「チームとして今季の中で一番充実していた１週間だった」と神戸の安達亮監督は試合後に振り返った。先週の天皇杯でＣ大阪に０−４と大敗し、そこからの１週間についてのコメントである。具体的には「（選手、スタッフを含め）ヘタすると取っ組み合いのケンカになりそうな感じで意見を交わし合っていた」（安達監督）そうである。
Ｃ大阪戦ではＪ２首位という立場で挑んだ。橋本英郎が「（首位という現状に）勘違いしていた部分もあったと思うんですけれど、そこをセレッソが木端微塵に砕いてくれた」と言うように、おごりはないが、見えない油断のようなものがあったのかもしれない。それまでもＪ１では自分たちがどの程度の位置なのかがつかめないままＪ２リーグは進み、不安と期待が交差する中、現実は不安が的中した格好となった。そのリアルを受け止め、神戸は松本戦に挑んだ。「決勝戦のつもりで」（岩波拓也）。

前半の立ち上がりは、Ｊ１昇格プレーオフ進出を狙う松本が、多くのサポーターの応援を背にして何度かチャンスを作った。５分過ぎには３−５−２の２トップの一角に入ったホドリゴ・カベッサの仕掛けを機に、右ワイドの玉林睦実がクロスを中央へ供給。それをMFの喜山康平がシュートまで持ち込む決定機もあった。約９分には喜山のフィードで抜け出したFW塩沢勝吾が豪快なシュートも放っている。いずれも神戸の守備陣に阻まれたものの、流れはどちらかと言えば松本にあった。

だが、11分の神戸・森岡亮太の技ありゴールで潮流は一変する。右サイドのマジーニョから中央の小川慶治朗を経由してつながった難しいパスを森岡が見事なトラップで抜け出すと、キックフェイントで相手DFを置き去りにし、より確実性の高いエリアまでボールを運んでから左足を振り抜いて先制点を叩き込んだ。森岡はこのシーンについてこう振り返っている。
「流れも入りもよくなかった中で、自分で最後のところで何人か外してシュートを決められたらなあと試合前から意識して入っていたので、それがカタチになって結果的にゴールになったのは良かった」
40分には岩波が松本のホドリゴから厳しいプレッシングでボールを奪うと、それを森岡がゆっくりとドリブルで前へ運び、相手DFの裏へ走り込んだポポへ長いスルーパスを通す。それをポポが豪快に右足で叩き込み、追加点を挙げた。前半だけで１ゴール１アシストの活躍をみせた森岡については、松本の反町康治監督も「彼が入ってから神戸はつかみどころがないチームになったというのはありますね。どこのポジションをやっても相手のプレッシャーを上手く跳ね除けるテクニックとワンタッチの力がある」と褒めるしかなかった。

とはいえ、むしろ大勝劇はこの後からが本番だった。58分にはエステバンのフィードを前線に上がっていた岩波が頭で落とし、最後は河本裕之が見事なオーバーヘッドキックで松本ゴールを揺らす。このド派手な一発で勢い付いた神戸は、62分にポポのミドルシュートのこぼれ球に反応した小川が４点目を押し込み、67分に杉浦恭平のシュートがバーに当たった跳ね返りを橋本が詰めて５点目。71分には杉浦が相手DFの裏へ飛び出して６点目、82分には田代有三のヘディングでの折り返しに相馬崇人が走り込んで７点目を挙げた。終わってみれば、リーグ戦でのクラブ新記録となる１試合７ゴールの快勝。しかも、全て得点者が異なるという結果。ずば抜けた１人に頼るのではなく、まさに全員でつかんだ大勝だったと言えるかもしれない。
これで神戸は首位をキープ。３位の京都が同節で劇的な逆転勝利を収めたため、Ｊ１自動昇格の行方は11月３日の直接対決（＠ノエスタ）に持ち越された。だが、小川が「今日みたいな試合を続けていくことが大事。満足している選手はいないと思います」と話すように、この快勝に浮かれている選手は一人もいない。11月３日も一つの通過点に過ぎないのかもしれない。

一方、順位を１つ落として８位となった松本だが、まだ６位との勝点差はわずか６。今節は大差で敗れたものの、反町監督が「下を向く内容ではない」と言い残すように、決して悪い出来ではなかった。何かが少し噛み合なかったに過ぎない。試合後に涙を見せた岩上祐三は「自分自身の力のなさと、ここまで来てくれた多くのサポーターの声援に応えることが出来なかったので泣いてしまった」と振り返る。この気持ちがいい潤滑油となって、次こそは結果につながることを期待したい。７失点しても諦めずに走り続けた選手たちのためにも。

以上

2013.10.21 Reported by 白井邦彦