天皇杯3回戦による中断が明け、残り6試合となったリーグ戦が再開する。
大宮は先週末の天皇杯に引き続き熊谷での開催となり、迎えるは大分。両者ともチーム状況は良くない。第18節以降の後半戦の成績を見れば、大宮は1勝0分10敗で現在4連敗中。大分は0勝2分9敗で6連敗中、前節ついにJ2降格が決定した。ただ両者ともに、苦戦しながらも天皇杯では勝ち残った。「この1勝は自信になる。リーグ戦につなげたい」というキャプテン菊地光将の言葉は、大宮はもちろん大分のすべての選手に共通した思いのはずだ。
大宮の自信は、天皇杯でJ2とはいえ強力なG大阪の攻撃陣を延長含め120分間無失点に抑えたことにある。「しっかり前からコンパクトにして、プレスに行くところは行ってくれるから、ラインを整えたり駆け引きしやすかった。前も後ろも、全員でやった結果」と、菊地は胸を張る。特に和田拓也と高橋祥平のボランチコンビが、試合を重ねるごとにフィットしてきていることが大きい。「走り回る和田と、ある程度構えて足元に厳しく行く祥平、2人の阿吽の呼吸が出てきた。良いときの(前半戦のレギュラーで今は負傷離脱中の)青木と慎(金澤)のコンビに似ている」と、ゴールマウスを守る北野貴之も2人の成長を感じている。
大宮の課題は、同じく120分間無得点に終わった攻撃だ。ノヴァコヴィッチとズラタンを代表招集で欠き、確かにチャンスは作ったが、そこを決められなかった。小倉勉監督は「緊迫したゲームでは、なかなかゴールは決まるものではない。(フィニッシャーの)質で決めるのか、量(チャンスを増やすこと)で決めるのか? 両方持っているのが一番良いが、そこを考える必要がある」と、決定力について持論を展開した。
質ならば、幸いにしてノヴァコヴィッチとズラタンは試合前日からチームに合流する。ただし、同様に代表招集から帰日2日後に強行出場させた9月の新潟戦では、2人のパフォーマンスが低調に終わっている。同じ轍を踏むよりも、よりフレッシュな長谷川悠、富山貴光、鈴木規郎らを起用したほうがチャンスの数自体は増やせるかもしれない。「日本人の選手たちも量的には多くのチャンスを作っている」と指揮官も彼らを信頼しているし、守備においても言葉がスムーズに通じる日本人を起用したほうが、天皇杯でのように意思統一がしやすいメリットもある。小倉監督にとって難しい判断を迫られるだろう。
大分は天皇杯で、それまで田坂和昭監督が頑なにこだわってきた3バックを捨て、4バックの布陣を敷いた。「J1で4バックでは個でやられてしまう部分があったが、トリニータの未来を考えるならば4バックも導入しなければならない」(田坂監督)という決断だった。ただ、対戦した新潟の柳下正明監督は、「チャンスはたくさん作れたし、むしろやりやすかった」と言う。実際、新潟のシュートは90分で9本と、大分の3本を圧倒した。しかしチャンスに決めきれず、「向こうはうちを0に抑えていたことで、だんだんと自信を持ってプレーできたと思う。引いた相手にうまく攻撃を組み立てられなかった」(舞行龍ジェームズ)ことで、新潟は延長に持ち込まれ、大分はねらっていたショートカウンターから決勝ゴールを奪った。
「個でやられても、組織としてしっかり絞る、チャレンジ&カバー、アプローチを激しく行く、原点に戻ってやった成果」だと、田坂監督は強調する。「クラブの未来を考えて」のサッカーで天皇杯に挑み、結果を出した以上、残留争いの関係なくなったリーグ戦でもそれを継続すると考えるのが自然だろう。4バックでの守備の質を高め、攻撃は「3バックと同じコンセプト」(田坂監督)を継続。流れてくるトップと攻撃的MFがサイドで数的優位を作る、ここまで磨いてきた大分らしい攻撃を結実させたいところだ。
主導権を握るのは大宮か。とはいえ大宮が天皇杯でのようにチャンスを逸し続ければ、大分が天皇杯でのようにワンチャンスをモノにして勝利を奪う可能性もある。大宮は自身が堅守速攻型だけに、守りを固めてカウンターをねらう相手を苦手としている。大宮にとっては、大分がまだ残留の可能性を残しているほうが、是が非でも勝点3を取りに攻撃的にこなければならないぶんだけ戦いやすかったかもしれないが、ともかく大分の4バックを崩すことが今は求められる。今週の練習では、中央からの崩しの形のほか、クロスのタイミングと精度、クロスに対する入り方の確認に時間をかけた。その上で、質か量か、いずれを指揮官が選ぶか注目だ。
ちなみに大分は通常よりも1日早く、試合前々日に敵地に移動している。前日練習を非公開としているが、先週の大宮vsG大阪の試合では両チームの選手が慣れない芝に滑りまくっていただけに、熊谷で前日練習を行うのかもしれない。アウェイ連戦の疲労とともに、芝への対応も考慮したとすれば、大分がこの試合をいかに重要視しているかがうかがえる。
いずれにしても、大分は既に来季を見据え、大宮はチーム目標の勝点53の達成へ、ここで勝点3を得てチームを上向かせたい事情は同じ。「勝ち続ければチームは変わる」(菊地)、そのことを大宮はもちろん、昨年J2を勝ち上がった大分も、選手たちは知っている。それだけに、天皇杯と合わせてとはいえ、何としても公式戦連勝を挙げたい。切実な戦いとなるだろう。
以上
2013.10.18 Reported by 芥川和久
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