塞翁が馬”では堅過ぎる。次の仙台戦に向けて何が起こるか分からないが、やれる選手がベンチにもサブにもいることを確認できたことは自信になる。
横浜FMはACLに続いて悔しい結果。温厚で誰に対しても丁寧に接するイメージの樋口監督が、怒りを隠すことなく「つまらないゲームをしたという印象です」と、会見できつい言葉を使った。これがACLを戦う難しさなのだろう。残りのACLで3連勝することを心から祈るが、リーグ戦については齋藤が話した「連敗しないことが大事。切り替えます」が全てだろう。質の高い選手が揃い、リーダーシップを取れるベテランもいる横浜FM。4月2日に日産スタジアムで得失点差を稼いでメルボルンを倒せるような修正力に期待だ。リーグ戦はまだまだ第4節が終わったばかり。勝っても負けても次が大事。ただ、3連勝中のビッグクラブ・横浜FMにホームで初勝利を挙げた甲府のサポーターは水曜日辺りまでは仕事や学業や家庭に影響がない程度に浮かれましょう。

以上

2014.03.24 Reported by 松尾潤
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