サッカー界のみならず、世間一般にも広く注目を集めたＪリーグ史上初の無観客試合は、１ー１の引き分けに終わった。

出足が鋭かったのはアウェイの清水だった。ＤＦラインとボランチでボールを回しながら様子を伺い、前線のノヴァコヴィッチや長沢駿にボールが入ったら攻撃のスイッチをオンに。浦和の守備陣が戦前から警戒していたノヴァコヴィッチに加え、長沢の高さを生かしたプレーにも何かが起こりそうな雰囲気が漂っていた。

実際、先制点を呼び込んだのは長沢だった。18分、長沢がロングボールを頭で落とした流れから大前元紀がシュートを放つと、これはＧＫ西川周作のファインセーブに阻まれたものの、そのプレーで得たＣＫから長沢がゴールを奪った。

立ち上がりは躍動感に乏しかった浦和だったが、リードした清水が少し落ち着いたこともあって、段々とテンポアップ。後半から永田充と関根貴大を投入すると、さらに攻撃のリズムが良くなっていった。特にリーグデビュー戦となった関根の「自分の特徴はドリブルなので、それをアピールしないと自分じゃないと思っていた」という積極的に仕掛ける姿勢がチームに勢いをもたらした。

そして64分、指揮官が早くも３人目の交代カードを切って李忠成を投入し、原口元気をシャドーから左ウィングバックに配置換えすると、これが奏功してさらに勢いが加速。サイドからの攻撃で清水を押し込むと、76分についにゴールをこじ開けた。

右サイドでボールをもらった関根が、相手守備陣から次々とアタックを受けながらも粘り強く縦に突破。最後はバランスを崩しながらクロスを上げると、ゴール前の混戦から最後は原口が豪快に同点弾を叩き込んだ。

それにしても、ウィングバックに移ってからの原口の存在感は圧巻だった。元々、ワイドは自分の武器を最も発揮しやすいエリアだ。シャドーのポジションよりも得意のカットインに持ち込みやすいため、生き生きとした様子でドリブルを仕掛け、対峙する相手を翻弄してチャンスを作った。そして逆サイドの右では、ルーキーの関根が奮闘。浦和は両翼が勢い良く仕掛けることで、試合の主導権を完全に握った。

一方、清水は攻撃の形が思うように作れず、後半の45分間はシュートゼロ。そんななか、アディショナルタイムに六平光成がＧＫと一対一の絶好機を迎えたが、シュートは西川に阻まれ、ようやく来たワンチャンスを生かすことはできなかった。

試合は１−１の痛み分けとなったが、無観客という異例の試合はどちらのチームにとっても、改めてサポーターの存在の大きさを感じるきっかけになった。

原口が「やっぱりサポーターの力によって、突き動かされている部分が非常に大きいなと感じた」と語れば、杉山浩太も「試合の雰囲気や熱気が全く変わっていたし、サポーターのありがたみはみんな感じていたと思う」と話す。両チームの選手とも、普段いかにサポーターから力をもらっているか痛感していた。

「無観客試合になるのは、これが最後になることを願っています」というアフシン ゴトビ監督の言葉は選手、監督、サポーター、Ｊリーグを愛する全ての人々に共通する思いだろう。

以上

2014.03.24 Reported by 神谷正明