群馬がクラブに宿るすべてのチカラを結集させて今季初勝利をもぎとった。決してキレイな勝利ではなかった。だがクラブの未来にとって価値ある勝点３だ。新経営陣での初陣を黒星で汚すわけにはいかない。勝ちたいという強い思いが、技術で勝る東京Ｖを上回った。サポーターへ勝利を届けるために必死で闘い続けた群馬の選手たちは、J１規格に生まれ変わった正田スタのピッチで凱歌を上げた。

新設された大型ビジョンに映し出された最初のゴールは、エース平繁龍一の一撃だった。メモリアルゴールは最初のCKから生まれた。狙いは、東京Ｖのファーサイド。宮崎泰右がファーへと送ったボールを大外から回り込んだエデルが打点の高いヘッドで折り返す。ファーストターゲットだった小柳達司のヘッドはミートしなかったが、その背後に潜んでいた平繁のショットがゴールネットをせり上げる。平繁は「狙っていた形からのゴールだった」と喜びを爆発させた。

秋葉忠宏監督によると、得点を生んだセットプレーはコーチングスタッフのアイデアだったという。ゾーンディンフェンを敷く東京Ｖの盲点をみつけた群馬は、トレーニングで反復練習を繰り返した。そしてそれを選手たちが実戦で正確に遂行してみせた。東京ＶのGK佐藤優也は「ファーサイドの嫌な場所に入り込まれてゾーンの弱点を突かれた」と振り返ったが、群馬の先制点はコーチングスタッフのスカウティングの賜物だった。

序盤に１点をリードした群馬だったが、ゲームは簡単には進まなかった。若きタレント集団である東京Ｖのパスワークとハイプレスに圧倒されて、守備ラインがずるずると後退。ポゼッションを完全支配されて、いつゴールを奪われてもおかしくない状況へと追い込まれていく。「押し込まれる時間が続いてしまった」（夛田凌輔）。だが群馬には運があった。東京Ｖのシュートが２度もポストを直撃するなど運を味方につけて１−０で前半を折り返すことに成功する。

後半になってもゲームの大勢は変わらなかった。群馬は、時間の経過をとともに攻撃のウエイトを上げる東京Ｖに防戦一方。時折、前がかりになる東京Ｖの隙を突いてエデルを起点とした鋭いカウンターを仕掛けるが、決定機を決めきれずに追加点を奪うことができない。終盤は、高木大輔、前田直輝の惚れ惚れするようなドリブルに翻弄されてピンチの連続となった。だが表の守護神GK北一真の決死のセーブと、陰の守護神ゴールポストに守られて危機を回避、５分のアディショナルタイムも乗り切って逃げ切りを果たした。

東京Ｖはうまかった。才能あふれるティーンエイジャーが繰り出すパスワークで群馬を圧倒し続けた。だが不運にもゴールを割ることができなかった。開幕２連敗となった三浦泰年監督は「結果が出なかったことは残念だが、自分たちの目指すサッカーはみせられた。辛抱強く戦うことがチームの成長につながっていく」と強調。群馬まで駆けつけた東京Ｖサポーターは試合後、選手たちに力強いエールを送り、チームの方向性を支持した。東京Ｖがどんな進化を遂げるか興味深い。

初勝利を上げた群馬だが、開幕２節目で勝点３を奪ったことはチームにとっての大きな自信となる。だがこの先のシーズンを乗り切るには多くの課題が残る。秋葉監督は「勝ったことが唯一の収穫」と語ったが、このままでは険しい道のりが続くことは間違いない。重要なことは勝利に甘んじることなく、危機感と緊張感を持ってこれからの戦いへ臨むこと。今日の勝利は、明日への一歩。ホーム正田スタの大型ビジョンに、さらなる夢を描くことが群馬のタスクだ。

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2014.03.10 Reported by 伊藤寿学