前線のプレッシャーに始まり、ボールを奪えばすかさず全体をせり上げていく。ウェリントンと大槻周平のゴールにより優位に立った湘南は、リードしてなお主導権を譲らない。試合終了は迫っていた。
その男がベンチに呼ばれると、スタンドはコールを待たずに反応した。あちこちで拍手が起こり、歓声が湧く。「ユウヤ!ユウヤ!ユウヤ!」――
トルコキャンプを前に、福島とのトレーニングマッチが開催された1月26 日、中村祐也は馬入グラウンドで行われた練習試合で実戦のピッチに立った。そのときもまた、多くのサポーターで埋まる馬入の土手は、喜びに沸いていた。
リハビリの日々を思う。
右アキレス腱断裂に見舞われたとき、当初は現実味がなかったという。実感は手術の際にやってきた。以来、楽しみに録画していた海外の試合も観る気になれなくなった。一昨年の夏、厳しい季節だった。
昨季の開幕前には、「痛みをなくして完璧な状態で復帰したい」と語り、「いまできるのは体をつくること」と、リハビリと筋トレにモチベーション高く取り組んでいた。自身の原点である浦和との戦いにも意欲を覗かせた。
思うようにリハビリが進まぬ時期に、監督の曹貴裁と話し込む姿もあった。「治療の浮き沈みが激しいなか、掛ける言葉も難しいはずなのに、前向きな声を掛けてくれてほんとうにありがたいですし、自分は何やってんだ、と」のちに中村は語った。いつまでも復帰を願っていると、曹は言葉を掛けていた。
――その男がベンチに呼ばれると、ロッカー前ではトレーナーの小嶋久義がすかさず反応した。「小川さん! 来た! ユウヤ来た!」。理学療法士の小川岳史は視線を走らせ、ピッチに向かう中村を認めた。ずっとリハビリを共にしてきた彼らは、目で追うばかりで次の言葉を続けることができなかった。
85分、コールと拍手と歓声とが響き、スタジアムを包んだ。「ピッチに入る前にサポーターの方々がいい雰囲気をつくってくれたので、感動というか、やっと帰ってきたという感じで入りました」。中村にとってホームのピッチを踏むのは1年9カ月ぶりのことだった。
這い上がる道のりを思う。
試合終了後、マイクを向けられた曹は、ゲームの総括とともに中村の復帰に触れた。語録がつくれるほど日頃から言葉が印象的な指揮官だが、中村についてのくだりだけは言葉になっていなかった。
以上
◆【J2日記】松本:もうひとつの物語を も、ぜひ合わせてお読みください。
2014.03.19 Reported by 隈元大吾
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