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【J1:第34節 川崎F vs 横浜FM】レポート:躍動した2人の中村と、勝負を決めた予測。優勝をかけた横浜FMに川崎Fがリベンジを果たし、手にできるすべての成果を手にシーズンを終える(13.12.08)

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レナトが決めた54分の決勝点は“2人の中村”が交わった一点でのプレーに端を発したものだった。川崎F・中村憲剛が振り返る。
「シュンさん(横浜FM・中村俊輔)とは長くやってましたし、癖というか、あそこで左に持ち出すと思ったので、先読みしました」

中村俊輔が保持するボールに対し、中村憲剛が予測を踏まえたアタックを見せ、ボールを奪う。そこからリズムよく3本のパスをつなぎ、再び中村憲剛の元にボールが帰ってきたのは横浜FMのゴール前だった。中村憲剛は中澤佑二を引きつけた上で狙いすましたパスを大久保嘉人に通すと、その大久保がミドルシュートを放った。「とりあえず枠に飛ばそうと思って。それでブレさせようと思って蹴りました。狙い通りでした」と大久保。大きくブレたシュートだったこともあり、GK榎本哲也は弾くのが精一杯で、このこぼれ球を拾った大島僚太からの折り返しをレナトが落ち着いて決めた。

54分のこのゴールによって、横浜FMは追い込まれる。試合後の会見で樋口靖洋監督が述べるには、「ハーフタイムが終わってグラウンドに出る時に、俊輔には現状として、こういう状態だと」広島のリードを中村俊輔に伝えていた。広島がリードしているということは、すなわち横浜FMが優勝するには勝つしかない状況だということを示していた。

樋口監督は、67分に中町公祐に代え藤田祥史を投入する。この交代采配を皮切りに樋口監督は攻撃的な選手をピッチに送り続け、その都度ピッチに入る選手たちに広島の得点経過を言い含めていた。
「時間の経過とともに、動き始めた時は交代選手に中に必ず(広島の経過を)伝えなさいと。あるいは、負傷で試合が止まった時には俊輔には伝えていました」(樋口監督)

川崎Fが悪くなったわけでも、横浜FMがよくなったわけでもない。ただ、心理バランスの変化と、横浜FMが86分ごろから栗原勇蔵を前線に上げパワープレーを選択したことにより、終盤の川崎Fは押し込まれた。
逆の見方をすれば、横浜FMが枚数をかけて攻めてくるということは、川崎Fにとっては絶好のカウンターのチャンスでもある。そういう意味で、川崎Fが横浜FMの息の根を止める追加点を奪えなかったのは今後の課題だった。特に足をつらせた大島に代わり、71分に途中交代出場した小林悠が再三に渡りチャンスに顔を出していただけに、自らを苦しめた試合運びをしてしまったのは今後の修正点である。

川崎Fにとっての、今季等々力での公式戦最終戦も残すところ数分となる中、川崎Fサポーターが待ち臨んだ瞬間が訪れる。87分のこと。レナトが競り合いの直後に足をつらせピッチ上に倒れこみ、そのまま担架でピッチ外に出される。そのレナトに代わり、ベンチが伊藤宏樹を送り出したのである。
「入った瞬間に泣きそうになりました。こんなにいい状況で、サポーターも入る時に盛り上がってくれましたしね」とその瞬間を振り返る伊藤。「何もできなかった」と自らのプレーを振り返る伊藤ではあるが、ケガによる戦線離脱から今週復帰したばかりだということを考えれば、十分に胸を張れるパフォーマンスだった。

表示された5分のアディショナルタイムの時間内には、危険な場面もあった。CK時には榎本が攻撃参加し、マルキーニョスのヘディングシュートがポストを叩いた。ゴール正面からの中村俊輔のFKを西部洋平がきわどくはじき出すという場面もあった。ただ、川崎Fはそれらすべての攻撃を凌ぎ切り、勝点3を上積みした。他会場では、ともに敵地で戦った広島とC大阪が勝利し、川崎Fは最終節で3位に滑り込む。信じられないような逆転劇の末、ACLの出場権を手にしたのである。
試合中にスタッフに他会場の経過を聞いていたジェシは誰よりも喜びを表していた。妻のアンドレイアさんの病気療養のため、シーズン中にブラジルに帰国していたジェシは、そのアンドレイアさんに「もしタイトルを取れなくても最低限ACLの出場権を取るよう」頼まれてチームに復帰していた。リーグ戦もヤマザキナビスコカップのタイトルも逃していたジェシは、奥さんとの最低限の約束を果たし、喜びを爆発させた。
26ゴールを決めて得点王を獲得した大久保嘉人は、それまで元気に受け答えしていたヒーローインタビューの最中に、突如として言葉をつまらせ、絶句した。大久保が溢れ出る涙を止められなかったのは、今年亡くした父・克博さんへの思いを尋ねられたから。遺言書とも言える克博さんの遺書に記された日本代表への思いに奮起した大久保は、得点王に対して猛烈なこだわりを見せていた。大久保は「もし得点王を取れたらいい供養になる」と常々語っていた。まさに有言実行し、亡き父に個人タイトルを捧げることとなった。
笑顔でACL出場権獲得を喜んでいた中村憲剛も、期せずして涙声になった。11年間を共に過ごしてきた伊藤の現役最後の等々力でのプレーについて聞かれた時だった。涙を抑えながら中村は「途中から出てきてキャプテンマークを渡そうかと迷ったんですが、このあと渡します。宏樹さんとやる最後の等々力だったので勝てて良かったです」と話した。
中村憲剛に限らず、川崎Fの選手たちは伊藤に最後の等々力のピッチに立ってほしいと願っていた。結果的に1−0という際どい点差ではあったが、勝っている状態で伊藤をピッチに迎え入れ、そしてそのまま勝利の瞬間を迎えられたのは望むべき最良のシナリオだった。川崎F一筋13年の伊藤を勝利で送り出せたことを誰もが喜んだ。その伊藤は、試合後に1人スタジアムに残り、21時ごろまでサポーター1人ひとりと言葉を交わした。そうしたお別れ会に多くのサポーターが残ってくれたことを感謝しつつ、号泣するサポーターもいて「もらい泣きしそうでした」と述べている。

そして喜びに沸くホームチームを尻目に、ひたすら号泣したのが中村俊輔だった。自力優勝の可能性を手にし、勝てば優勝できた最終盤の2連戦で2連敗し、タイトルを逃す。その責任を背負い込むかのように、人目も憚らず泣きじゃくった。
そんな中村俊輔を見て、ふと思った。喜ぶ川崎Fが3位で、敗れながらも横浜FMは2位でシーズンを終えたということ。今季の川崎Fはシーズンの目標をACL出場権と定めていた。そういう意味で目標を達成したことを喜ぶのは自然な感情である。ただ、横浜FMが最終節まで優勝を争っていた一方で、川崎Fの3位という順位が最終節にして到達した今季最も高い順位であることを忘れるべきではない。
来季、もし再び最終節で相まみえるとして、その時は“勝ったほうが優勝”という大一番であってほしいと思う。いずれにしても、タフな相手とのタフな試合を勝てたからこその喜びである。そうした試合を戦ってくれたことに感謝しつつ、常にライバルに対するリスペクトは忘れないでいたい。

6戦3分3敗でシーズンをスタートさせた川崎Fは、一時最下位に沈む序盤戦を戦っていた。そして1年を掛けてピッチ上の選手たちが能動的に戦い方を変化させるまでの成長を見せている。ここまでの成長を土台にして、来季こそは序盤から上位戦線で戦ってほしい。中村俊輔の涙は、最終節まで優勝争いに関わった選手だからこそのものだ。最終節に勝利した川崎Fは、最終節の時点で手にできるすべてのものを手にした。それでも3位である。勝って兜の緒を締めよ。まずは残された最後のタイトルである天皇杯へと切り替えたい。

以上

2013.12.08 Reported by 江藤高志
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