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【J1:第2節 広島 vs 川崎F】レポート:優美な技巧。豪快なパワー。ふたつのゴラッソが川崎Fを沈め、広島が逆転で20年ぶりの開幕2連勝(14.03.09)

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スーパーゴールは、媚薬である。

美しいゴールが、強烈なシュートが戦いの局面を一変させてサポーターの全身を刺激が貫き、スタジアムを興奮のるつぼにたたき込む。「さあ、いこう」「もっと、いこう」という思いを充満させ、身体中にアドレナリンを発散させる。

たとえばそれは、佐藤寿人が放ったウルトラ・ドライブシュートだ。

ビデオで何度も見返した。そのたびに絶句し、そしてため息が出る。どうしてあの軌道のボールが、ゴールネットに吸い込まれていったのか。物理学者であれば様々な角度から科学的論証を行ってくれるのだろうが、その現象を一瞬の判断で、佐藤寿人という人間の左足が実現したことが信じがたい。
広島らしいゆったとしたパス回しから、ミキッチの突破。さらに野津田岳人・青山敏弘の1タッチパスが続いて、ボールはエースの足下へ。バウンドを利して左足で浮かし、その勢いを使いながら腰を使っての反転。しなるようにスイングされた左足がボールをこするように振り切る。
フワリとあがった。野津田岳人は「ちょっと大きいか」と思ったという。その想いは、エディオンスタジアム広島に集まった1万6176人も、テレビの実況も解説者も記者席も、シュートを撃った瞬間は「決まる」という予感を感じなかったはずである。
ところが、フワッと浮き上がったボールが放物線の頂点に達すると、強烈なドライブ回転がかかってストーンと落ちる。呆然とするGK西部洋平は、そのボールがネットの中に吸い込まれるのを見つめるしか、術がなかった。
前半アディショナルタイム、中村憲剛の「そこを見てるか」というスーパーパスから小林悠が2試合連続得点をたたき出した。この川崎Fの先制点は、中村の創造力とチームとしての球際の粘りが生み出したハイクオリティなもの。だが広島は、ハーフタイムで互いの意思を確認しあい、失点の屈辱と「攻撃に出よう」という青山敏弘主将の檄によって闘志を燃え上がらせた。後半の入りからアグレッシブに前に出て、次々と決定的なチャンスを創出。スタジアムは爆発寸前の風船のように期待感が膨らんでいた。そこに飛び出したエースのスーパー・スーパーゴール。風船は破裂した。歓声が歓声を呼び、叫びは雄叫びとなった。

さあ、逆転だ。もっと、もっと、ゴールをくれ。

圧巻の攻撃を繰り返す広島。防戦一方の川崎Fは64分、疲れが見えた稲本潤一に代え、パウリーニョを投入し火消しに努める。その風間八宏監督の采配は、当たった。的確なポジションどりと球際の強さで、広島の攻撃を封じ込めるパウリーニョの働きで、ホームチームの攻撃はスローダウン。しかし、アウェイチームの反撃も空を切り、試合の空気は「引き分けやむなし」の方向へと傾いた。

だが、その空気を一変させたのもやはり、スーパーゴールという強烈な媚薬だった。

千葉和彦の攻撃参加をきっかけにチャンスをつくり、高萩洋次郎へのジェシのアタックがファウル(退場)になった後半アディショナルタイム。ペナルティエリア直前のFKを狙ったのは、塩谷司だ。昨年、アウェイの柏戦でも強烈なFKで決定機を演出したDFは、ただ強いボールを蹴ることだけを意識した。壁の中には、石原直樹・青山敏弘・山岸智がいて、彼らが青い壁を押し広げるように横へと動き、穴ができた。
圧巻の右足。ネットを突き破り、そのまま広島の青空に吸い込まれてしまいそうなほどの強烈さ。佐藤寿人が大空翼的なドライブシュートであるならば、塩谷の豪快さは日向小次郎のタイガーショットのよう。どちらも、まるでアニメの世界から飛び出したかのようなゴールの競演は、サッカーの醍醐味を存分に味あわせてくれた。

前半のラストプレーで先制するという理想的な展開だった川崎Fだが、持ち前のコンビネーションプレーが特に後半は機能せず、大久保嘉人やレナトも広島の攻勢の前に輝きを失った。それでも、青山の決定的なシュートをはじき返したジェシを中心に戦いぬき、勝点1までわずか数分というところまでは迫った。だが、希望を打ち砕いたふたつのゴラッソには、風間監督も「運がないと考えた方がいい」と苦笑いを浮かべるしかない。次はアウェイでのACLが待っている。敗戦を嘆く暇はない。

広島の選手たちも、勝利の余韻に浸る時間はない。すぐに広島から成田に移動し、夜にはオーストラリアへ向かう飛行機に飛び乗った。スーパーゴールは確かに媚薬だが、その薬の効果はすぐに消える。自らの足下を見失わず、刺激を本当の力に変えていく努力を継続する必要がある。その上で、Jとは違った意味での厳しい戦いが待つACLの戦いで、2014年の広島の本質を証明したい。

以上

2014.03.09 Reported by 中野和也
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