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【J2日記】熊本:次の1歩。(13.12.16)

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名古屋での出場は無かったが、Jリーガーとしてのキャリアは、J2で121試合に出場。2010年26節、アウェイ甲府戦でのJリーグ初得点が唯一のゴールだ

15日のイベントでは、サポーター1人1人と丁寧に接した

この笑顔こそ、筑城和人の魅力

今シーズンの最終節、神戸戦のあとのミックスゾーンでのことである。思い返してみれば、たしかに歯切れは悪かった。ひと通り、試合と今シーズンを振り返ったあと、気遣いの無いライターが「来シーズンに向けてオフの間はどう過ごすか」という無神経な質問を投げかけても、精一杯に思慮を巡らせて、悟られないようにこう答えている。
「あのー、頭の中をしっかり、整理したいと思います」。
既に彼自身の中で決意は固まっていた。それでもやはり、気持ちの整理は必要だったのだ。

熊本は15日、DF筑城和人の現役引退を発表した。毎年恒例となっているシーズン終了後のイベント当日にリリースされたこの知らせは、多くのサポーターにとってあまりに突然で、そして衝撃的なものだったに違いない。イベント取材のために会場へ着くと、福王忠世へ贈る横断幕にメッセージの書き込みを促していた顔見知りの女性サポーターと目が合ったのだが、言葉を交わさずとも気持ちが伝わってきて、目頭が熱くなった。
「最終的に決断したのは横浜FC戦(41節)のあとですね。自分自身、今年1年は勝負の年と位置づけてプレーしてきたんですけど、チームとしても個人としても結果を出せなかった。横浜FC戦では、アディショナルタイムに自分の前で決められてるんです。今まで守備をアピールポイントとしてやってきたのに、今年は特に自分のところでの失点が多かった。ちょっと早いかもしれないけど、このタイミングかなと」

右も左もこなせるサイドバックは貴重だし、上背はなくても玉際に強くストッパーもできる。何よりピッチで戦える。まだ全然やれるのに、と思う。だがギリギリのところで勝負しているアスリートにとって、最も信頼できるのはやはり自分の感覚。彼が下した決断は、周囲の第三者が感情で覆すことができるほどに軽いものではない。

15日に行われたイベントでは、いつも通りの人なつこい笑顔でサポーターと接したが、突然の発表だったこともあって彼の元を訪れる人が後を絶たなかった。1人1人に丁寧に対応する姿からは、彼の人柄の良さが伝わってくる。冒頭の挨拶でも、イベントの最後に設けられた、退団選手からひと言ずつコメントする時間でも、まずはシーズンを共に過ごしたサポーターへ感謝の言葉を述べて、自らの引退に関する報告は後回しにする。そうやって、選手としてのキャリアを積み重ねてきた。
「忘れられないのは、名古屋での2年間です。試合に出られない焦りと情けなさ、悔しさがあって、このままではダメだと気付いた2年間でした。そうした中で先輩達に支えていただいた貴重な時間だったと思います。熊本での4年間では選手会の支部長も務めさせていただいて、たくさんのことを経験させてもらいました。ロアッソ熊本は魅力があるし大好きなので、このチームの力になりたいという気持ちが強いです。自分は、いつも試合に出ていた選手ではないから、悔しさや葛藤も味わって、試合に出続けている選手には分からないことも少しは分かる。そういう経験を生かして、サポートしていけるんじゃないかと思います。チームに貢献できなかったのに、たくさん声をかけていただいた名古屋のサポーター、1年しか在籍していないのに対戦時には拍手をしてくれた徳島のサポーター、そしてうまくいかないときも変わらない応援をしてくれて、選手とともに熱い想いで戦ってくれた熊本のサポーター、皆さんに対して、ありがとうを何回言っても足りないぐらい、感謝の気持ちでいっぱいです」

今シーズンは北嶋秀朗の引退や福王の契約満了等があり、シーズン中に決断していたにもかかわらず自分の件に関するリリースは先送りになった。
「(北嶋)秀朗さんはサッカー界の大功労者だし、(福王)忠世はチーム創設時からいるMr.ロアッソです。そんな2人だから、サポーターの方にも納得してもらえる形で送り出して欲しいと思っていたし、自分もそう思ってました。僕はそんな貢献もしていないし成績も残せてないから、タイミングは確かに難しかったですね(笑)」
貢献していないと話した部分については賛同しかねるが、そうした気遣いができるのも彼の魅力。
「両親も自分の決断を尊重してくれましたし、今まで支えてくれた家族にも感謝しています。12月6日に、高校や大学の試合も見に来てくれていたお婆ちゃんが84歳で亡くなったんですけど、サッカーをしているところを最後まで見届けてもらえて良かったなと思ってます」

来シーズンからは強化スタッフとしてクラブのフロントに入る。年末年始は郷里の静岡に帰省し、会社が始業する1月7日に熊本に戻ってくるが、翌8日からはC級ライセンスの資格取得のためにふたたび静岡へ行くことが決まっており、選手時代よりも間違いなく忙しい日々を送ることになる。立場上、他の選手達との接し方にも気を使わなくてはならなくなるのが目下の気がかりのひとつで、「今までと同じようにはいかないし、距離感が難しいかなと思いますね。(一緒に出かけることの多かった)クラ(藏川洋平)さんなんかは、『(原田)拓も結婚したし、俺、どうすりゃいいんだよ』って言ってますね」と笑った。

7年というプロ生活を経て踏み出す次の1歩。大変なこともあろうが、常に周囲に気を配りながら自分と向き合ってきた彼なら、きっとうまくいく。お疲れさま、そしてこれからもよろしく。

以上

2013.12.16 Reported by 井芹貴志
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